カバーが東証グロースに上場、時価総額856億円に。躍進する「ホロライブ」の魅力とは?
2022年03月27日 20:03
カバーが東証グロースに上場、時価総額856億円に。躍進する「ホロライブ」の魅力とは?

2Dや3Dのキャラクターをアバターに用い、ネット上で活動するバーチャルYouTuber(VTuber。バーチャルライバーとも呼ぶ)の事務所「ホロライブプロダクション」を運営するCOVER(カバー)が3月27日、東証グロース市場に上場した。VTuberを本業とする上場は「にじさんじ」を運営するANYCOLORに続き2社目となる。 【全画像をみる】カバーが東証グロースに上場、時価総額856億円に。躍進する「ホロライブ」の魅力とは? 発行済株式数は6112万4200株。公開価格は750円だったが、初値は1750円で公募価格の約2.3倍をマークした。その後は一時2000円まで高騰したが、初値形成後に大株主へのロックアップ解除を受けてか、一転して売り気配の展開に。上場初日の終値は初値比20%安の1400円。時価総額は約856億円となった。 ただ、急成長する業界のリーディング企業の一つとして株式市場の注目を集めたことは確かなようだ。Twitterでは「カバーの株」がトレンド入りするほどだった。 在籍するVTuber全てのチャンネル登録総数は2022年末時点で延べ7200万超。自社IPの影響力が伸びるにつれてビジネスも成長し、2022年3月期時点でVTuber一人あたりの収益は年間約2億円に成長した。 三つ目は「マーチャンダイジングサービス」。具体的には、所属VTuberのキャラクターグッズやシチュエーションボイスなどの販売だ。自社ECサイト「hololive production OFFICIAL SHOP」を通じ、国内外で商品が展開されている グッズ展開は幅広い。代表的なものではアクリルスタンドやキーホルダー、ぬいぐるみ、VTuberの衣装をモチーフにしたアパレルなどだ。 シチュエーションボイスとは、季節に応じて収録されたドラマCDのようなボイスコンテンツのこと。バレンタインや夏休み、クリスマスなどでVTuberと一緒に過ごしている気分が味わえることが魅力で、推し活シーンのメインの一つにもなっている。 カバーによると、売上構成ではVTuberの誕生日や記念日などに展開される「特別受注生産・販売前提の商品の構成が大きい」という。現在は幅広い層に向けて常時販売可能な収益性の高い商品の開発を進めているという。 ホロライブプロダクションの発足から5年、VTuber事業の収益モデルは基礎部分が固まってきたと言えるだろう。今後の展開を見据えて、カバーは新規事業にも取り組んでいる。 企業の歴史を紐解くと分かる通り、カバーはVRを祖業とする会社だ。業界内でも配信や3Dなど技術力にも定評があり、近年はメタバースプラットフォーム「ホロアース」の開発に力を注ぐ。 これまでの技術を活かし、VTuberとファンが双方向で交流、活動できるメタバースのプラットフォームの実現を目指している。 こうした「アイドル」としてのサクセスストーリーや物語性も、ホロメンたちの魅力の一端だ。 さらに、人脈の広さで知られる「ロボ子さん」や、都の観光大使に任命されるなど誰がなんと言おうと“トップエリートの巫女アイドル”であることに疑いの余地はない「さくらみこ」さんも黎明期からカバーを支えてきた存在だ。 また、初期には自社レーベル「イノナカミュージック」を立ち上げるなど試行錯誤も続いた。同レーベルには「AZKi(あずき)」さんや「星街すいせい」さんが所属したことでも知られる。 のちに二人は「ホロライブ」に合流するが、類まれなる歌唱力と音楽センスは、のちにVTuberが音楽シーンで活動の幅を広げる礎の一つとなったと言えるだろう。 以上、ときのそらさんをはじめ初期からカバーを支えてきた5人は、のちに「ホロライブ0期生」として定義された。ホロライブ2期生の「大空スバル」さんは「アベンジャーズのようにアッセンブルした(存在)」と讃える。 数万人いるとされるVTuber全体の中でもトップレベルの歌唱力を持つのが、先に挙げた「星街すいせい」さんだ。 元々は個人勢であり、自身のキャラクターデザインやイラスト、動画の編集など全てをこなすマルチクリエーターとしての側面も持つ。またテトリスの腕前がプロ級であることでも知られている。 星街さんはデビュー後、カバーの自社レーベル「イノナカミュージック」を経て、ホロライブに移籍。当初からオリジナル楽曲を発表し、2021年9月には初のフルアルバム『Still Still Stellar』を発表。星街さんが作詞し、TAKU INOUE(井上拓、通称“イノタク”)さんが作曲を手掛けたリードトラック「Stellar Stellar」は星街さんを代表する一曲となった。 2023年1月には、VTuberとして初めて「THE FIRST TAKE」(一発取りで収録した楽曲を披露するプロジェクト)に登場。現在までに1000万再生を突破。 「彗星の如く現れたスターの原石」は、今や名実ともにスターとしての輝きを放っている。 事業の性格上、VTuber事業はタレントの人気やコンテンツ供給の頻度に一定程度依存している。カバーも有価証券届出書でも、以下のように例示している。 「不適切なコンテンツの配信、スキャンダル、炎上、誹謗中傷、その他健康上の理由等により、当社所属コンテンツ・クリエイターが視聴者からの継続的な支持を得ることができなくなった場合、活動頻度が著しく低下した場合、又は活動の継続が困 難になった場合等には、関連するIP、コンテンツ又は商品等の付加価値の低下を通じて当社のレピュテーション、事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります」 例えば、過去には権利者に配信許諾を得ていなかった事例が発覚したことがある。また、秘密保持に抵触する情報漏えいなどで契約を解除した事例もファンの記憶には新しい。 海外に事業が広がったことで新たな火種も生まれた。VTuberの影響力が増し、国境を超えてファンが広がることは、意図せず国際問題や政治問題に抵触することも起こりうる。“炎上”の影響でbilibiliで配信していたホロライブ中国は6人全員が「卒業」に至る事態もあった。 こうした経験から、谷郷氏は「カバーという会社が、そしてVTuberが、いかに社会の公器となり得るか」という問いと向き合っていると、過去のインタビューで語っている。 失敗を経験し、谷郷氏はカバーの組織づくりにも務めた。権利関係の問題を受けて、カバーは著作物利用に関する包括契約を任天堂など複数の企業と締結。法人としてゲーム実況が許され、収益化もできるようになった。 社内ではリスクコンプライアンス委員会も立ち上げ、所属VTuberに向けた著作権や法令に関するリテラシー教育や情報共有も進めた。 一方で谷郷氏は、社員やクリエイターを守りつつ自由な活動環境を整えることも経営者の仕事だとも語っている。 「VTuberを縛ったり、コントロールしたりだとか、そういう考え方では全くないんですね。それはUGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)ではありません。公序良俗に反することだったり、ナショナリズムの問題に触れたり、著作権など法的に問題があること以外は、なるべく自由に活動して欲しい」(2021年3月25日インタビュー記事) ホロライブプロダクションは2022年9月で5周年を迎えたが、所属するVTuberたちの安心と安全を確保しつつ、やりたいことができる環境を整え、個性や才能を発揮できるステージを確保できるか。それによって、さらにVTuberというエンターテインメントを愛する人を増やせるかどうか。 言うなれば、VTuberという存在が多くの人にとって「日常」となりうるか、それが上場後の成長のキーとなりそうだ。 これは、先日カバーが展開したブランド広告に記されていた言葉に通じるかもしれない。 コロナ禍という未曽有の危機。思うように外に出れない暮らしの中、VTuberによるライブ配信は私たちに世界を癒やす可能性を示した。 感染状況が落ち着いた中で、先日幕張で開かれた4thフェス。コロナ禍でデビューした秘密結社「holoX」(6期生)やホロライブENメンバーの中には、初めて憧れの「舞台」に立ったVTuberもいる。 この日のためにダンス、歌、MCを一生懸命に練習したことだろう。その努力に応えようと観客は一体となって、懸命にペンライトを振り、“推し”に声援を届けていた。 コロナ禍を経て、VTuberという文化は確実に私たちの「日常」を彩る存在になりつつある。 谷郷氏は、過去のインタビューでこう語っている。日本の第一線級クリエイターを結集し、世界で戦いたい。そして、「演じる側も楽しむ側も、アバター的な概念やバーチャル的な概念は、国境や年齢を超えられる。我々としても、そういうサービスを今後も作っていきたい」と。 上場に際して発表した谷郷氏のメッセージには、ホロライブプロダクションの物語は、これからもとまらない。そして、クリエイターが活躍する舞台とファンの輪はこれからも世界に広がる。そんなカバーの志が込められているようだ。 「現在は、VTuberという日本から生まれたカルチャーを世界に広げていくと同時に、IPを活用したメディアミックスへの取り組みを積極化しており、今後はVTuber企業ならではのメタバース展開をすることで、日本や、日本のコンテンツが好きなクリエイターが世界で輝ける舞台を提供していきたいと考えています」 (文・吉川慧)

BUSINESS INSIDER JAPAN

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