
石原章弘氏が手掛ける新作『ストリームヒーロー!』インタビュー。グッドスマイルカンパニーに入社した経緯から作品の注目ポイント、楽曲やライブの展開などについて聞いた
文・取材:ジャイアント黒田 グッドスマイルカンパニー(以下、GSC)に所属する石原章弘氏の新作ゲームがついに始動! 『アイドルマスター』シリーズの総合ディレクターなどを務めた石原氏の新作は、ヒーローとともに街を守るミッションに挑む、“繋がり”をテーマとした『ストリームヒーロー!』。 【記事の画像(8枚)】を見る Aimingとタッグを組んで手掛ける本作は、スマートフォン向けの3D育成シミュレーションだ。本稿では、本作の企画発起人であるGSCの石原氏と、開発の中心人物であるAimingの高屋敷哲氏にインタビューを実施。企画の経緯や開発秘話、現在本プロジェクト向けに募集している人材について伺った。 新作ゲームを作りたくて新たな会社に入社? ――最初に、石原さんがグッドスマイルカンパニーに入社した経緯を教えてください。 石原 バンダイナムコエンターテインメントで10年以上『アイドルマスター』を担当して、つぎの会社でも3年ほど開発に関わって大体完成形が見えてきたとき、 ふと「また10年くらいこのタイトルを担当したとすると自分は何歳になるんだろう……」という考えがよぎり始めました。 80歳を超えても新作映画を作られている映画監督や、90歳を超えても最前線でミステリを書き続けているレジェンド作家さんなどもいらっしゃいますが、自分にそこまで気力が続く自信がなかったので(笑)、少しでも気力があるうちに新しいことにチャレンジしようという気持ちが少しずつ大きくなりました。 僕はタイトルに関わっているあいだ、わりと寝てる時間以外は延々とそのタイトルのことを考え続けているので、タイトルへの愛着はものすごいものがあったんですが、それでもエンタメの最前線で戦っていくにはつねにチャレンジしていかないといけないという気持ちのほうが大きくなってしまったんです。 ちょうどそんなとき「新規コンテンツをやりたいと思っているんだよね」と現在所属しているGSCの安藝社長がおっしゃっていたのを聞きつけ、少しいままでとは違う環境でチャレンジしてみようと思い、安藝さんにお願いして入社させていただきました。 ただ、GSCは現在でも数タイトルソーシャルゲームをパブリッシングしていますが、社内にゲーム開発スタジオがあるわけではないので、企画書を作って開発スタジオ探しから始めて、なんやかんやでAimingさんとご縁ができました。それからAimingチームの皆さんといっしょに開発を進めています。 完全新規コンテンツ開発なので、現在進行形でたいへんなことがたくさんあります。「なんでまた同じような苦労を一からしないといけないんだ!」って前に退社したときとまったく同じことを言っているときもあるんですが(笑)。けっきょく、僕は熱量のある現場でないと楽しめないみたいなので、なんだかんだで楽しい毎日です。 ――新作ゲームを作りたくて動き出したと。 石原 楽しくない毎日が少し楽しくなるコンテンツなら、べつにゲームじゃなくても何でもよかったので、GSCに入社してから「アニメ発のIPやフィギュア発のIPもありかもしれないな~」などといろいろ考えてみたのですが、けっきょくコンテンツとして長くユーザーさんに愛されるものは、自分的にはやはりゲーム発IPがいちばん理に叶っているなという結論になりました。 僕は昔から「どれだけの時間、ユーザーさんにコンテンツに接してもらえるか?」がコンテンツの愛され度に直結するという考えでやっているので、 デイリー更新もある長期運用型のゲームが自分の思考的にあっているようです。 ――Aimingといっしょに制作することを決めた段階では、どの程度まで企画はできあがっていたのですか? 石原 世界観の舞台設定、キャラクターイラストに設定表、あとはだいたいこんな感じのゲームにしたいという企画は作っていましたが、「さあ具体的に落とし込もう!」という段階からAimingさんといっしょに内容を詰めています。制作途中に「仕様はやっぱりこうしよう!」とちゃぶ台がひっくり返ることもあり、まさに“新規コンテンツ”をゼロから作っているという感じですね。 石原氏が手掛ける新作はユニークなヒーローモノ! ――本作の概要を教えてください。 石原 本作のキャッチコピーは、“ヒーローはイイネで強くなる!”です。舞台となる世界にはまあいろいろあって、世界のあちらこちらで“超進化生物”と呼ばれる、いわゆるモンスターが出現するようになっています。 ヒーローたちとモンスターとの戦いは有料チャンネルで配信されていて、フォロワーがコメントを送ると戦っているヒーローが強くなる世界観となっています。地球のみんなオラに……的なヤツです。 ――わかりやすい(笑)。 石原 ただし、この世界で“子どものなりたい職業ナンバー1”であるヒーローを目指す者は多く、ヒーローの人気獲得競争は激化しています。底辺ヒーローはフォロワーが伸びないままミッションに失敗してひっそり引退することも多い……という世界観です。 ――ヒーロー業界は過酷な競争世界なんですね。プレイヤーの役割を教えてください。 石原 プレイヤーの役割は、作品の舞台・江顔市を守るヒーロー基地のチームリーダーです。クセが強すぎるヒーローたちと円滑なコミュニケーションをとりながら、さまざまなミッションを成功させていかなければいけません。 ゲーム内の行動によってはSNSでバズって無名のヒーローが突然人気者になったり、逆に炎上してヒーロー人気が急落することもあり、ヒーローの精神がズタボロになったりするんですが、そうすると調子に乗りまくったヒーローや、精神がズタボロになったヒーローは他人の言葉が耳に入りにくくなります。まさにそういう時こそ、プレイヤーとヒーローとの絆があらゆる成否の鍵になります。 ――チームリーダーの仕事は、一筋縄ではいかないようですね……。なぜそのような仕様にしようと思ったのですか? 石原 プレイヤーとヒーローのバディ感を強調したかったからです。バディ物って『ダイハード3』から『トイ・ストーリー』まで、互いに衝突しあうことで絆やドラマが生まれるところがおもしろいポイントだと思うので、何でも素直に言うことを聞いてくれる相棒だとストーリー展開的におもしろくなりません。 だから“指示は出すけど、ヒーローに拒否されることがある”ような作品にしたいなあと思って、逆算的に世界観を作ったりしています。こんなこと言っていても最終仕様は変わっているかもしれませんが、“プレイヤーがフリ回される”というところはつねに僕がやりたいことなので、体験としておもしろくなるように作っていきたいですね。 ――今回は、ミスティ=スペードと明智義光のふたりのヒーローが公開されました。 石原 僕は登場キャラ全員が主人公という気持ちで作品を作るので、先行公開したこの2キャラが特別というわけでもないですし、ほかにもクセの強いヒーローたちがたくさん登場します。 本作のキャラクターは“現代人が共感できる悩みや苦しみを持っている”という方針で作っていて、コミュ症気味な男性キャラ、世間知らずな女性キャラ、いつも笑顔だけど本当の気持ちはなかなか教えてくれない男性キャラ、元地下アイドルの女性キャラなど、さまざまなキャラクターが自分自身の目的のために人気ヒーローを目指しています。 そして、今回の作品のキャラクターデザインはHellartsの今井翔太くんです。これまで大きく名前は出ていませんが、じつはさまざまな人気コンテンツのキャラクターデザインに関わっていた今井くんが本作の世界観を拡張してくれているので、今後発表されるキャラクターにもぜひ注目してください。 ――とてもユニークな設定ですが、 最初からヒーローモノがやりたかったのですか? 石原 ヒーローもの自体は好きですが、最初からヒーローものを作ろうとは思っていませんでした。大昔に僕が『アイドルマスター』を作ったときもアイドルものを作りたかったわけではなく、僕は元々ゲームセンター用のゲームを作る部署に所属していたので、先に“メールでユーザーをゲームセンターに呼び出す”というアイデアがありました。 そこから「じゃあ誰に呼ばれるとうれしいのか?」を考えた結果“女の子”に呼び出されたいというアイデアが生まれ、当時流行の兆しのあったオンライン対戦をやりたいと考えていたので、それらを合わせると “競争社会である芸能界のアイドル”という世界観がピッタリなんじゃないかという結論にたどりついて、『アイドルマスター』になりました。 今回も最初に“逆転”というキーワードで何か作ろうという考えが先にあったんです。僕は昔からよくジャンボ宝くじが当たる妄想をするんですけど(笑)、けっきょくそれって現状を一発で逆転できる魅力を感じているからだなと思うんです。ギャンブルにハマる人もそうだし、ここ数年ですっかり市民権を得ているYouTuberやVTuberになりたいと考える人だって、現状をよりよくしたいからこそ“逆転”できる可能性にチャレンジする。 少しだけ本線を外れますが、「成功したい」、「勝ち組になりたい!」という欲求は、ここ数年、本当に大きくなっている気がします。スマホとSNSが完全に定着している現代は、他人と自分を比べるという比較行為も、近所の成功者やクラスメイトの成功者という狭いスケール感ではなくて、SNSで簡単に覗き見ることができる社会的な成功者たちと自分を比べるという、広いスケール感での比較になりました。 上を見れば見るほど、いまから少々の努力でなんとなくできる差ではないとより強く感じるし、世の中には強力なアセットを引き継いでいる人間がいることも知ってしまう。ただ、だからこそ現状打破には“逆転”しかないと感じる。なろう系の流行もこの辺りの社会情勢が下敷きになっていると考えていました。 僕はゲームというものは“体験を提供するメディア”だと考えているので「逆転できる体験をゲームとして提供できないかな?」ということを考えました。そして逆転という言葉を生かしやすいテーマを考えているとき、ヒーローはピンチになってから大逆転というのが、ある意味お約束みたいなところがあるよな……と思い、ヒーローをテーマにしてみようと考えました。 ただ、“逆転”というキーワード繋がりでヒーローの“逆転”と、YouTuberやVTuberのついこのあいだまで一般人だったのに動画がバズって一躍人気者になったり、 ほんの数年ですごいお金持ちになったりすることもあるという“人生の逆転劇”というところがなんとなく重なるなぁ……と思って、まぜこぜしているうちに現在のような設定になりました。 とはいえ、ヒーローモノだとワールドワイドでの展開を狙うこともやりやすいかもとは思っているので、対象ハードも固定せずに広く展開できれば……と思っています。 ――続報が楽しみです。 高屋敷さん、企画を聞いたときの第一印象を教えてください。 高屋敷 僕自身、別の作品で世界観やストーリー、キャラクターを作っているのですが、石原さんの資料を見て学ぶことが多いなと感じました。企画がおもしろいのはもちろん、個人だけではなく、会社としても学習する要素が多いところも、この企画に惹かれたポイントです。 それに石原さんの生み出す世界観やストーリー、キャラクターが持つビジネス的なスケール感も魅力ですね。これは僕だけではなくて、プレゼンをした段階でAimingの経営層も同じように感じていたようです。 ――実際に石原さんと開発を進めてみた感想も、高屋敷さんに伺いたいです。 高屋敷 いまのところはおもしろいですよ。 石原 いまのところは?(笑) 高屋敷 開発の序盤に揉めることはあまりないじゃないですか。開発が終盤に差し掛かると、ブラッシュアップする中で揉めることもあると思いますが(苦笑)。 石原 高屋敷さんはこだわって開発してくれる方なので、 僕はぜんぜん心配していません。心の中で僕は無理だと思っていても、高屋敷さんは自分から細部をよくしてくれると思いますので安心です。僕は風呂敷を広げるだけ広げるタイプですが、高屋敷さんはちゃんと綺麗に畳んでくださる人です。 ――強い信頼関係があるのですね。こだわりといえば、 物語の舞台となる都市の地図もすごい作り込みですよね。緻密に描かれていて地図を見ているだけでワクワクします! 石原 ありがとうございます。作品の舞台・江顔市は架空の都市なのですが、SNSをテーマのひとつにしていたので、住民の生活感がなさすぎるとコメントひとつとってもあまりピンとこない。そこで世界観の中の生活感をリアルにしていこうという考えの延長で、じゃあ街ごと作ってみよう……と考えて、空想地図を作るのが得意な地理人研究所さんにお願いしました。 エリアごとに、ここは下町、ここは新興住宅街といった、細かい設定があったり、高速道路の今後の延伸予定なども決まっていたりします。個人的に子どものころから地図が好きなので(笑)、僕が「足柄くらいの街の規模」みたいに日本のどんな街の名前を言っても「ああ、わかりました」と返ってきて、打ち合わせはとても楽しかったです。地理人研究所さんの話だと、これまで手掛けてきた空想地図の中でも史上最大級だったみたいです。 ゲーム的には地図がリアルになると、たとえば第1区にモンスターが出現したときに、「第1区の人、大丈夫ですか?」とか、「俺んちが燃えそうなんだけど」とか、ゲーム内でメッセージを流したりできます。ヒーローモノって、基本的に“守る”がベースにあると思っているので、守るべき人たちを感じられるようにしていきたいなぁと思っています。 またプレイヤーが江顔市内での居住地を決めておいて、ゲーム内イベントで第1区が襲われる……とかそういった要素も考えられるので、作品内で新しいおもしろさが出せるようにしたいですね。 ――緻密な地図を制作したからこそ、いろいろなアイデアが生まれているのですね。ちょっと気が早いのですが、石原さんがこれまで手掛けてきたコンテンツは、楽曲の展開や声優陣によるライブなどを積極的に行われていたイメージがあります。ゆくゆくは、本作でも楽曲の展開やライブの開催を考えているのでしょうか? 石原 どうでしょうか? いまの時点ではあんまり深く考えていないのですが、この世界の人気ヒーローにはいろいろな仕事があるので、あるかもしれないし、ないかもしれません(笑)。ユーザーさんの反応次第で展開を考えていこうと思います。 ハイエンドなタイトルを目指してAimingでは開発スタッフを募集中 ――現在の開発状況は何%ですか? 石原 高屋敷さんは何%だと思いますか? 高屋敷 10%ぐらいじゃないでしょうか。 石原 僕もそう思います。先ほどお伝えした通り、キャラクターの3Dモデルは随時作っているところなのですが、ゲームとして遊べるようになるのはもう少し時間がかかりそうです。 それにまだ開発初期ということもあって人手が足りなくて。いい芝居を作るためにもシナリオスクリプターさんを大募集中です。キャラクターシナリオも物量が多いので、ライターさんもまだまだ募集しています。僕のほうで必要な人材を勝手にアサインして、Aimingさんにどんどん入れているという(笑)。 ――(笑)。現在、スタッフの募集を行っているというお話を事前に伺っていますが、 どういった人材を募集しているのでしょうか? 高屋敷 Aimingとしては、これまで開発してきたタイトルで、一定水準のクオリティーの作品は作り上げることができたと自負しています。 ですが、本作は市場に投入されるタイミングでハイエンドな作品にしたいと考えているので、いまのままでは技術不足になるのではないかと懸念していて。 ハイエンドな作品としてリリースするために、いろいろなノウハウを補強したいと考えています。具体的には、細部までこだわって開発してくれる作家性の強いクリエイターの方にご協力いただきたいですね。 髪の毛の細かいところやスカートの揺れとか、そういったところは僕らがまだまだ不足しているところなので、細部にまで強いこだわりを持っている方が本作の開発に参加してくれるとうれしいです。 開発の序盤に近いタイミングで募集の案内を出せたのもポイントだと思うので、これから皆に愛される作品になるようにいっしょに盛り上げていきましょう。 石原 中国や韓国のゲームメーカーがハイクオリティーの作品をリリースする中で、本作は日本でもハイエンドなタイトルを、皆が納得する形で作り上げたいという気持ちがスタッフ一同非常に強いタイトルです。 この思いを実現するためにも、いろいろな人に少しずつでも協力してもらいながら作り上げたいので、本作に興味のある方は、ぜひ力を貸してください!
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