「『アキバくんが悪い女に引っかかっている!』みたいに言わないで(笑)」“コンカフェの街”へと変わる秋葉原をそれでも桃井はるこさんが応援する理由
2021年12月29日 11:12
「『アキバくんが悪い女に引っかかっている!』みたいに言わないで(笑)」“コンカフェの街”へと変わる秋葉原をそれでも桃井はるこさんが応援する理由

若者が憧れる「普通のものになる前のオタク文化があった秋葉原」とは 桃井はるこさんが語る“ときメモ”騒動「秋葉原初のコスプレ店員は私なんじゃないかな(笑)」 から続く 【写真】この記事の写真を見る(17枚)  今も「オタクの聖地」であり続けている秋葉原だが、現実はイメージの中の姿から大きく変化している。  メイド姿の呼び込みが歩道に並び、パソコンやアニメ、アイドル以上に目立っている。その変化を敬遠してか「秋葉原から足が遠のいた」という人も少なくないが、桃井さんは「秋葉原は秋葉原のまま、東京ラジオデパートなんてめちゃくちゃ面白いんですよ」と話す。  その真意とは――?(全3回の3回目/ #1 、 #2 を読む) ――2ちゃんねるに投稿された「実話」とされる『電車男』が書籍化され、映画化・ドラマ化を通じて盛り上がり、その少しあとにはアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の大ヒットなどもあり、オタク文化というか、ネット空間のノリが現実のメジャーな場に出ていく流れが2000年代の半ばにありました。このあたりの現象は今振り返ると、いろいろと難しい点もあります。ネットは今よりもアナーキーで、現在の目から見ると厳しいものもたくさんある。 ――オタクいじりはまだまだひどかったですよね。今だと考えられない。そして一方で、オタクの一部もかなりドギツいノリだった印象もあるんです。 桃井 それはありますね。オタクに限らず、人が集まるとどんな集団でも一定数そういう人は出てきますから、しょうがないことなのかなと思っていました。そのころからですかね。「秋葉原は変わった」「秋葉原はつまらなくなった」とよく言われるようになったのは。でももう、ずっと言われ続けていて、じゃあ、一番面白かった秋葉原っていつなんだよ! と、私はずっと思い続けています。秋葉原にいつも行く、秋葉原が好きな人ほど、「最近秋葉原がつまらなくなったよな」と言いがちだったりもするのですが、「秋葉原じゃなくて、お前がつまらなくなったんだろ!」みたいな(笑)。 ――自分もしばしばそう考えてしまうので、耳が痛いです……。しかし、率直なところ、桃井さんご自身はどうお考えですか? つまらなくなったは言い過ぎにしても、集まる人の雰囲気が変わったり、来る人の求めているものが変わったり、そもそもお店も入れ替わったり、いろいろと変化はありそうですが。 桃井 私にとっては今も楽しい街ですし、変わらず思い入れがあります。昔から、秋葉原のことは「幼馴染のアキバくん」だと思っているんですよ。 ――擬人化ですか。家族ではなく、幼馴染なんですね。 ――面白いです。人間の比喩で、街のことを考えてみる。 桃井 たとえば、コンカフェの客引きの女の子がいっぱい中央通りに立っている風景や、そうやって人を集めていたお店の中に風営法違反で営業していたところがあって摘発されたなんてニュースばかりが、秋葉原の話題として取り上げられがちです。インパクトがありますからね。でもそういうわかりやすいところじゃなくて、たとえば東京ラジオデパートが最近、大変面白いんですよ。萌えの街とみなされる前、パーツ街だったころの秋葉原の雰囲気がある。元々そこにある「家電のケンちゃん」というお店には良く行っていたのですが、最近そこでファミコンソフトの新作を売っている人がいるんです。 ――新作? 「新品」ではなくて? 桃井 「新作」です。ファミコンで動く、新作のゲームを作っている人がいるんです。「家電のケンちゃん」には古いファミコンソフトをランダムで出すガチャが置かれたりもして、私は最近はそれをやりに通っています。そうするとまんまと他のものも見るようになり、Macの中古品や、昔のPCエンジンGTやLTを最新の綺麗な液晶パネルに嵌め替えて、電池も持つようになって売られていたりするものが気になってくる。同じ建物の地下には「秋葉原最終処分場。」というジャンク屋があって、そこが昔ながらのジャンク屋の雰囲気なんです。ゲーセンの椅子が大量に売っている、みたいな。どこかのゲーセンがつぶれて、流れてきたんでしょうね。あの、ベルベット生地のちっちゃい椅子。 ――ゲーセンにしかない、あの円形のやつですか。 桃井 「すごく欲しい!」と思ったのですが、別の日に行ったらもう売れてしまっていました(笑)。ある日はiMacが大量にあって、「5000円でいい」といわれたんですけど、買ったところで何に使うのか。水槽にして金魚でも飼うかな、みたいな。ほかにもジャンク品から普通に使えるパーツまで売っているんですが、面白いのがハードディスクを破壊してくれるサービス。専用の壊す機械で、目の前で完全に破壊してくれる、「黒歴史最終処分場。」というサービスがウリなんです。 ――名前のセンスがいいですね(笑)。 桃井 そこのグッズもかわいくて、帽子やホテルキーホルダーみたいなグッズが出ていてすごく売れるそうですよ。「家電のケンちゃん」の隣の「Shigezone」というお店もいいんですよね。老舗のお店が辞めていく中で、明和電機の公式ショップが入ったことによって、建物全体の雰囲気が少し変わったかなと思います。ほかの場所でも、もともと東京ラジオデパートの中でやっていた「KVC lab.」というアーケードゲーム基板屋さんが、今年になって別の場所に店舗を構えたんです。それが今年の7月に出来たばかりなのに、どう見ても30年くらいやっていそうな店構えなんですよ(笑)。 ――まったく知らない世界です……すごい。 桃井 「KVC lab.」は海外からの通販注文が多いらしいんです。どうも海外の人にとっては、「秋葉原に店舗がある」ということが信用に繋がるみたいで。 ――ああ! なるほど! よく知られた地名で、オタクに強い電気街のイメージもあって。 桃井 面白いですよね。私は昔、秋葉原は怪しげなものを買う場所だと思っていました。でも今じゃ、例えばLEDって、通販でいっぱい買うと、光の弱いものも混じっていたりするので、結局自分で検品をしないといけないんです。本番で使うときに不良品に気づいたらイヤじゃないですか。でも秋葉原のLED専門店に行くと、ちゃんと光るかどうかをひとつひとつ試してくれるんです。液晶パネルも同じで、お店だとその場で点灯させて、ドット抜けがないものを選ばせてくれる。そういう変化で、最近は逆に、秋葉原が信用の街になってきているなと感じています。 桃井 きっと、あの作品で主人公たちが集まる「ラボ」みたいな、溜まり場的なものにみんな憧れているのかな、と。『STEINS;GATE』の主な舞台は秋葉原で、裏通りにある、行くと誰かがいる溜まり場が「ラボ」。私が最初に秋葉原で通うようになったメッセサンオーの海外ゲームコーナーは、今思えば「ラボ」みたいな感じだったわけです。そういうサロン的な、行くと誰かがいて、好きなことをしていてもいいし、ちょっと語らってもいいような、そんな場所に憧れを持つんじゃないかな、と思います。今の東京ラジオデパートのお店に行くと、みんな、相変わらずひとりで来ているんだけれども、お店の人と話し込んだり、あのころの雰囲気があるなぁと。「Shigezone」の店主さんは、「店頭で話すと迷惑なんだよ」と言っていたりもして、そうやって口では嫌がってみせるところも昔ながらのアキバっぽいなと思ったりして(笑)。 ――なるほどなぁ……。 桃井 オンラインでも、VTuberの動画のコメント欄に集まったり、Discordサーバーを立てて連日やりとりをしていたりする人たちを見ていると、「ラボ」に似ているなと思うんです。それはそれでいいものだけど、やっぱりリアルでもそういう場所が欲しい気持ちはあるんだろうな、と。『アキハバLOVE』に収録した文章の中に、秋葉原はサービスの街になっていくだろう、みたいなことを書いたものがあったはずなんです。あの本は赤裸々に書いた自伝的な部分が多くて気恥ずかしいので、なかなか読み返せないので、ちょっとうろ覚えですが(笑)。 ――時代の空気をパッケージングした名著なのに。 桃井 ありがとうございます。読みたいと言ってくださる方も多いので、電子書籍にしたいんですけどね。どこから手を付けたらいいのか、よくわからなくて。 ――桃井さんの名前を冠した時計もありますからね。 桃井 秋葉原電気街振興会のガイドマップに載せてもらっている「モモーイ時計」ですね。秋葉原駅の電気街口を出てすぐ、アトレ秋葉原の前に90年代からずっと同じ場所にさりげなく立っている銀色の柱時計。駅が改装されてもアスファルトがタイルに敷き替えられても、少しの移動もせずにずっと同じ場所にあるんですよ。待ち合わせの目印にしたり写真を撮ったりして欲しいですね。 ――確かに、変わっていくものと変わらないものがあります。 桃井 これから秋葉原がどんなふうになるにせよ、私はこれからも幼馴染のアキバくんを応援しながら、ずっと見ていくし、ずっと会いに行くので、みんなもこれからも仲良くしてね。あまりコンカフェのことを悪く言わないでほしい。「アキバくんが悪い女に引っかかっている!」みたいに言わないで(笑)。正統派の、素敵なコンカフェもたくさんあるんだから!

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