日本にはびこる「海外BEVごり押し」説は本当か? アフリカ・東南アジアでもBEV急成長、変化を迫られているのは日本だ
2022年04月08日 21:04
日本にはびこる「海外BEVごり押し」説は本当か? アフリカ・東南アジアでもBEV急成長、変化を迫られているのは日本だ

 BEVは車両価格が高く、電力網が不安定な新興国での普及は難しい――。  これまで多くの新興国でバッテリー式電気自動車(BEV)の販売が少なかったことから、まことしやかにささやかれていたこのような意見。ところがいま、生産量の増加や低価格化を背景に、新興国でBEVの販売が転換期を迎えている。 【画像】えっ…! これがトヨタの「年収」です(11枚)  アフリカ有数の経済規模を誇る南アフリカ。2020年のBEV販売数は100台未満だったが、2021年は200台を超え、2022年には 「500台」 を突破、毎年2倍のペースで成長を続けている。  同国ではこれまで、最も安価な車種でも500万円を超えていたものの、2023年はより安価な車種も発売予定であり、このペースで成長が続けば1000台を超えると見られている。  アフリカと同じく日本メーカーの牙城である東南アジアでは、さらに顕著な動きを見せている。  同地域で2位の経済大国であるタイは2021年は2000台に満たなかったものの、2022年には5倍となる9644台、直近2023年2月は1か月だけで5402台を販売し、前年同月から50倍以上の急成長を達成。タイ工業連盟(FTI)によると同月のBEVシェアは 「7.8%」 にのぼり、日本の2.5%を大きく上回る。  2022年後半にタイに進出した米BEV大手のテスラは発売から数日で5000台、中国BYDは1か月で1万台を超える注文を集めた。BYDは去る2022年9月に現地工場の建設に5億ドル(約664億円)規模の投資を発表、2024年の生産開始を予定している。  さらに、首都バンコクでは3年以内に全てのバスをBEVに置き換えることが計画されており、乗用車だけでなく公共交通機関もBEVへの移行を進めている。  他の国でも同様の動きを見せており、例えばマレーシアでは2024年までBEVの関税を100%免除、2021年に累計約500台だったBEVは2022年11月の時点で4倍となる2000台を突破。  インドでは2022年のBEVシェアが1.1%に達し、2021年の0.33%から大きく成長。過半数を占める日本メーカーがBEVへの移行を進めないなか、同国の自動車大手であるタタモーターズが8割以上のシェアを持っている。  新興国は気候変動の影響を受けやすく大気汚染が深刻化していて、これらを回避することがBEVへの移行を進めている理由のひとつだが、実はほかにも重要な事情が存在する。ごく一部の産油国を除き、多くの新興国では巨額な化石燃料の輸入が 「貿易赤字を招いている」 からだ。  例えば、免税などにより政府としてBEVの普及を促進するエチオピアでは、実際に化石燃料の輸入に毎年数千億円を費やしている。また、米エネルギー省・ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)からの報告「Pathways to Atmanirbhar Bharat(自立したインドへの道)」によると、インドでは再エネや蓄電などを活用することで、2047年までに原油の輸入を90%(年間で約32兆円に相当)削減でき、現在よりも経済的に自給自足が達成可能としている。  これまで再エネや蓄電というと高価なイメージがあり、一昔前は欧米などの先進国が中心的な役割を果たしていた。ところが近年は風力や太陽光、蓄電池などの価格が低下し、アフリカや東南アジアなどの新興国でも導入が急増。  例えば、これまで石炭火力が中心だった南アフリカでは、出力100MW以上の大規模な発電設備でも承認が不要な届け出制度に変わり、2023年の1~2月の2か月間で登録が1000MWを突破。2021年は135MW、2022年は1646MWだったことを考えると、指数関数的な成長が続いていることがわかる。  また、ケニアなど一部の国では、既に水力や地熱などの再エネが中心となっている。これらの国を含めた多くの新興国において、今後はコストが低下した再エネや蓄電を推し進めることが示されている。  燃料が不要な再エネで発電した電力を使ってBEVを走らせることで、化石燃料の輸入を減らして貿易赤字を解消、さらにエネルギー自給率を向上させ国家安全保障に寄与する。このような思惑が、新興国でBEVが注目されている理由のひとつだろう。  多くの経済大国や新興国がBEVにかじを切るなか、産油国も決して手をこまねいているわけではない。将来的に化石燃料の消費量が減ることは目に見えており、BEV関連産業を化石燃料の輸出に代わる新たな成長産業として位置づけ、支援・育成する動きが広がっている。  例えばサウジアラビアは米BEVスタートアップのルーシッドに10億ドル(約1300億円)を出資、同社から10万台のBEVを購入すると同時にサウジアラビアに工場を建設することを計画。  化石燃料が歳入の7割を占めるカタールでも、フォルクスワーゲンなど複数の自動車メーカーと協力してBEVに投資。2022年に公共交通機関の25%、2030年には100%をBEVに移行する計画で、さらに1万5000基の公共充電器の設置が計画されている。  一方で、電池の原料となるニッケルの埋蔵量が豊富なインドネシアでは電池やBEVの生産工場を招致し、国を挙げて産業の育成に力を入れている。  これに応える形で韓国LGと現代自動車が2021年に電池工場を建設、2024年の生産開始を予定。さらに2022年にはこの電池を使った完成車工場の建設を開始、東南アジアにおける同社のBEV生産拠点とする予定だ。  このほかにも中国BEV大手の五菱が2022年に生産を開始、右ハンドル市場の輸出拠点になるという。さらに米BEV大手のテスラも年産100万台規模の完成車工場の建設に向け、交渉の最終段階と報道されている。

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