
“ホロライブ生みの親”カバー谷郷社長が語る上場の意義「VTuberは、より一般化した存在になり得る」
国内最大規模のVTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバー株式会社(以下、カバー)が5月12日、上場後初の通期決算を発表した。売上高は204億5100万円(前年同期比+49.7%)をマーク。営業利益34億1700万円(同+84.2%)、経常利益33億8500万円(同+82.6%)、純利益25億800万円(同+101.6%)と、大幅な成長を果たした。 【全画像をみる】“ホロライブ生みの親”カバー谷郷社長が語る上場の意義「VTuberは、より一般化した存在になり得る」 躍進を続けるカバーを率いるのは、社長の谷郷元昭氏だ。谷郷氏は、上場はあくまで「スタートライン」と位置づける。その上で、「VTuberはYouTubeを見ている方だけの存在にとどまらず、より一般化した存在になり得る」と、未来の展望を語る。 上場を果たした意義や今後のビジネス戦略、新規事業「ホロアース」について谷郷氏に聞いた。(※後編は近日掲載予定) ──具体的な事業では4つの領域(配信・コンテンツ、ライブ・イベント、マーチャンダイジング、ライセンス・タイアップ)があり、いずれも売上高が伸びています。収益の基盤が固まってきましたが、今後はどの領域を伸ばしていきたいですか。 「伸ばしていく」というより「伸びるのはどこか」という意味では、マーチャンダイジングとライセンス・タイアップだと思います。 マーチャンダイジング分野では、現状は各タレントさんのグッズ、特に記念日のグッズ販売などが中心になっています。ただ、これは店頭に並んでいるグッズというよりは受注生産など、限定商品に近いかたちです。 自社のECサイトはありますが「在庫なし」の商品もあり、せっかく“推し”ができても買えるグッズがない場合もあります。ファンの方がアニメ関連のお店などでもっと身近にグッズを購入できる環境にしていくことが必要だと考えています。 それは、中学・高校生の方たちの間でもホロライブプロダクションのファンが増えている中で、そういった(未成年の)方たちが店頭で気軽にグッズを買えるようになる意味でも重要です。 ──確かに。ECサイトではクレジットカード決済が主です。 やはり、店頭にグッズがなければ、まともに“推し活”ができません。 私たちもそういったマーチャンダイジングの取り組みをキャッチアップしていく必要がある。そこが私たちの課題です。 いま提供し始めているぬいぐるみシリーズ「hololive friends with u」が人気と聞いていますが、各タレントさんの個別グッズだけではなく、せっかくホロライブプロダクションとして展開するのであれば、「みこめっと」や「不知火建設(しらけん)」など、ファンの皆さんがユニットを作って楽しめる……みたいなところも需要があるのかなという認識です。 ──3月に幕張メッセで開かれたイベント「hololive SUPER EXPO 2023」では、これまで一緒にグッズを制作した企業のブースなどがあり、ファンが展示を楽しんでいました。今後、ライセンス・タイアップ領域が伸長する可能性も感じました。 おかげさまで、国内では大手のライセンス先の企業様とお付き合いをさせていただいていると思います。 今後は、特に海外におけるライセンス事業が重要になっていくと考えています。海外向けのグッズをこれから増やすとして、ファンの需要にあったものを作るためにも、海外のライセンス先企業様も開拓していきたいですね。 ── 一方で、現時点で感じている課題は。 やはり、事業開発ですね。もちろんカバーには良いコンテンツやプロダクトを作る人たちが集まっており、音楽もライブもイベントも、コンテンツの品質に対するこだわりはかなりあると思っています。一方で、ビジネスにはまだまだ課題があります。 エンタメビジネスの本質は、利益を生み出し、その利益をもって新しい事業に取り組めるところにあります。いくら良いコンテンツを作れたとしても、それをしっかりとビジネスにつなげられなければ意味がありません。 「いいものは作れるけれど、作りっぱなし」ではなく、それがお客さんの求めているものであり、しっかりと利益も生み、さらに新しく面白いものを作れる好循環をつくれるか。そこも課題の一つです。 ──新規事業について。開発を進めているメタバース事業「ホロアース」が注目されていますね。 カバーのビジネスとしては、3つのフェーズがあると考えています。 最初はIPを確立していくフェーズ。2つ目はコマースの展開。そこには先ほどお話したマーチャンダイジングだけではなく「メディアミックス」のビジネスを進めることも含まれています。 そして、3つ目がメタバース領域です。開発中の「ホロアース」は新規事業ですが、これはあくまで中長期にわたって事業成長を考えるためのビジネスとして考えています。 ただ、メタバース領域は完全に新しい事業です。まだ誰にも「正解」は分かりません。 ホロアースの中ではテストとしてライブを実施したり、サンドボックス型のゲームをテスト公開したりしていますが、少しずつ少しずつ事業として立ち上げていくものだと考えています。 これはVTube業界が立ち上がって、私たちの事業が広がっていったのと同様、メタバース事業も非常に時間をかけながら立ち上がっていくという認識です。 強いて言うならば、『フォートナイト』や『Roblox』などが、正解の一つの形ではあるとは思います。ただ、まだまだ色々な会社が、色々な形でメタバースをどうビジネスにつなげるか模索している状況です。 私たちもホロアースの事業を立ち上げて、いきなりバラ色の世界がやってくるとは思っていません。 ──現時点では第2フェーズのコマース領域、特に「メディアミックス」の確立が足元のメインになりそうですね。 メディアミックスは、他社さんとアライアンスを結びながら、新しいメディアに対してリーチしていくものです。 音楽分野では、すいせいさんの「THE FIRST TAKE」の事例などがありますが、他の分野でもまだまだ成長できる余地があります。 VTuber事業のビジネスは、まさに今、これから大きくなるところです。一般的なIPホルダーさんはテレビアニメやゲームを立ち上げながら、マーチャンダイジングやライセンスアウトのビジネスを成長させますが、私たちもその段階にいるという認識です。 当面はメタバースよりも、マーチャンダイジングやメディアミックス事業の成長が会社をけん引していくメイン領域になると考えています。 (後編に続く)*近日掲載予定
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