
VTuberのタレント化&マルチプラットフォーム化が進んだ1年と、その先にあるものーー有識者たちによる座談会企画
2022年はMeta社(旧:Facebook社)が大々的に掲げた「メタバース」という概念の浸透を含め、あらゆる人にとってバーチャルな世界・存在との距離がグッと縮まった1年といえるだろう。 バーチャルな存在といえば、先日バーチャルYouTuberの数が2万人を突破したことも発表された。視聴者の数もどんどん増えており、タレントの広告起用なども相まってか、アーリーアダプター以外への認知もなお拡大し続けている。 今回はそんな1年の年の瀬に、有識者たちを迎えた座談会を実施。草野虹氏、たまごまご氏、森山ド・ロ氏、ゆがみん氏を参加者に迎え、「VTuberのタレント化・インフルエンサー化」「2022年のVTuber音楽」、「多様なプラットフォームを跨いだ活動」、「2022年のVRChatとVTuber」という4つのテーマについて、それぞれの見解をもとに語り合ってもらった。(リアルサウンドテック編集部) ーーーー <プロフィール> 草野虹:福島県いわき市、ロックミュージック育ち。KAI-YOU.net、Rolling Stone Japan、インサイド、SPICE、indiegrabなどでライター/インタビュアーとして活動し、音楽プレイリストメディア・Plutoのプレイリストセレクター/Podcast MCとしての顔も持つ。2023年現在、音楽/アニメ/インターネットカルチャーとシーンを跨いで活躍できる数少ないライターの1人である。 たまごまご:サブカルチャー、漫画、VTuber、VR系ライター。インサイド、ねとらぼ、MoguLive!、コンプティーク、PASH!などなどで書いています。女の子が殴り合うゲームが好きです。 森山ド・ロ:ライター。1988年生まれ、長崎出身。Clairoとラブリーサマーちゃんが好き。 ゆがみん:1990年生まれの地方在住。インターネットに青春時代を持っていかれた。VRとesportsが関心領域。最近はnoteを拠点に活動している。 ーーーーー ――各自ひとつずつ、語りたいトピックを事前にピックアップしていただいています。草野さんからは「VTuberのタレント化・インフルエンサー化」、森山さんは「2022年のVTuber音楽」、ゆがみんさんは「多様なプラットフォームを跨いだ活動について」、たまごまごさんは「2022年のVRChatとVTuber」ですね。まずは草野さんが挙げたテーマについて。 草野:「VTuberのタレント化・インフルエンサー化」は以前より顕著でしたが、今年は特にすごかったなと。ANYCOLOR社が株式上場したのを皮切りに、タイアップ企業が多くかかわった大会方式の企画もありました。ゲーム作品だけに関わらず、フード関係やファッション・美容関係の商品にも登場するようになっていたりもしています。 にじさんじ・ホロライブといった大手事務所に所属しているメンバーは、PR・広告塔の役割を持つインフルエンサーとしての側面が強くなっています。葛葉さんが主体になっている『KZH杯』には協賛企業に30社以上が名乗りを上げていたり、芸能人・タレントさんと同じように雑誌・テレビ・ラジオに出演していたり、『にじさんじフェス2022』『hololive SUPER EXPO 2022 & hololive 3rd fes. Link Your Wish』とそれぞれ大型イベントを開催したりと、ますますタレント化・インフルエンサー化が加速した1年だなと思いました。 たまごまご:「にじさんじ」という枠で見ると、たしかにタレント化してきたなというのを感じるんですが、一方で強く押し付けているわけでもないとも自分は思うんです。たとえば壱百満天原サロメさんがデビューした直後に脱毛器のPR案件がありましたけど、あのとき彼女は「脱毛できる」という利点について分かりつつ、「毛が生えていてもいいじゃないか」という「個性尊重」の信念があり、スタッフとかなり話し合ったみたいなんですよね。PR案件が自分のもとにきたからといって、すべてを受けいれるわけではなく、自分に合わないと思ったらひとりのVTuberの意見として断ることもできる。これを尊重できるかどうかは重要ですよね。 草野:剣持刀也さんはゲーム関係のPR案件を受けないと話してますしね。自分も同じくそう感じていて、事務所の方針として個人の考えがかなり尊重されやすいんだなと考えてます。 たまごまご:そうですね。実際は個々の意識や考えが強く反映されていて、ある方はタレント的な役回りを選ぶけど、ある方はVTuberとしてYouTubeに足をつけて活動をしていくといったように、いい意味で二手に分かれ始めたのかなと。ホロライブの場合は“アイドル事務所”という方針があるので「配信も頑張るしアイドルとしても頑張ります!」という方が本当に多い。これがホロスターズになると、アイドルとしての活動もしますけど、それはVTuber活動の一環だと話されている方もいる。一人ひとりの活動方針でこの辺はやはり多様になってるのかなと感じました。 森山:インフルエンサーという枠組みでいえば、そこまで強い支持を得ているわけではないとは思うんです。年間ランキングなどを見ると、YouTuberやTikTokerの方々が上位を占めていて、VTuberの名前はそこまであがってこない。界隈の内側にいるとすごく盛り上がっているように見えるけども、外側から見てみると実は……みたいな。TikTokに限定すると、今年はぼっちぼろまるさんがとても凄かったように思います。 たまごまご:TikTokでかなり再生されましたもんね。 草野:Billboard Japanの2022年「年間TikTok Songs Chart」でみごと1位をゲットする快進撃でした。 森山:それでもやはりまだまだ、というところを考えると、年々インフルエンサーとしての知名度や人気はあがっているとは思いつつ、リアルな存在・繋がりに勝てるのかという点においては、壁がまだまだあるなと感じますね。 ゆがみん:とはいえ案件の配信を見ていると、ファンはファンで盛り上がってるじゃないですか? たまごまご:ゲームは間違いなくそうでしょうね。 ゆがみん:VTuberのファンをクリティカルに狙うというのであれば、インフルエンサーマーケティングな手法は間違いなく刺さると思います。 草野:Z世代にウケる・リーチするという話をすると、今年にじさんじとぶいすぽっ!のリアルイベントを取材しましたが、現地は10~20代の方が明らかに大多数を占めていて、自分のような30代の人はあまり見なかった印象が強いです。 たまごまご:同じ10~20代でも、TikTokを見ている層とVTuberの動画や配信を見ている層は違いますし、TikTokを見ている層のほうが多いんでしょうね。 草野:そこに関しては、おそらく同じ年代ではあると思うんですけど、学校のクラスにおけるマジョリティかマイノリティかの違いなのかもしれませんね。マジョリティはマジョリティで強いのだけども、マイノリティのなかで求心力があるものも当然ある。そういったなかで、いくつかの層がまとまって足を運んだのがリアルイベントだったのかもしれません。 たまごまご:にじさんじ・ホロライブにピントを合わせてここで話しているから限定的なものになっていますが、たとえば花譜さんは武道館公演を成し遂げて、アーティストとして広く知られ始めていますよね。「え? この曲歌ってるのってVSingerなの?」という声もあがっていたりしますし、やはりVTuber一人ひとりによって立ち位置も受け入れられ方も違うんだなと思います。 たとえばRe:ACTなどは「アイドルになりたい」「タレントになりたい」という狙いがあって集まった部分がありますよね。逆ににじさんじやホロライブにおいても、タレント的な活動が主軸ではなく「動画をやりたい」「配信者でいたい」という方もいて、二極化したような印象があります。 ゆがみん:つぎは僕が挙げた「多様なプラットフォームを跨いだ活動」について話したいんですが、ちょうど座談会がスタートするタイミングで「VTuberが2万人突破」というニュースが公開されていました。YouTubeやTwitchといった有名動画サイトだけでなく、いまではIRIAM、SHOWROOM、17LIVEでもVTuber・Vライバーが活動するようになっていますが、界隈のファンの方々ーーもっと言えばここに集まった3人は、そういったYouTubeやTwitch以外のプラットフォームも見ているのかな?と思ったのですが、どうですか?。 草野:ぼくはYouTubeとTwitchでの配信や動画を見るので精一杯ですね。IRIAMなどでの配信ってアーカイブは残らないんですよね? ゆがみん:残らないんですよね。 森山:僕はVTuberではないイレギュラーな見方になるんですけど、REALITYでは夜職の女性が配信をしているのを多く見かける印象があるんです。そういった点から、自分にとってIRIAMで活動しているVTuberは「VTuberには興味はないけども、顔を出したくないから結局そうなっている」という人が少なくないのかなと。 たまごまご:それって「アバター化」という点でかなり成功しているのでは? 森山:その通りだと思います。 草野:配信者が増えたこともあり、やはりYouTubeやTwitchの配信だけで精一杯な視聴者が多いんでしょうね……。好きなVTuberが生配信していれば見に行くものの、終わりが見えないと途中で抜けることもありますし。あとは切り抜きを見て、面白かったらアーカイブ化されている本編配信を確認したり。 森山:自分も同じですね。 たまごまご:去年から今年にかけては「切り抜き動画」が特に注目された1年だったなと思うし、VTuberやストリーマーのようなプレイヤー側も切り抜き動画を見ているような状況にまで成長しましたよね。 ゆがみん:「あの切り抜き、見た?」といった会話が当たり前のようにされていますからね。 たまごまご:そう。なので「切り抜きありきの文化圏」にファンが沢山いるとして、そこで選ばれることができなければ、もはや外国の出来事のようになってしまう。 森山:IRIAM、 SHOWROOM、17LIVEで活動をスタートしても、YouTubeに後から参入してくるという流れもありますよね。「プラットフォームごとにポイントを稼いで賞金をゲットする!」みたいな形式もありますけど、うまくいかなければ手元のお金が厳しくなって、YouTubeに行くか、辞めてしまうかといったことになってしまう。 ――17LIVEやIRIAMといったプラットフォームは、システムの運営・設計思想を考えれば「良い意味でメガインフルエンサーが生まれない」ような構造になっていると思います。YouTubeやTwitchは一定数の登録者が集まらないと使用できない機能がたくさんあったり、収益化の申請も通らないということもありますが、これらのプラットフォームでは20人ほどのファン数だったとしても、それぞれのロイヤリティが高ければしっかりと収益が得られるようになっていて「小さな経済圏」が形成されやすい。 そのため、大量の視聴者を獲得することは、プライズを獲得するためのイベントで勝つことを目指すのでなければ、そこまで必要ではないのかなと思います。参加している方も、本業の合間に活動しているようなプレイヤーが少なくないので、良い意味でエンゲージメントに固執しないところもあるのかなと。 森山:なるほど、ご指摘ありがとうございます。 ゆがみん:リスナー側からすれば小さいコミュニティだと、強い結束力が生まれますし、タレント化・インフルエンサー化して「遠くに行かない」というメリットもありますよね。 たまごまご:それも大きいですよね。イベントで勝つといえば、IRIAMでは雑誌のコンプティークとのコラボイベントを毎月開催していて、1位の方が見開きページで掲載されますよね。ああいった形に残るものがあると、本人やファンにとっても嬉しいだろうなと思います。 草野:そこにも関わりますが、VTuberではない顔出しの配信者……ふつうの配信者を「ライバー」と名付けて集めるライバー事務所も多いですよね。大きなところだとベガプロモーション、321.inc、Nextwave、Licoreなどが該当しますが、これらの事務所に所属するタレントはIRIAMや17LIVEで活動していたりもするので、こういったタレントさんたちと同じ目線で「VTuber」が受容されつつあるのかなと感じた一年でもありました。 たまごまご:VTuberファンの視点からすると、ここまで「VTuber」という語と存在が当たり前に扱われるくらいまで広がったのはすごい浸透力だなと思いつつ、その一方でVTuberと普通の配信者の境界線もすっかり溶けてきたなあとも思います。 草野:「VTuberが2万人達成しました!」というニュースもありましたが、彼らのような存在から人気のYouTuberやTiktokerまで、配信者・ストリーマー・YouTuberまで含めたら、VTuberの人数は相対的にみればまだまだ少ないんだなと思います。 ゆがみん:単純に配信者・配信をするひとが増えた、というのも感じますね。ストリーマーとして100人ほど視聴者を集めているけども、「Live2Dで動けるアバターがあればいいよねー」なんて話をされる方もいるくらいですし。 森山:逆に「VTuberになれる!」的なオーディションだと、最初から素顔で配信している方もいますね。そのときに見ていた方がその後も見続けたとしたら、素顔もアニメルックのほうも知っているわけで、なんだか凄い時代になったなと思ったりします。 たまごまご:クラウドファンディングでお金を集めてLive 2Dや3Dモデルを作りたい!という流れも昔から続いていますし、それも含めると改めて色んな層に届いているなと実感します。 草野:ここまでのお話をギュッとまとめると、インフルエンサーからお小遣い稼ぎのレベルまで「VTuberになる」「Live 2Dを使う」ということが広まったーーある種「ポップ化」といっても良いレベルになったと。 森山:ポップになりすぎてるくらいですよ(笑)。数年前じゃホントに考えられないですね。 たまごまご:IRIAMなどで配信している方がYouTubeなどでアーカイブ動画があがるようになったりすれば良いですよね。ぼくは見てみたいですよ、どんな配信をしているのか気になりますから。 【後編へ続く】
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