
レベルファイブ、設立25周年 日野社長が見据える世界展開
2023年に創立25周年を迎えるレベルファイブ(福岡市)は、シリーズ新作4本、完全新作1本を投入する。これまでの国内重視から、多言語、マルチプラットフォーム対応により、幅広いファンに向けた制作態勢に切り替える。「イナズマイレブン」最新作では、過去の全登場キャラクター(一部を除く)約4500体の3Dデータを、AIを活用して効率的に制作するなど、新たな開発態勢も整えた。レベルファイブの日野晃博社長に、23年の方針を聞いた。 【関連画像】「デカポリス」は23年発売予定のクライムサスペンスRPG。PlayStation 4、PlayStation 5、Nintendo Switch対応 ©LEVEL-5 Inc. ――2023年でレベルファイブは設立25周年となります。 日野晃博氏(以下、日野) 1998年設立ですから、そうですね。僕からすれば、1年くらいしかたっていない感じですが。(笑) ――2023年3月のオンライン新作発表会「LEVEL5 VISION 2023 鼓(つづみ)」では、イラストの日野さんが登場していました。 日野 そうなんですよ。エンターテインメント企業として、何か面白い演出ができないかと思って、自分の映像は使わずに、急きょ制作した僕を模したVTuberのようなキャラクターでプレゼンテーションしたんです。キャラクターにすることで、イベント全体の雰囲気も柔らかくなってよかったなと思っています。Twitterのアイコンも差し替えましたし、これからは、できるだけこのキャラクターで統一していこうと思っています。会社の若々しいイメージも大事にしたいですし。(笑) ――なるほど。さて22年の振り返りから始めたいのですが、同年は「メガトン級ムサシ」中心の1年間でした。 日野 そうですね。22年のレベルファイブの動きを見ていると、「ムサシしか作っていないけど大丈夫?」と思われたかもしれません。 ですが、LEVEL5 VISION 2023で披露した通り、23年は新作を複数リリースします。それだけのタイトルを22年以前から開発していたのですが、ある程度きちんと進行した段階で、発表したいと考えていました。新型コロナウイルス感染症流行の影響で、イベントを実施したくてもできなかったということもあります。 これまでも、新作や、移植版・海外版タイトルを発表したことはありましたが、今回のLEVEL5 VISIONは海外にも向けた最大級の発表になったと思います。 ●「ムサシ」は収益が最終目標ではない ――ムサシはビジネス面では厳しい部分もあったかと思いますが、どのように捉えていらっしゃいますか。 日野 第2弾となる「メガトン級ムサシX(クロス)」を制作するとき、このタイトルは収益が最終目標ではなく、ユーザーに対して誠実に、コンテンツを最後までしっかり作り込もう、という会社の姿勢を貫くことを大事にしました。 (他のタイトルと)比較すると絶対数は少ないかもしれませんが、ムサシが本当に好きでついて来てくれる方たちがいます。応援してくれる方へ向けて、最後まで満足してもらえるように制作する。そういう会社の姿勢ができれば、ユーザーが10万人、100万人になっても生きるのではないかと思っています。そういう点で、ムサシは重要な役割を果たしました。 ユーザーとのコミュニケーションで言うと、ムサシファンの声を集めるための取り組みとして「メガトン級ムサシ アンバサダープログラム」を実施しました。アンバサダーの皆さんから良かったところ、不満に感じたところを聞いて、どこを伸ばせばいいのか、どこに力を入れればみんなが喜んでくれるのか――そういうことを肌で感じられるような取り組みを始めたのです。 これが大事で、僕もこれまで「妖怪ウォッチ」などのヒット作に関わってきましたが、自分が狙っていないところ、“ラッキー要素”でうまく回って成功していた面はあったと思います。意識せず、たまたまユーザーの気持ちをつかめていた部分があったわけです。これでは駄目です。だから、「偶然うまくできた」ではなく、「きちんとユーザーの気持ちを理解できる」ように、アンバサダープログラムを実施したんです。 ――ムサシファンの気持ちの理解は深まりましたか? 日野 大いに深まりましたね。ムサシはゲームのほうも数回にわたりアップデートして、アニメ作品も最終回まで熱く盛り上がるような熱意を込めて作り続けました。作品の最後に近づくと徐々にファンのテンションが下がってしまうことはよくあると思うのですが、ムサシではそのテンションが失われずに、むしろ高まる方向で最終話を迎えることができたんです。だからこそ、ムサシで行ったような活動は、別の作品でもすべきことなんだな、と思いました。ムサシがあったからこそ、これから先、レベルファイブは良い作品を作れそうな気がします。 ――LEVEL5 VISON 2023で発表された新作について、まずは完全新作の「デカポリス」から教えてください。 日野 僕は刑事物とか推理物が好きなんですよね。今回のデカポリスは、大人の知的好奇心をくすぐり、それでいてレベルファイブらしい世界観を持ったタイトルを目指しています。 ――ゲームシステムとしては、パズルを解くタイプの「レイトン教授」シリーズとは違いますか? 日野 レイトン教授シリーズと近い部分もあるのですが、パズルの解き方が違いますかね。デカポリスでは“事件ボード”という、登場人物や関係性、証拠などを広げて並べるボードが出てきます。刑事物のテレビドラマで出てくる、被害者や被疑者の写真を貼り付けるホワイトボードのようなイメージですね。キャラクターの証言や証拠を集めて、その条件に合った人物関係図や証拠を事件ボード上で組み合わせてパズルを完成させていく、という推理をすることになります。 パズルが進むと犯人を推定できるようになるのですが、仮にストーリーを完璧に理解できていなくても、当てずっぽうで犯人を当てることもできちゃうんです。つまりゲームをたくさんプレーしていないライトな人でもストーリーを進められますし、ゲームが好きな人なら、ストーリーをより深く読み込んで、理論で推理を楽しめるようにしているところもポイントです。 ――仮想空間と現実世界の2つの世界を行き来しますね。 日野 デカポリスでは、仮想空間の事件を解決することも必要になってきます。仮想空間は現実の世界を丸ごとコピーした世界なので、過去の現実世界で起きた事件にも立ち戻ることができます。その過去の事件をクリアすることで、現実世界の事件を解決するヒントを得られます。そのヒントを基に、現実世界にいる悪者を追い詰めることができるのです。こうした現実世界と仮想世界の捜査を組み合わせて、事件解決に導くこともデカポリスの面白さですね。 ――クロスメディア作品でもあります。 日野 はい。現在、アニメ作品を企画している段階です。 ――次に、ニンテンドー3DS版の発売から約10年となる続編「ファンタジーライフiグルグルの竜と時をぬすむ少女」についてです。「i」に込めた意味は何でしょうか? 日野 「i」には、インターネットのi、アイランドのi、自分を意味するi(アイ)の意味があると、LEVEL5 VISION 2023ではご説明しましたが、実はもう一つあるんです。今回、「ファンタジーライフ」という大きな作品を、現在レベルファイブの仲間として入ってもらっている稲船さん(LEVEL5 comcept CCOの稲船敬二氏)に任せようと決めたときに、僕としては“稲船”の「i」もかけて、タイトル名にしました。実際、稲船さんが仕切っているLEVEL5 comceptのチームが中心になり、丁寧に作っているので、ご期待ください。 ――「メガトン級ムサシW(ワイアード)」についても聞かせてください。こちらも世界を意識した作品ということですが。 日野 そうですね。ムサシXのインターナショナル版という位置付けなのですが、このタイミングに合わせて追加要素を入れることも予定しています。インターナショナル版なので、プラットフォームも Nintendo Switch、PlayStation5、PlayStation4、Steamに増やして、多言語にも対応しています。オンラインマルチプレーもプラットフォームの垣根を越えて楽しめるようにもなりました。 23年のLEVEL5 VISIONのテーマが、世界に向けて情報を発信するというものでした。レベルファイブは、他の国内大手ゲーム会社と比べて、世界同時発売、マルチプラットフォームや多言語化という意味で非常に遅れていたと自分でも認識しています。これまで、IP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)を開発することにすごく力を入れてきたのですが、世界に向けた販売戦略などにはあまり意識を向けてこなかったんです。世界同時発売するためには、半年間程度は翻訳期間を設ける必要があるのですが、それほど多くの開発の時間は費やせないという気持ちがあって。 そのため国内重視型のゲーム会社になってしまっていたのですが、これからは勇気を持って、(翻訳にかかる)半年の猶予期間を取りつつ、世界同時発売にチャレンジしていくことになります。世界展開を意識した作品としては、ムサシWが先になるのか、ファンタジーライフiが先になるのか微妙なところですが。 ――その中でも、世界同時発売、多言語対応、マルチプラットフォームという3本柱で実施するムサシWは、販売体制やサポートなど大変だったのではないですか。 日野 昔は販路を確保しなければならなかったじゃないですか。欧州ではどのルートで販売してもらって、どのお店に並べてもらって……ということをしてきましたよね。しかし、今はオンライン販売でビジネスができるようになって、全世界同時発売する苦労は軽減されたと思います。日本の小売店向けや任天堂さんと協力して販売するタイトルなどで、物理的な製品を供給するという部分はこれからも変わりはないと思いますが。 ――レイトン教授シリーズの新作「レイトン教授と蒸気の新世界」では、知識集団「QuizKnock」とコラボレーションしていますね。 日野 若い世代にレイトンを遊んでもらうために、その世代から人気のQuizKnockさんの力をお借りしたいと思っています。QuizKnockさんとわいわい言いながら謎を開発するのは、ゲーム開発チームにとってもきっと楽しいですし、その楽しさが遊んでくれる人たちにも伝わると考えています。 ――レイトン教授シリーズはストーリーとして一度エンディングを迎えています。新作を作るにあたって、どんな工夫をされましたか。 日野 新作に取り組むにあたり、シリーズを通した全体ストーリーなど、かなり深く考えましたね。全6作品のレイトン教授シリーズは、エピソード4~6を先に発表して、その後エピソード1~3をリリースしました。なので、エピソード6「レイトン教授と最後の時間旅行」がシリーズ最終話となっています。その最後が実は最後ではなかった、という形でストーリーが進みます。全世界のレイトンファンの皆さまにお届けできるよう、「レイトン教授と蒸気の新世界」も世界同時発売、多言語対応となっています。 ――エピソード6「レイトン教授と最後の時間旅行」のエンディングで涙した人たちも納得できる続編なんですよね。 日野 はい、納得できる内容になっていると思います。 ●「イナズマイレブン」も世界同時発売 ――新作「イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード」も世界同時発売、多言語対応になるのですよね。 日野 そうです。今回発表したタイトルはすべて世界同時、多言語対応となります。 ――新作「イナズマイレブン」のアニメ部分は、MAPPA(東京・杉並)が新たに担当になります。その理由は? 日野 やっぱり、高品質なアニメを制作したい、という思いです。まだ完成していないんですが、制作の打ち合わせを重ねていると、MAPPAさんは非常にこだわりがある方たちだな、と感じますね。 あるシーンをアニメにするとき、1人のキャラクターにこういうシチュエーションで、こういうセリフをしゃべらせて、こういうストーリーにしたい、と説明するじゃないですか。すると、「このキャラクターの心情をもっと詳しく聞かせてくれ」と問い合わせがあるんですよ。一人ひとりのキャラクターの心理描写を深く掘り下げたい、とこだわっていただけるので、僕も楽しく、一緒になって掘り下げまくっています。 ――アニメ制作会社が変わると、映像の雰囲気も変わってしまいますか? 日野 新しくMAPPAさんがアニメを担当しても、イナズマイレブンとしてのアイデンティティーに変わりはありません。演出重視でこういうシーンにしたいと言われることもありますが、その演出がどんなにかっこ良くても、イナズマイレブンでなくなるようなことはやらないでおきましょう、とやり取りしています。演出部分はより高まっていますが、イナズマイレブンであることは変わりないので、そこは安心してください。 ――新作が目指すところは何でしょうか。オールキャラクター勢ぞろいという内容になっていますが。 日野 オールキャラクターが出てくるというのは、純粋にファンの皆さんに喜んでいただきたいからです。今回の発表までは、イナズマイレブンファンの皆さんの期待を裏切ってきてしまったので……。 ――裏切るとはどういうことですか? 日野 イナズマイレブンの新作ゲームを作ると発表してから、実は7年くらいたってしまっているんです。テレビアニメ作品「イナズマイレブン アレスの天秤」(18年)と「オリオンの刻印」(18~19年)の放送に合わせてゲームタイトルもリリースしようと思っていたんですが、制作が滞り、結局間に合いませんでした。ファンの皆さんを裏切る結果になってしまったことを、とても申し訳なく思っています。 おわびと言ってはなんですが、ここは遅れついでにファンの皆さんが喜ぶことを全部入れ込もうということで挑んだのが今回の新作です。過去のイナズマイレブンのキャラクターほぼすべて、4500人を登場させ、しかもそのすべてがハイクオリティーのポリゴンで再現されて、表情も変化させるところまで、ものすごい物量を開発してきました。 ――制作は大丈夫なんでしょうか。 日野 普通に開発したらとんでもない量なので、技術的に工夫を重ねてきました。具体的にはAI(人工知能)を使って、イラストから3Dポリゴンを効率よく生成するプログラムを、当社の技術チームが新しく開発しました。短期間で物量をこなすための仕組みができたことはとても誇らしくて、「うち(レベルファイブ)の技術チーム、ほんとえらいわー、助かった!」と思っています。(笑) ――新作がこれだけ続くと、開発チームも拡充しなければなりませんか。現在、レベルファイブでは中途採用も含めた社員を募集されています。 日野 人材の確保は必要になってきますね、開発のスピードに関わってきますから。時間をかければ、今の体制でも可能かもしれませんが、スピードも必要なので、開発規模を跳ね上げたいと思っています。今回発表した新プロジェクトのスタッフも、大規模募集しています。 ――25周年を迎えて、23年はどのような1年にしたいですか。 日野 レベルファイブのイメージをしっかりと回復したいと思っています。LEVEL5 VISIONで良い方向に動き出しているので、これからもファンの皆さんにたくさん情報をお届けできるように頑張っていきます。
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