
ラトナ・プティが“憧れのヒーロー”と共闘を果たすまで にじさんじの冒険家が歩んできた旅路を振り返る
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。 【動画】“ディスコ退出争い不敗”の関優太に対し、王手をかけるラトナ・プティ メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。 育成プロジェクト・バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)から多くのメンバーもデビューしており、現在約150名のメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さで今後も大きな影響を与えるだろう。 今回紹介するのはラトナ・プティだ。2019年8月8日にTwitterで初ツイート、8月13日にYouTubeで初配信を行ない、無事にデビューを飾った彼女。これまで本連載で紹介してきたにじさんじのタレントと同じく、これまでの活動でさまざまなエピソードを生み出してきたライバーだ。 オレンジ系統の髪色と瞳をしており、頭には獣耳、お尻からは尻尾が生えている。一見すると獣人のようにみえるが、デビューから現在まで一貫して「レッサーパンダ」を自称している。 リスナーや初対面の相手からは色合い・獣耳・尻尾などの特徴から「タヌキ」と間違われることがあるが、「タヌキじゃないです! レッサーパンダです!」としっかり指摘することも多々ある。 本人いわく、じつはにじさんじのオーディションには2度落ちており、3度目に受けるときには「会社の面接のような姿勢で落ちたから、良い子ぶるのを止めて、そのまま喋りまくった」ところ、見事に合格したという。 当時のオーディションは動画を自分で制作、送付するところまでが1次審査。彼女が制作したのは「通話アプリを使い、にじさんじをハイテンションでPRする」といった内容なのが、また彼女らしい。 声色は少々高めであるが、吐息を多く入れ込んだ発声にくわえて、ゆったりとした会話のテンポもあいまって特有の柔らかさを感じさせてくれる。そんな自身の魅力を押し出し、デビュー当初はバイノーラルマイクを活用したASMR配信を数多く行ないその声色・質感を存分に活かして「人肌を感じさせるような癒し」空間を生み出してきた。 YouTubeが一時、動画/配信のガイドラインを厳格化した際にメインチャンネルがBANされてしまい、サブチャンネル「プティASMR」を開設。こちらのチャンネル登録者数は10万人に迫るほどであり、にじさんじにおけるASMR配信といえば、鈴木勝・小野町春香よりも彼女の名前を出すファンも多い。 そんな彼女だが、実はここ1年ほどはあまりASMR配信を行っていなかったと。2023年5月10日の配信中、リスナーから「なんでASMRやらないんですか?」と問われ、「逆になんでやらないと思う?」と逆に問いかけつつ、以下のようにフワっと答える一幕があった。 「(コメントを見つつ)まぁ忙しかったのはマジだな。まず大変忙しかったこと、やったら枠がバグること、そもそも夜めっちゃ眠いこと……それが一番かなぁ」 この5日後に今年に入って初めてのASMR配信をすると、「久しぶり」「ここが実家」「懐かしい」とコメントが相次いだ。 ・親しい仲間に見せる、自由奔放でイタズラ好きなラトナ・プティの姿 彼女は『Apex Legends』『Overwatch』といったFPSジャンルのゲームを非常に得意としており、これまでの活動を通じてさまざまな企画・大会にも積極的に参加し、友人を増やしてきた。 人見知りな一面がありつつも、仲良くなるにつれてマイペースな一面が徐々に露わになってくるようで、デビュー以前から長きに渡ってオンラインの対人タイトルをプレイしていた影響もあり、遠慮のない口調が飛び出すことも多々ある。 チーム「なんもしてねぇ」として『VTuber最協決定戦』に出場、みごと優勝したメンバーであり、一緒にプレイすることに憧れていたという勇気ちひろ。同じマンションに住んでいたこともあり公私ともに仲の良い本間ひまわり。ゲーム遍歴が似ており企画・大会で一緒になることが多い奈羅花。別事務所・ぶいすぽっ!所属ながら「マイペース」な部分で共鳴した戦友・一ノ瀬うるはなど。 2019年8月から現在に至るまでに、親しくなったメンバーがいる場では、より素の内面が顔を覗かせやすいようだ。ここ最近では「人となりを知っていて、プロレスを仕掛けても大丈夫そうな優しい人」が相手であればためらうことなく口撃(もちろん“配信芸”として)することも増えているほどだ。 初配信の際、彼女が「丁寧な言葉を沢山覚えてきた!」と切り出していた辺り、今にして思えばデビュー当初から「自分の口の悪さを薄々自覚していたのでは?」などと勘ぐってしまいそうになる。 もちろんこれらは仲の良い相手だからこそという前提があってのコミュニケーションであるが、ゲーム中に一緒にプレイする相手と煽り合ってじゃれ合ってみたり、斜め上の視点や鋭い言葉選びによるエッジの効いた発言の数々は、少し先にデビューしていたアルス・アルマルにも通じる部分だろう。 こうした姿は配信を通じてリスナーの目にも触れる光景ではあるが、プティ本人の口や親しいライバーらから明かされる彼女の配信外の姿・エピソードからは、より一層マイペースな彼女の振る舞いを知ることができる。 そのマイペースぶりは配信スケジュールにも表れており、定期的な配信枠を設けず、早朝4時、昼過ぎ、ときには深夜に突然配信を始めたりと、そのペースはバラバラだ。「寝れないから配信する」と口にして、深夜から早朝にかけてゲームをすることも度々ある。 こうしてみるとマイペースどころか自堕落な人物に見えてしまうかもしれないが、その自由奔放な性格・言動、思いついてパっと行動するイタズラ好きな一面は、彼女が素の姿でいられる証左でもあり、それもまたラトナ・プティの魅力といえよう。 ・深い『Overwatch』への愛 “憧れのヒーロー”の影響で配信の世界に飛び込み、共闘が実現 「『Overwatch』に思い出がありすぎる」 これは2022年10月に『Overwatch』のコラボ配信をおこなった後に、ラトナ・プティが語った言葉だ。だるまいずごっど、ゆふな、渋谷ハル、常闇トワ、橘ひなの、うるは、アルス・アルマルといったFPS好きの面々とひとしきり楽しんだ後、初代『Overwatch』のサービス終了とともに現在の『Overwatch 2』へと移り変わることになった同作への愛をポツポツと語り始めた。 「何人の人たちに、友達に出会ったか。どれだけサークルクラッシャーと出会って、友達とさよならしたか。仲が悪くなったり、逆にいまでも仲の良い友達もできたし。学校にいきつつ(『Overwatch』)をやって、寝て、学校行って、帰って、また『Overwatch』やって、オールでそのまま学校行って。」 「にじさんじに入った時も、『あと1戦やったら動画送るか~』とか言ってさ。動画送って、にじさんじの合格通知が来るまで何も考えたくないから、『Overwatch』やって、受かったときも『Overwatch』やって。休んでた時も『Overwatch』やって。ボイス収録するときも『Overwatch』やって……」 「なによりも『Overwatch』を優先したからね? うちが前に(彼氏に)フラれた話ししたでしょ? 『Overwatch』のせいでフラれた(笑)」 父親と兄がPCでゲームをプレイしていた影響で、ラトナ・プティは幼少のころから2人と共にPCゲームをプレイしていたという。初めてプレイしたタイトルは『スペシャルフォース』で、父・兄とともに一緒にプレイしていたと振り返っている。 なお、プティの父親は、娘がライバーとして活躍しているのを知っており、「デスク周りにプティのグッズをたくさん置いている」とのことで、活動を応援してくれているそうだ。「リスナーさんが一般PCの理想を知りたいってコメントしてきたんだけど、普通のゲーマーならどんな感じ?」とLINEで連絡をすれば、しっかりと返信をしてくれるようなタイプの優しい父親のようだ。 そんな家庭事情が強く影響してか、プティは『PlayStation』や任天堂などのコンシューマ機にあまり馴染みが無いという、生粋のPCゲーマーとして育っていくことになった。 「(「ぷてちはニートだったことあるの?」というコメントを見て)あるよ。ニートで毎日ゲームしてた。寝て起きてゲームしてを繰り返してた。年単位とかではないけど、ちょっとのあいだね」 「うち配信してるのヤバイよ、普通に考えて。配信は絶対にしないって言ってたから。配信やりなよって言われてたけど、絶対向いてないと思ってた。いま(やっているのが)奇跡、人生なにがあるかわからないから」 配信の雑談中、このように赤裸々に語ったこともあるラトナ・プティ。もともと配信活動はしないと心に決めていた彼女を、ライバーの世界に引き込むことになった「ヒーロー」がいる。 愛知県出身の元プロゲーマーにして、日本屈指のFPS系ストリーマーとして現在も活躍する「関優太」だ。 ちょうど彼女がニートだった時期に流行していた『PUBG: BATTLEGROUNDS』(旧称:『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』)をきっかけに関優太を知り、当時彼とともにチーム「4BR」として活躍していたSPYGEA、SHAKA、YamatoNといった、DETONATOR所属ストリーマー(当時)の面々を知ることになった。 彼女が愛する『Overwatch』では当時国内屈指の実力を持っていた面々であり、とくにオンライン投票により国際大会『Overwatch World Cup 2016』において日本代表チームのキャプテンとなった関の存在は、何者にも代えがたい「ヒーロー」だったといえる。 2021年7月23日開催の第6回『Crazy Raccoon Cup Apex Legends』に出場した際、プティ・SPYGEAと共に出場する予定だったボドカが新型コロナウィルスに感染・出場辞退となってしまい、そこで関が代役として出場することになった。 その決定を朝方に突然知らされたプティは、関との顔合わせで“ド”が付くほど緊張してしまい、「ヘッドセットから声が聞こえた瞬間、泣いちゃった……」とうれし泣きしてしまったのだ。 関とSPYGEAが「自己紹介していきなり泣く人って今までいた!?」と焦っているが、この時配信を見ていた多くのリスナーはプティがどれほど彼らを敬愛していたかを知っているだけに、同じ気持ちだったはず。 配信者になる予定のなかったFPS好きの女の子が、日本随一のVTuber事務所からデビューを果たし、過去に類を見ないほどの人気を誇るFPS大会に出場、自身にとって憧れの存在である関優太やSPYGEAと共闘する。 まるで物語のような展開、ファンならば誰しもが武者震いしてしまうようなシチュエーションではないだろうか? ・トップランナーになっても変わらぬ姿が人気の理由? チームとして共闘した関・SPYGEAとはその後も定期的な交流があり、一層仲を深めていくことになった。 大会終了後の二次会では深夜遅くまで『Golf it!』をプレイ、関を“ボコボコ”にしたり、その後に『RUST』ストリーマーサーバー内で同じチームとして活動、ともにギャンブルに明け暮れてみたり、関を中心にそれまで深く関わることのなかった面々とゲームを楽しむ様子を見ることができた。 プティがこれまで語ってきたように、FPSを通じて出会い・別れを繰り返してきた少女がVTuberとしてにじさんじからデビューし、事務所内外の友人とゲームを楽しみながら活動している。突っ込んだ言い方をすれば、彼女にとって本質的な部分は大きく変わっていないようにもみえるのだ。 VTuberやバーチャルタレントというと、アニメルックなビジュアルに加えてファンタジーな世界観を表現するタイプが多数を占める。そんななか、彼女は配信を通じて徐々に自分の出身について明かすことが多く、「東北寄りの北関東」「栃木県にやたら詳しい」といった部分がファンに知られていた。 そんななか、2023年1月には栃木県の地方新聞・下野新聞にプティのインタビューが掲載された。YouTuberにスポットを置いた連載のなかで彼女はインタビューに答え、それによって「本県(栃木県)出身」とハッキリと出身が明らかになったのだ。 〈参考:「人気Vチューバーに聞いた 本県出身ラトナ・プティさん(にじさんじ所属)」https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/689961〉 そんな彼女は、2021年5月に自身のTwitterにて、抗うつ剤やその他に処方されている薬を服用しており、副作用として体調が不安定であることを公表した。その後、同年10月12日から2022年1月5日の数か月間を活動休止にしていたこともある。 復帰後は病気や処方箋について言及することはほとんどなくなり、毎日のように配信を続けている。その姿を見るとすっかり快方に向かっているように見えるが、序盤にお伝えしたように彼女の不安定な生活リズムは、こういった所も遠因になっているかもしれない。 さて、ここまでラトナ・プティについて紹介してきたが、その在りようについて「いくらなんでも赤裸々にしゃべりすぎていないか?」と感じた読者もいるだろう。実際のところ彼女はパーソナルな部分をリスナーに問い・語りかけるタイプであり、これまでも本稿では紹介しきれないほどの様々なエピソード・体験談を語っている。 かつてはVTuberに対し「アニメルックなキャラクターやバーチャルとは疑似的なものであり、実在しないものだ」といった考え・捉え方もあったはずで、現在でもそういった視点をもつリスナーはいるだろう。 だがAR・VR技術の発展が実際にもたらしたのは、「現実の延長線上にある、拡張された技術・世界観」であった。自分の代替的な存在として2D/3Dアバター(3Dルック/Live2D製のボディ)を利用し、彼女のような配信活動をするVTuber~バーチャルタレントは今後も広まっていくだろう。
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