EVの“低価格化”待ったなし? 「コスト削減 → 生産増加」のポジティブサイクルで、見えてきた世界普及の現実
2022年06月03日 07:06
EVの“低価格化”待ったなし? 「コスト削減 → 生産増加」のポジティブサイクルで、見えてきた世界普及の現実

 近年世界で急速にシェアを伸ばしているEV(本記事では特筆なき場合、バッテリー式電気自動車〈BEV〉を指す)だが、現時点ではすべての人に受け入れられているわけではない。 【画像】えっ…! これがトヨタの「年収」です(計10枚)  例えば最近では、米シカゴ大学が2023年4月に発表した米国での意識調査によると、回答者の41%が「次の車としてEVを購入する可能性が高い」とした。  一方で、購入しない理由としては最多となる回答者の83%が 「車両価格の高さ」 を挙げ、続く「充電インフラの不足(77%)」や「電池技術の未熟さ(71%)」といった理由を上回った。  2010年ごろにリチウムイオン電池を搭載した近代的な量産EVが発売され、この十数年で量産効果などにより電池の価格が低下したことで、EVの価格も低下してきた。ところがBNEF(ブルームバーグNEF)の調査によると、2022年はリチウムイオン電池の平均価格が下げ止まり、電池パックレベルでは2021年の141ドル/kWhから7%上昇、151ドル/kWhに達した。  このことから「これからもEVの低価格化は続くのか」と不安視する意見もあるが、価格が上昇した背景を理解すれば心配はなくなる。価格上昇の最大の理由は増産に伴うリチウムなどの資源価格の高騰で、国際エネルギー機関(IEA)が公開したGlobal EV Outlook 2023によると、2021年から2022年で車載向け電池の生産は65%増加した。  当然ながらリチウムなどの供給も電池とともに増加しているが、加速する電池の増加ペースに追いつかず、ここ数年で十数倍まで高騰した。  その後、2022年に一時的に60万元/tまで高騰していた炭酸リチウムのスポット価格は、2023年に入り約1/3にあたる20万元/t程度まで下がった。まだ数年前の4万元/t程度という水準と比べると高いものの、BNEFは2024年ころに供給が安定し、さらに価格が下落すると予想している。  EVや製造業への造詣が深い人なら、「ライトの法則」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。これは製品のコストの削減を予測する方法のひとつで、「累計生産数が倍増するたびに製造コストが一定割合削減される」というものだ。量産効果(規模の経済)による効率化と混同されやすいが、ライトの法則は「量産効果」と「技術革新」をあわせたものだ。  例えば、これまでEVの増加を(筆者が知る限り)最も正確に予想してきたARK Investは、1908年に発売されたT型フォードについて 「累計生産数が倍増するたびにコストが15%下がる」 と指摘。T型フォードは内燃機関車の黎明期を代表する自動車だが、2017年に発売された近代的なEVであるテスラ モデル3にも当てはまるもので、さらに機能や性能が同じであれば別の製品にも通用するという。  それでは、今後のEVの販売数予測にライトの法則を当てはめるとどうなるか。EVの販売数を集計しているEV-VOLUMESによると、2022年までの世界の累計EV販売数は約2000万台で、2023年は約1100万台の新車販売が見込まれている。  現時点では2024年の販売数の予想は困難ながら、ここ数年は毎年1.5倍前後のペースで増加が続いており、仮にこのペースが続けば1600万台程度の計算になる。2024年までの累計台数は2022年の2倍以上にあたる4700万台となり、2年でコストが15%以上削減されることになる。  すなわち既に内燃機関車と同等の初期費用を実現しているEVは、2年後には内燃機関車より少なくとも15%安くなり、長期の保有コストではさらに差が開くことを意味する。  さらにIEAでは、2030年のプラグインハイブリッド車(PHEV)を含むEVの販売数として、中間シナリオで累計2億5000万台と予想している。2022年の時点では約3000万台だったことから、倍増を3回、すなわち15%のコスト削減も3回繰り返すことになる。  また、ARK Investを除く多くの機関が、年々予測を上向き修正している点も考慮する必要がある。このようなコストの低下と生産量の増加のループにより、新興国を含む世界で普及が進む可能性が高まっている。  トヨタがBEV専用プラットホームの開発を急ぐ理由も、このような背景を考慮したものと予想されるが、今この変化を想定できているメーカーならば10年後や20年後も生き残れるだろう。

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