若者の市販薬物乱用、特殊詐欺、外国人差別…横浜中華街を舞台にしたサスペンスを描いた理由 作者・岩井圭也が語る
2022年06月01日 06:06
若者の市販薬物乱用、特殊詐欺、外国人差別…横浜中華街を舞台にしたサスペンスを描いた理由 作者・岩井圭也が語る

 金なし、夢なし、やる気なし、それでも……横浜中華街を舞台にして、現代が抱える様々な問題に立ち向かっていく等身大の主人公を描いた小説『横浜ネイバーズ』が刊行された。  作者の岩井圭也氏にとっても、初の文庫書き下ろしとなるシリーズ作だが、これはどのようにして生まれたか……。インタビューでその創作の秘密に迫る。 ――第一巻の最後は、第二巻で何かヒナの秘密が明かされるのかな、と思わせますね。 岩井:そうなんですよ。第二巻ではヒナの秘密が出てきます。それも、二〇二三年に出す小説として意味がある書き方を考えました……って、奥歯にものが挟まったような言い方をしていますけれど(笑)。 ――主要人物は他にもいますが、ユーモラスなのが昔は近所のガキ大将、今は刑事の岩清水欽太、通称欽ちゃん。二十九歳の彼はずっとヒナに真剣に恋しているけど成就する見込みはなさそうです。 岩井:彼のことはすごく気に入っています。周囲からナメられがちですが、大人としての役目はきっちりこなす人です。やはり子供や若者でなければ解決できないこともあるけれど、子供や若者では解決できないことも当然あって、大事なところではちゃんと大人であってくれる人は一人欲しいなと思いました。 ――ロンたちが遭遇するのは、実際の最近の事件を想起させるものが多いですね。 岩井:現実とまったく一緒の事件にはしていませんが、若者の市販薬物乱用、自殺、特殊詐欺、外国人差別など、自分たちも遭遇する可能性のある事件や出来事から材を取っています。特に人種の話は一巻のうちに必ず書いておこうと思っていました。まだ明かせない部分もありますが、これはある種マイノリティたちの戦いの話でもあるので、ヘイト的なものに耳を貸す必要は一切ない、胸を張って生きればいい、ということは早い段階で言っておきたかったんです。特殊詐欺の話に関しては、フィリピンで主導者がいた実際の事件の前に書いていたので、ニュースを見てびっくりしました。でも逆にいうと、この題材を最速で世に出せたのかな、と(笑)。  それと、「トラブルがありました」「解決しました」というだけの話にはしたくなくて。そこに至るまでの動機や経緯まで書かないとアンフェアな気がするんです。たとえば特殊詐欺事件を起こす人たちはなぜそうなったのか、といったことも書きたかった。そういう意味で、いろんな人たちに対してフェアに視点を振りわけて書いています。 ――巻頭に中華街の善隣門の裏側に記された「親仁善隣」という言葉は「隣国や隣家と仲良くすること」という意味だとの説明がありますが、タイトルの「ネイバーズ」はそこから生まれたのですか。 岩井:善隣門の裏になにか書いてあるのは知っていましたが、「親仁善隣」という言葉だとはこの小説を書く時に知りました。「親仁善隣」って、ロンが目指すところそのものだなと思って。彼がいろいろなトラブルを解決していくのは、みんなが生きやすくなればいいという思いがあるから。タイトルは悩みましたが、横浜の話だとわかってほしいということと、ロンたちがどこに向かっているのかがわかるといいなということがありました。「親仁善隣」の英訳はいろいろありますが、「善隣」=「善い隣人」=「グッドネイバーズ」と訳せるので、このタイトルにしました。 ――現代性を意識したシリーズとなると、まだまだ先の巻で何が起きるかわかりませんね。 岩井:そうですね。登場人物の過去はぼんやり考えてはいるんですが、先のことはその都度、その時起きていることを書きたいですね。それは誰かが書かなければならないし、できるなら自分が全部書きたい。そういう意味で自分にとって、時代を記録するようなライフワークになっていけばいいなと思っています。 [文]角川春樹事務所 構成:瀧井朝世 写真:須貝智之 協力:角川春樹事務所 Book Bang編集部 2023年6月号 掲載

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