
アクセス過多で会社のサーバーが落ちる→配信者にスパチャで謝罪──配信による『Q REMASTERED』の再ブームで注目が集まる公式の動きがおもしろいので話を聞いてみた
「コップからボールを出せますか?」 この問題は2015年にスマホアプリでリリースされた物理演算パズルゲーム『Q』に収録されている代表的な問題である。累計1200万以上もダウンロードされた本作に見覚えのある人も多いのではないだろうか。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 それから時代は令和になり、2023年のいま、配信者を中心に『Q』のリマスター版となる『Q REMASTERED』が大流行している。「にじさんじ」や「ホロライブ」のライバーが続々とライブ配信を行なったため、開発・販売元であるリイカの会社サーバーがアクセス過多で落ち、8年以上も前にリリースしたアプリ版『Q』は前月比1000%を叩き出したという。 そう、『Q』はいま再ブームを巻き起こしているのだ。さらに『Q』の後継作にあたる『Q 2 HUMANITY』(以下、『Q2』)も発売を控えているらしい。 そこで電ファミは今回、『Q』の作者である栗田祐介氏と運営や企画に携わる石井英貴氏にインタビューを行う機会をいただいた。 栗田氏は『Q』のほかにも『空気読み。』『俺の戦隊オレンジャー』『おやじ観察キット』など個性的なゲームを作るクリエイターとして知られている。ところが栗田氏によると、もともとは『タクティクスオウガ』のようなゲームを作りたくてこの業界に入ってきたとのこと。 『タクティクスオウガ』のような硬派なゲームを作りたい人が、『空気読み。』や『Q』などの一風変わったゲームを作るだろうか……? そんな栗田氏によると、「『Q』はパズルゲーム界の『ダークソウル』」だという。本稿は、再ブームによって注目が集まる『Q』の作者・栗田氏の「人間性」に迫ってみた。 聞き手・編集/実存 文/柳本マリエ カメラマン/佐々木秀二 ■会社のサーバーが落ちてしまったことを配信者にスパチャで謝罪する ──「VTuberが全員やってるやつ」などと言われているくらい『Q REMASTERED』が「にじさんじ」や「ホロライブ」に所属するVTuberさんを中心に大流行していますが、このような流れになるきっかけはあったのでしょうか? 栗田祐介氏(以下、栗田氏): 『Q REMASTERED』は2022年の7月にNintendo Switchで発売されたんですけど、発売直後はぜんぜん反響がありませんでした。多くの方に『Q REMASTERED』を知っていただいたきっかけは、間違いなく樋口楓さんの配信です。それが2023年の2月でした。 ──発売から半年以上のタイムラグがあったんですね。そもそも樋口さんはどうやって『Q REMASTERED』を見つけたのでしょうか? 栗田氏: それが、僕らもわからないんです。ある日いきなり「『Q REMASTERED』を配信で使っていいですか?」とご連絡をいただきました。ストアのランキングも下のほうなので目に触れる機会もほとんどない状態だったにも関わらず、見つけていただいたようで。 石井英貴氏(以下、石井氏): 樋口さんの配信をきっかけにほかのVTuberさんも続々と配信をしてくださるようになりました。18時くらいから22時くらいまでの時間帯で配信されるVTuberさんが、1日20名とか30名くらい『Q REMASTERED』をライブ配信してくださったりして、「夕方以降どの時間帯もだれかしらやっている」みたいな状態になっていたんです。VTuberさんの力を実感しましたね。 ──それはビッグウェーブですね。 石井氏: じつはアクセスが集中して会社のサーバーが落ちてしまうハプニングもありました。 ──えっ(笑)。 石井氏: ホロライブのさくらみこさんや兎田ぺこらさんが配信をしてくださったとき、問題に詰まって何回もリトライをされていたんです。それで視聴者の方々がコメントで答えを教えようとしてくださっていたのか、あるいはゲームが気になってうちの公式サイトを見てくださっていたのか、配信中に会社のサーバーが落ちてしまって。 ──サーバーが落ちるほどのアクセスだったんですね。 石井氏: はい。会社のサーバーが落ちてしまっているなかで、配信を見てくださっている方々に対して「この状況をどうやって伝えよう」となり……。 ──どうしたんですか? 栗田氏: 「スパチャしよう」となりました。 ──(笑)。公式がスパチャを? 石井氏: はい。「ご迷惑をおかけしております」と、スパチャで謝罪しました(笑)。 ──それは配信も盛り上がりますね。 石井氏: 配信者さんが問題に詰まれば詰まるほどコメント欄を通じて視聴者の方々とのコミュニケーションが発生するため、ライブ配信の特性に合っていると思います。 栗田氏: 『Q REMASTERED』は「1回の配信を見て終わり」にはならないんです。人によって解き方がぜんぜん違うのでいろんな人の配信を見る価値がありますし、問題に詰まっているところを見ると「違う違う、そうじゃない」と自分のやり方を提案したくなるので(笑)。 ──配信とパズルゲームはかなり相性がいいですね。『Q』は見た目もわかりやすいから。 栗田氏: はい。背景も真っ黒なので配信者さんのアバターもよく見えます。 ──たしかに(笑)。そう考えると配信映えする要素がたくさんありますね。VTuberさんはじめ配信者さんが続々と『Q REMASTERED』の配信をしていくなかで運営としてはどういうことをされたんですか? 石井氏: 配信の宣伝をしやすいようにTwitterで「#Qこれ観て」というハッシュタグを提案しました。「ハッシュタグをつけて配信のYouTubeリンクを貼ってください」みたいな感じで。それを公式アカウントからRTさせていただいております。 ファンの方もそのハッシュタグをつけて投稿すれば推しの配信者さんを応援することができるし、僕らも『Q』動画がいっぱい世の中にツイートされていくので「流行っている感」をプッシュできるというキャンペーン【※】です。 栗田氏: 石井が夜中の3時に「思いついた」って言って、翌朝には始まっていました。「#Qこれ観て」は関わっている全員が得をするので、僕は感心しています。 石井氏: (笑)。 ■Switch版『Q REMASTERED』の影響でアプリ版『Q』DL数が前月比1000%になる ──VTuberさんに取り上げてもらう前は「ストアのランキングも下のほうだった」とおっしゃっていましたが、これだけ反響があるとランキングにも変化はありましたか? 石井氏: Switchのダウンロードランキングは2022年7月の発売直後でも24位が最高だったんですけど、ありがたいことに3位くらいまで上がりました。 ──発売から半年以上のタイムラグがあるのに、それだけ上がるのはすごいですね。 栗田氏: じつはほかにも想定外の変化があったんです。Switch版『Q REMASTERED』はもともと2015年にスマホアプリで出した『Q』のリマスターなんですけど、今回の盛り上がりの影響でアプリ版『Q』のダウンロード数が前月比1000%以上になりました(笑)。 ──前月比1000%(笑)。Switch版を売るために『Q REMASTERED』を出したのに、アプリ版がダウンロードされているんですね。 栗田氏: そうなんです。アプリ版を『Q REMASTERED』だと思っている方もいらっしゃるみたいなんですけど、リマスターは2022年7月に発売されたSwitch版と、2023年5月2日に発売されたばかりのSteam版のふたつです。 ──Steamでも発売されたんですね。おめでとうございます。 石井氏: 「『Q』 Steam」と検索される方も多かったので、新機能をひとつ搭載してSteam版を発売しました。Switch版は「HELL」という難易度の高い問題を新機能として搭載しているんですけど、それを配信者さんがおもしろく取り上げてくださるんですね。そこに手応えを感じたので、Steam版では採点機能が搭載されています。 ──採点機能とはどういうものなんですか? 栗田氏: プレイヤーのIQ診断ができます。 ──なるほど。「問題を解くとIQがわかる」みたいな? 栗田氏: はい。総合診断ができる機能です。僕は『空気読み。』でも「空気読めてる度」の診断を作っていたので、診断から離れられないのかもしれません(笑)。 ■『Q』の承認作業を2年以上もサボっていたことがバレてしまい緊急会議が開かれる ──『Q』に収録されている問題は栗田さんがお考えになっているんですか? 栗田氏: Switch版には1280問が収録されているんですけど、じつはその半分くらいは「みんなのQ」という、ユーザーさんからアイディアを募集した問題なんです。 もともと2015年にアプリ版『Q』が出たときは140問くらいでした。そこから少しずつ問題を増やしていったんですが、すべて自分たちで考えるとなると大変なんです(笑)。そこで、ユーザーさんから募集したらおもしろいのではないかと思いました。 『Q』は小さいお子さんも遊んでくださっていたので「こういうのを考えました」と紙に描いたものをご両親が写真に撮ってメールで送ってくださることもあったりして。 ──それが実際にゲームの問題になったらうれしいですね。 栗田氏: お子さんが手描きで送ってくださった問題の趣旨だけを再現するのではなく、実際に送っていただいた画像を使って問題を作ったんです。自分の描いた絵が動いたらおもしろがってくれるかなと。 ──それはめちゃくちゃうれしいと思います。 栗田氏: 僕は、現代のAI時代に先駆けて「自分が考えなければいけないことをほかの人に頼む」ということをやっていたんですよ。人に考えてもらったほうが効率がいいので(笑)。 ──でも、ユーザーさんから募集した問題をひとつひとつ確認して採用していくとなると、それはそれで大変じゃないですか? 栗田氏: そうなんです。人に考えてもらうのはいいんですけど、いざ作り始めると大変で。 ──(笑)。 栗田氏: そこで『Q craft』という、『Q』の問題を作ってアップロードすることができるスマホアプリを作ってもらいました。ユーザーさんが問題を作って直接アップロードしてくれたらもっと効率がいいじゃないですか。これも「ほかの人に頼む」というAI時代の先駆けですよ。 『Q craft』の仕様としては『スーパーマリオメーカー』みたいなもので、問題を作ってアップロードしていただくと、それが『Q』本体の中で遊べるようになるというものです。 ──なるほど。アップロードしてもらった問題は厳選して採用しているんですか? 栗田氏: 『Q craft』はいろんなオブジェクトを使ってどんな形でも再現できてしまうので、公序良俗に違反するものがアップロードされたときは却下しなければなりません。そこで、僕専用に問題を「承認するアプリ」を作ってもらったんです。 ──その承認アプリから栗田さんが承認をされていたわけですね。 栗田氏: 「これは承認」「これは却下」というのを僕が手作業でずっとやっていたのですが、だんだんめんどくさくなっちゃって……。東京オリンピックあたりから2年間くらいずっとサボっていたんです(苦笑)。 ──承認を止めていた、ということですか? 栗田氏: はい。そしたら数万件の問題がたまってしまって……。 そんななかで『Q REMASTERED』が盛り上がったので、ユーザーさんから「送った問題はどうなっているんですか?」「7月から止まっていませんか?」と問い合わせがあったんです。その「7月」って去年の7月じゃなくて、たぶんおととしの7月なんですよ。 ──サボってたことがバレてますね(笑)。そこまでためる前は、1日どれくらい承認していたんですか? 栗田氏: 多いときは1日100件くらい承認するときもありました。『Q craft』をリリースしてから5年くらいひとりで日課のように承認していたんですけど、あるときふと疲れてしまって、「もういいかな?」と思ってしばらくやらなくなったんです。そうすると……人間って低いほうに流れていくじゃないですか(笑)。 気づいたら数万件の問題がたまっていました。とはいえ問い合わせもあったのでさすがにどうにかしないといけないと思い、エンジニアに「一括で承認できないか」と相談したんです。でも、技術的にいろいろな問題があって一括で承認することは無理でした(笑)。けっきょく手作業でやらざるを得なくなってしまって。 ──2年分のツケを手作業で(笑)。 栗田氏: それが、先ほども言ったとおり『Q REMASTERED』の盛り上がりの影響でスマホ版『Q』のダウンロード数が前月比1000%になり、同時に『Q craft』もダウンロード数が伸びたんです。2年分のツケに加えて、いまも承認しないといけない問題は増え続けていて……。 だから勇気が入りましたよ。「じつはオリンピックの時期から2年以上も承認をしていない」と打ち明けるのは。 ──承認していなかったことをずっと黙っていたんですか!? 栗田氏: はい。黙っていました。でも負い目があるので、常に頭の片隅で気になっていました。 最初の1カ月目からすでに罪悪感があったんですけど、それが2年ぐらい続いてしまって。「送った問題はどうなっているんですか?」と問い合わせがあったタイミングで社内のメンバーに打ち明けました。 ──それってけっこう最近の話なのでは!? 栗田氏: はい、けっこう最近ですね。そしたらオンラインミーティングも開かれちゃって。「承認どうする会議」が。 ──すべてを肉体労働で解決しているところがすごいです(笑)。じつは先日、水口哲也さんの新作パズルゲーム『HUMANITY』についてインタビューをさせていただいたんですけど、そのゲームも遊んだ人がステージを作れるんです。水口さんはそれを運用していくらしくて。 「みんなが作ったステージを厳選しておすすめプレイリストを作る」そうなのですが、それってすごく大変だと思っているんです。 栗田氏: 間違いなく大変だと思います。 ──栗田さんが言うと説得力があります(笑)。 栗田氏: この記事を読んで考え直してもらえないですかね(笑)。 ──(笑)。ちなみに『Q craft』で作られた問題って、中身のチェックは公序良俗だけなんですか? 栗田氏: 基本的には公序良俗に違反していなければ承認したいと思っています。最初は「おすすめの問題」「普通の問題」「却下」で分けていたんですけど、そうすると作るのがうまい同じ人ばかりが「おすすめの問題」になってしまいがちで。 ──なるほど。ハガキ職人みたいな。 栗田氏: まさにそうです。ハガキ職人みたいに『Q』職人がいるんです。でもうまい人ばかりを「おすすめの問題」に採用してしまうと偏ってしまうので、すべて平等にしました。 ■『タクティクスオウガ』を作りたくてパズルゲーム界の『ダークソウル』を作る ──栗田さんはもともとパズルゲームを作っていたわけではないですよね? 栗田氏: まったく作っていませんでした。そもそも、僕は『タクティクスオウガ』【※】みたいなゲームを作りたくてこの世界に入ってきましたから。 ──本当ですか? 『タクティクスオウガ』を作りたい人が『空気読み。』や『Q』を作ります?(笑) 栗田氏: (笑)。『タクティクスオウガ』を作りたいと思って入ってきましたが、運命に導かれるままに作っています。自分が作りたいものとは違うかもしれないですけど。 ──なるほど、本当は『タクティクスオウガ』を作りたいけど、自分が作れるものは「こっち」だと。 栗田氏: そうですね。あと『Q』ってそもそも「パズルゲーム」なのかどうかもわからなくて。ストアに出すときにジャンルを決めないといけなかったので、消去法でパズルゲームを選んだだけなんですよ。 ──なにかしらのジャンルを選択しないといけないんですね。 栗田氏: もちろんレースゲームでもRPGでもない。そうして消去法で考えると「パズルゲームなのかな?」という結論に至りました。 でも僕は、その「パズルゲーム」という響きから『Q』を知的なゲームだと勘違いされている配信者さんもいると思うんです。眼鏡をかけたアバターで「IQ何万の私が挑戦」みたいに配信してくださる方もたくさんいらっしゃるので。 だけど、やったあとは「とんでもねぇ脳筋ゲームだった」と言われたりするんです(笑)。 ──(笑)。 栗田氏: なんなら石井もまだうちに入る前は『Q』を知的なゲームだと思っていたみたいで。 石井氏: はい。外から見たときは知育・教育寄りだと思っていました。指を動かして結果を予想するので、『脳トレ』のような印象だったんです。なので、学校や老人ホームに広めていく感じなのかと。 でも改めて考えると当時のスマートフォンの画面サイズでは繊細な操作やご老人がプレイするには難しいというのもあると思っていたので、今回のSwitch版やSteam版で本当の意味で老若男女に遊んで頂けるゲームになったのではないかなと思っています。なので本作に触れる機会や、目にしていただく機会を少しでも増やしていきたいです。 栗田氏: 僕は2015年にアプリ版を出したときから「『Q』はパズルゲーム界の『ダークソウル』だ」と思っていました。なぜなら、胃がよじれるほど難しいからです。 ──なるほど!? 栗田氏: 本当はジャンルを「ソウルライク」にしたいくらいです。『ダークソウル』を作った宮崎英高さんが「いいゲームの条件」みたいなことを言っているのを見たことがあるんですけど、その条件が『Q』と一致していました。 ──どんな条件なんですか? 栗田氏: 「めちゃくちゃ難しくてもなにかの拍子に急に突破できる」と。それを見て僕は間違ってなかったと思いましたね。 ──(笑)。でもたしかに「パズルゲーム界の『ダークソウル』」はかなり的を射ている表現だと思います。そもそも、パズルゲームで「難しさ」を売りにしてるゲームってあまりないですもんね。 栗田氏: そうでしょう。 でも、『Q』はちょっとやりすぎた部分もあるんです。ライブ配信を見るといつも冷や汗をかく問題があって。おそらく、僕だけが世界でただひとり冷や汗をかいていると思います。 ──どういう問題なんですか? 栗田氏: 9問目です。『Q』(キュー)にかけて9問目は少し鬼門的な位置づけにしたんですけど、これがかなり難しくて。9問目は『Bloodborne』でいう「ガスコイン神父」【※】なんです。 ──たしかに、9問目はほかの問題と比べて圧倒的に難しかったです。 栗田氏: 9問目はさすがに難しすぎるので、注釈を入れようと思ってます。あまりにも解けないと配信者さんにとってデメリットでしかないので。ぜんぜん解けないと、ライブ配信の同時接続が露骨に下がるんです。 ──(笑)。 栗田氏: 配信者さんはもちろん、僕らとしても「こんなのやる気にならない」と思われたらデメリットになってしまいますから。 ──「同接が露骨に下がる」ってわかりやすいですね。 栗田氏: 諸刃の剣なんです。盛り上がると同接もかなり増えるんですけど、詰まってしまうと1時間くらいリトライを繰り返すとこもあるので。そうなるとトークでおもしろくしないといけなくなってしまうから配信者さんにとって負担にしかならない。そこは今回、とても反省したところです。 今後はそういう視点も入れながら調整していく必要があると思いました。ちょうどいいバランスを突き詰めていきたいです。 ■『Q』は解き方を考えずに作るほうが答えが透けて見えないため良問になりやすい ──『Q REMASTERED』には1280問ほど収録されているとのことですが、すべての問題を解く方っているんですか? 栗田氏: クリアすると証拠の画面が出てくるんですけど、「#シンQマスター」というタグでSNSに投稿してくださっている方はいらっしゃいます。ほんの数人ですけどね。 「HELL」という難易度の高い問題はSwitch版の新機能として初めて搭載したんですが、そもそも「解けるようにしてあげよう」と思っているわけではなくて(笑)。というのも、これだけ問題数が多くなると、さすがに良問がネタ切れになってきてしまうんです。初期の問題と比べると、いろんなギミックを使った苦し紛れの問題が増えました。 だから『Q REMASTERED』を出すときに、これで「最後にしよう」というフィナーレを飾る意味で「HELL」を搭載したんです。「いつの日かだれかが解いてくれたらいいな」くらいの気持ちで。なので「HELL」には僕も解けない問題があります。 ──栗田さんも解けないんですか!? 栗田氏: はい。「作者も解けない」というキャッチコピーで出しました。でも、発売してから3日後くらいには全問クリアする人が現れて(笑)。 ──それは瞬殺でしたね(笑)。 栗田氏: 「解けるもんなら解いてみろ」と煽ったのに瞬殺でした。昔から『Q』のファンでいてくださっている常連の方たちが解いてくださって。「瞬殺されてしまった」という思いはありつつも「本当にクリアできるんだ」という安堵もありましたね(笑)。 ──栗田さんはクリアした方の解き方をご存知なんですか? 栗田氏: はい、動画を投稿してくださっているんです。「HELL」のクリア集を見て「へぇ、こうやって解くんだ」と関心しました(笑)。 ──栗田さんも解き方がわからないということは、問題を作るときは解き方を考えずに作っているんでしょうか……? 栗田氏: 解き方は最初に考えないんです。たとえば『Q』の代表的な、コップからボールを出す問題も「コップ」「ボール」「それを出す」という絵コンテみたいなものを描いただけでした。 ──最初に解き方を考えないのは理由があるんですか? 栗田氏: 最初に解き方を考えてしまうと、それってもう「あらかじめ解き筋があるもの」に見えてしまうと思うんです。答えが透けて見えてしまう、というか。 なのでシチュエーションだけ描いたものをエンジニアに見せて、まずはその通りに実装してもらうんです。そこで初めて僕も「これはどうやって解けるかな」と触りながら試していく。そうしてプログラマーと調整していく流れです。言われてみれば、少し変わった作り方かもしれません。 ──なるほど、『Q』は解き方を考えずに作るほうが良問になりやすいんですね。だから、本当に解けない問題は難易度が高い「HELL」に入れると。 栗田氏: はい。「じゃあこれはHELLだ」って(笑)。 ■一風変わったゲームではなく将棋やテトリス級の定番ゲームを生み出したい ──栗田さんの作るゲームってカジュアルな手触りなんですけど、いわゆる「カジュアルゲーム」ではないと思うんです。ブロック崩しとか3マッチパズルみたいな、いわゆるゲーマーではない人も遊ぶカジュアルゲームの枠とは違う魅力があって。 栗田さんはご自身が作るゲームをどのように分析されていますか? 栗田氏: 本音を言うと、僕は将棋や『テトリス』みたいな「定番ゲーム」を生み出したいと思っています。やっぱり定番ゲームは長続きするので。 たとえば『空気読み。』は15年くらい前に作ったんですけど、当時は流行語に「KY」がノミネートされている時代でした。突飛なことして笑いを取りに行くと、瞬発力はあっても長続きしないんです。カジュアルゲームとはいい意味でも悪い意味でも「息の長さ」が大きな違いだと思います。 ──なるほど。「将棋を作りたい」という方と出会ったのは初めてかもしれません(笑)。 栗田氏: (笑)。だって将棋にもゲームデザイナーがいるわけじゃないですか。将棋を思いついたらこの仕事で長生きできるとは思いますけど、まず思いつかないですよね(笑)。 ──栗田さんのなかで「定番ゲームを作りたい」みたいな思考は昔からお持ちだったんですか? 栗田氏: そんなに深く考えてはいなかったんですけど、いまの時代って「作り手が主体ではない」と思うんです。長続きしているゲームは、プレイヤーがコンテンツを作りながらずっと回していけるものかと。プレイヤーが主体になれる「器」を提供できることが重要だと思っています。 たとえば『マインクラフト』はまさにそうだと思っていて。 ──たしかに『マインクラフト』は「器」の提供ですね。遊べる環境がそこにあって、あとはプレイヤー次第でどうにでもなってしまう。ツールとして配信にも適していると思います。 一方で栗田さんが作るゲームはいつも一風変わっていて、むしろ作家性が色濃く出ていると思うんですけど、「自分の色を出してやろう」みたいな気持ちはないんですか? 栗田氏: 『Q』を作ったときは「無味無臭のものを作ってやったぞ」という気持ちでした。 ──本当ですか? めちゃくちゃ色が出ていると思いますよ。だって無味無臭のゲームにでっかく赤い文字で「憂鬱」なんて単語は出てこないじゃないですか(笑)。 栗田氏: (笑)。周りからは「これいかにも栗田さんっぽいよね」と言われることはよくあるんですけど、僕としてはそんなつもりはなくて。ただどこかに「シュールな笑いを人に見せたい」みたいなものがあるのかもしれません。 だから今後は、さっき言ったようなプレイヤーが主体になるゲームを作っていきたいです。自分を隠して、自分を出さずに(笑)。 ■『Q』の「離脱が激しい」という弱点をカバーするために『Q2』を作り始める ──ここからは『Q』の後継作にあたる『Q2』のお話をおうかがいしたいのですが、企画の立ち上がりからお聞かせいただけますでしょうか? 栗田氏: 何年も前に「Switchってどんな機材なんだろう」くらいの感覚で、Switchの開発機にアプリ版『Q』を入れて試してみたことがありました。もともと『Q』は指で操作するため、タッチパネルのあるSwitchとは相性がいいと思ったんです。 当時から『Q』は「離脱が激しい」という問題を抱えていました。最初の方の問題は1200万人くらいの方に解いていただいているんですけど、問題を追うごとにどんどん減っていて。 ──先ほどの「問題に詰まると同接が減る」と同じ現象ですね。 栗田氏: はい。まさにVTuberさんのデメリットになってる部分と同じで、鬼門となる9問目で「もういいや」でやめてしまう人が多い。そこで、『Q』の弱点をカバーするための『Q2』を作り始めました。だから『Q2』は「『Q』を否定すること」から入っているんです。 『Q』はダウンロード数こそ多かったものの、離脱が激しく長続きしない。そこは問題として確実にあるので、Switchにいちばん適した形で『Q』を作ろうと思いました。 ──それが『Q2』というわけですね。遊びの部分でいうと『Q』と『Q2』はどのような違いがあるのでしょうか? 栗田氏: 『Q2』は『Q』と同様に物理演算で物が動くんですけど、コントローラーでキャラクターも操作できるようになりました。たとえば坂を描けばキャラクターを高いところに移動させることができます。スロープやシーソーを作って運んであげてもいい。 『Q』はストイックすぎたので『Q2』は胃がよじれるほどの難易度ではなく、だれでも遊べるようにしたいんです。 ──このゲーム性でキャラクターを入れる発想がすごいですね。 栗田氏: 『Q』を遊んだ人に「これが『Q』の続編です」と見せたら、最初はみんなギョッとすると思います。「ぜんぜん違くない?」「アクションゲームじゃない?」という印象を受けると思うんですけど、触っていくうちに「たしかに『Q』だ」と思っていただけるかと。 ほかのゲームでたとえるなら『ヒューマン フォール フラット』みたいな感じです。 ──なるほど。ということはマルチプレイもできるんですか? 栗田氏: 最大4人で同時プレイができます。4人でワチャワチャしながら「描いた物を持って投げる」「重い物を引っ張ってくる」など、さまざまなアクションができるようになりました。キャラクターも「ジャンプ力が高い」「火を吹いて燃やせる」「水の中を泳げる」みたいな能力を持っているんです。 難易度も調整しているので、配信の武器として使っていただけたらいいなと。 石井氏: マルチプレイは、「協力」も「妨害」もできるんです。そのうえでこれまでの『Q』のように問題を解いていくことになるので、プレイヤー同士のコミュニケーションも大事になってくると思います。そこもまた配信に向いているのではないかと。 ──『Q』の弱点を、そもそもゲーム性からカバーしているということなんですね。 栗田氏: 「いかに配信としての使い勝手がいいか」というのはひとつの突破口としてあると思うんです。 ──『クラフトピア』を作ったポケットペアの溝部拓郎さんも、ゲームを作るときに「撮れ高」をすごく意識しているらしいです。取捨選択をするときに「これは撮れ高になるから残す」みたいな判断をされているそうで。 栗田氏: すごくわかります。僕も取捨選択をするときは、ちゃんとしているかどうかより「おもしろがられるほうはどっちか?」で判断していますね。 『Q REMASTERED』の配信を見ていて、「いかにボケを仕込むか」を意識する必要があると思いました。構造としては、ゲームがボケで配信者さんがつっこみなんです。だから「こういうふうにつっこんでくるだろう」みたいなボケを考えたいと思いました。 ──『Q2』はキャラクターも出てくるので『Q』とは問題の作り方も変わってくるかと思いますが、そのあたりの難しさはありますか? 栗田氏: 先ほど『Q』は解き方を最初に考えないと言いましたけど、『Q2』は真逆なんです。 『Q』のようにコップからボールを出すだけだと、キャラクターが持ち上げて投げるだけで終わってしまうため、ゲームとして成立しづらいと感じました。 ──あまりに簡単すぎてしまいますね。 栗田氏: だから『ゼルダの伝説』的な謎解き要素みたいなものだったり、力を合わせる仕掛けがあるほうがおもしろいと思いました。昔の『マリオブラザーズ』みたいに、プレイヤー同士で喧嘩をしてもおもしろいと思っています。 ──喧嘩ができるゲームはいいですね。『ボンバーマン』や『スターソルジャー』みたいに。 栗田氏: 最初から「戦いなさい」って言われてると『スマブラ』みたいになるのかもしれませんが、そうじゃないゲームでも喧嘩ができる余地はあってもいいのかなと。タイトルを『Q 2 HUMANITY』にしたのは、そういう人間性を表しているんです。 あっ、もちろん『ダークソウル』の「人間性」【※】って意味もあるんですけど(笑)。 ──繋がってきましたね(笑)。 ■勝手に転がって、勝手に落ちて、勝手にクリアになるバグをあえて残している ──『Q2』の調整でいちばん大変なところはどんなところですか? 栗田氏: これは『Q』のときからなんですが、『Q』は処理が重たいんです。いくらでも描画をしていけるので。 ──ああそうか、プレイヤーが描けば描くほど重くなってしまうから。 栗田氏: そうなんです。どこまで重くなるかはこちらでコントロールができないから、いろんなところを削らないといけなくて。でもそうしていると、オブジェクトがオブジェクトをすり抜けてしまうみたいなバグも起こるんです。 『Q』は物理演算ゲームですから、そういうバグが起こるとゲームとして破綻するので、気をつけなければいけません。 ──たしかにそこが破綻してしまうと解けないですからね。 栗田氏: でもじつは『Q REMASTERED』の配信でバグがおもしろがられているんです。「変なバグが起きてクリアできちゃう」とかは、配信として盛り上がるので。得した気分になるというか(笑)。 なので、一概にバグをすべて取り去ることが正解とも言えないんです。 石井氏: それこそファミコン時代ってバグを使ってクリアするみたいなことがよくあったと思うんです。話題にもなるし、おもしろい。 栗田氏: 『Q』の配信を見ていると、「ヒーローがぶっ飛んで帰ってこない」という現象はどの配信者さんも目の当たりにするんです。 ──思っていた以上にヒーローが飛びますよね(笑)。 栗田氏: そうなんです。飛んだら帰ってこないんです。 あの現象はアプリ版が出た2015年から認識しているんですが、いまも残しているんです。バグと捉えられればそうかもしれないですけど、おもしろいから(笑)。 ──(笑)。ヒーロー以外にもそういう現象はありますか? 栗田氏: じつはいま「ボールが勝手に右に転がる」という現象が起きているんです。だからそのままにしておけば、0手でクリアできてしまうという。 ──なにもしないでクリアできるんですか!? 栗田氏: はい。勝手に転がって、勝手に落ちて、勝手にクリアになるんです。 ──(笑)。 栗田氏: 僕は嫌な汗をかきながら配信を見ています(笑)。それで、エンジニアに右に転がるという現象を直すようお願いしたら石井に止められました。「右に転がるほうがおもしろいから」「よろこんでくれる人がいるから」って。 ──なるほど。 石井氏: 先ほど話題に出た難問の9問目はすごく苦労するのに、一方で「0手でクリアする問題」もあるってすごくおもしろいと思うんです。実際にその問題になると視聴者の方から「そのまま見て」みたいなコメントがたくさんつくんです。配信者さんも「覇気でクリアした」みたいに言っている方もいて(笑)。 栗田氏: そしたらもう残すしかない【※】と思いました。僕は嫌な汗をかいてますけど(笑)。 ──作者としては、配信を見ていて嫌な汗をかくことは多いですか? 栗田氏: 多いですよ(笑)。『Q』はイライラするゲームでもあるので、マウスをガンガンされたりすると「うわうわどうしよう」と思います。だって僕がその方を怒らせているんですよ。 ──(笑)。そこまで真剣に配信を見て汗をかいていたんですね。 栗田氏: これだけ多くの方に遊んでいただいている姿を見ることはいままでなかったので、汗をかく機会も増えました。 ──ここまで『Q REMASTERED』が広く遊ばれているのは、ゲームのおもしろさに加えて、配信向きだったということが改めて証明されたのではないでしょうか。さらに『Q2』は『Q』の弱点をカバーしているわけですから、もっと配信向きになるかもしれませんね。 栗田氏: そうですね。ただ、『Q』をカバーするために作っている『Q2』というところに、『Q REMASTERED』の盛り上がりがあったので「あれ?」という気持ちはあります。 ──(笑)。 栗田氏: 「いま『Q』否定のコンセプトで『Q2』を作ってるけど『Q』のほうがよかったの?」「難しいほうがいいの?」という疑念が生まれました。 石井氏: 『Q2』はもう止められないですからね(笑)。 栗田氏: 大丈夫ですよね? ──『Q REMASTERED』が盛り上がれば盛り上がるほど不安になるという(笑)。ユーザーさんにどっちがいいか選んでもらいましょう。今日は貴重なお話をありがとうございました。(了) Switch版を売りたいのにアプリ版のダウンロード数が前月比1000%になってしまう。『Q』の弱点をカバーするために『Q2』を作り始めたのに『Q』が大ブレイクしてしまう。 想定外の展開に困惑する栗田氏が印象に残るインタビューだった。 一風変わったゲームを作る栗田氏は、作り手が主体となるゲームではなく『マインクラフト』のようにプレイヤーが主体となる「器」を提供できるようなゲームを作りたいと語っている。『Q』は配信者にとってまさに「使い勝手がいい」ゲームだろう。 しかしながら『Q』のゲーム性は諸刃の剣だ。問題をクリアできたときは盛り上がる一方で、9問目のように難しすぎると露骨に同時接続が下がるという。その弱点をカバーするために後継作となる『Q2』が発売を控えているのだ。 果たしてそれがどのように受け入れられるのか。その反響を見届けたい。
電ファミニコゲーマー