
『君の名は。』『あの花』…名作アニメのタイトルロゴはなぜ“心に刺さる”? 人気デザイン本監修者が語るロゴデザインの舞台裏
名作アニメのタイトルロゴはなぜ人々の記憶に残るのだろう? 数々のアニメロゴを手掛けてきたデザイナーで、書籍『アニメ・ゲームのロゴデザイン』(ビー・エヌ・エヌ)の監修を務めた内古閑智之さんにロゴデザインの舞台裏を聞いた。 【画像多数】ロゴを見れば名作がわかる!『君の名は。』『おおかみこどもの雨と雪』『あの花』『デジモン』…ロゴデザインの役割 また、2011年に公開されると聖地巡礼ブームなどの社会現象を巻き起こした、『あの花』こと『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のロゴにも、奇をてらわない端正な明朝体が使われている。 「『あの花』のロゴは、スタンダードな素材で間口を広げるという機能に加えて、長いタイトルの愛称を印象づけるという機能も持っています。ロゴにあしらわれた花から伸びるラインをたどっていくと、『あの花』と読めるようになっている。さりげなくこういう仕掛けを入れているのがすごいですよね」 2021年に発表された同作の10周年記念ロゴにも、ファンに刺さる仕掛けが施されているという。 「周年ロゴの場合、放送当時との時代の変化も踏まえてデザインを今風にアレンジすることもあるんですけど、『あの花』では、花の色を変えたり、消印風のあしらいを加えたりした以外は、ほとんど変わっていないですよね。僕の解釈ですが、『あの花』という作品にとって『変わらないあの日の思い出』という要素がとても大事だからなんじゃないか、と。 一方で、10周年プロジェクトではキャラクターたちの10年後の姿も描き下ろされています。『何も変わらない』というわけではなく、10年という時間はたしかに流れている。だから花の色がセピア色に変わっているし、消印のあしらいは10年前から届いた手紙のようにも感じられるのではないでしょうか」 たったひとつのロゴで、「変わらないものと、変わったこと」という、物語の根幹ともいえる要素を表現することもできるのだ。 『月がきれい』は、中学3年生の少年少女の初々しい恋愛を、繊細かつリアルに描いた青春ラブストーリーの佳作だ。 「『月がきれい』のロゴはかなり特殊な作り方で……。これは『中学生の手書き文字』を使ったデザインなんです。最初は明朝体のようなきれいな書体がいいかな、と考えていたんですが、本当に“シンプルなだけのロゴ”がベストなのか疑問が湧いてきて。 次に、もう少し中学生の恋愛らしい生っぽさを表現するために、手書き文字にしようと考えたけれど、大人が中学生っぽい文字を意識して書いても劇中の中学生のピュアさが出ない。ならばリアルな中学生に字を書いてもらおうと考えてみました」 そこで実際に、ある中学校の1クラス30人の生徒に、「遠くに住む友人に手紙を書くような気持ち」「家族に手紙を書く気持ち」「好きな人への手紙を書く気持ち」の3パターンで、「月がきれい」と書いてもらった。しかし、そのままロゴとして使えるような「月がきれい」は見つからず……。 「30人に3パターンずつ書いてもらえば、これだっていういい字が見つかると思っていたんですが。でも、これがリアルな中学生の字なんだ、と考え方を切り替えました。 そして、誰かの文字を選ぶのではなくて、1画ずつ違う生徒の文字を組み合わせるという手法にたどりついた。こうして、男女どちらでもなく、誰のものでもないけれど、たしかに“中学生の字”でできたロゴが完成したんです」 でき上がったのは、中学生らしいあどけなさの中に、どこか繊細で端正な雰囲気が漂うロゴ。 「同作のファンの方々にどう受け取ってもらえたかはわかりません。でも、『この作品にはこのロゴしかない』、そんなロゴにできたんじゃないでしょうか。 タイトルロゴはただかっこよかったり、おしゃれだったりすることより、その作品だけのための機能性や必然性、ストーリー性のあるデザインが重要だと思っています」 目的に対して機能させる――。この一点を突き詰めた結果、かくも多種多様なタイトルロゴが生まれている。まるで日本のアニメ文化の多様さを、そのまま体現しているかのような風景だ。 取材・文/寺井麻衣 画像提供/ビー・エヌ・エヌ
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