
VRChatワールド「ぽこピーランド」開発秘話 一過性ではない、メタバースの可能性
滋賀県発の個人勢バーチャルYouTuber(VTuber)・甲賀流忍者!ぽんぽこさんと、オシャレになりたい!ピーナッツくん。“ぽこピー”としてYouTubeでの活動を開始してから、ついに5周年を迎えた。 【写真】ぽこピーランドの世界 当初は奇を衒い、VTuberの中でも異例の実写動画やゲーム実況に依存しない独自の活動スタイルで話題を呼んだが、2023年現在、彼らが切り拓いた活動スタイルこそが、VTuberシーンの新たな王道になりつつある。 KAI-YOUでは、まだ「ぽんぽこちゃんねる」(当時のチャンネル名は「甲賀流忍者!ぽんぽこ」)の登録者が4~5万人ほどの時に取材させてもらったことがある。彼らの才能に早くに出会えたことは、記者冥利に尽きる。 そんなことを「刀ピークリスマス2022」の記録的なバズの最中に考えていた某日、急にピーナッツくんから連絡があった。 もう長い付き合いになるが、彼の方から連絡が来ることは「Clubhouseに誘ってほしいナッツ!」と言われた限りで、今回でたぶん2回目だ。 「KAI-YOUさんに、ぽこピーランドに遊びにきて欲しいナッツ!」 ぽこピーが、ソーシャルVRプラットフォーム・VRChatで巨大なワールドの開発を計画しているのは、ファンの間では知られた話。しかし、あまりに続報がない……! 本当に開発は進んでいるのだろうか。一体なぜ、「ぽこピーランド」という着想を得たのだろうか。 聞きたいことはたくさんあった。 先に結論を言ってしまうと「ぽこピーランド」の取材が終わった翌日、すぐにVRゴーグルを購入した。それだけ「ぽこピーランド」は画期的で、ワクワクするような世界が広がっていた! 取材執筆:わいがちゃんよねや 写真:chochi まず最初に話のうかがったのは、"バーチャル魔法使い”として活動するぬるもとさん。 「ぽこピーランド」の全体設計を担当し、モデリングも行っている人物だ。今回のプロジェクトを統括する監督のような立場だという。 まずは、ぬるもとさんがおすすめする「グミコースター」へと足を運ぶ。広大な「ぽこピーランド」だが、マップ機能まで実装されていて、行きたいエリアにすぐ飛べる。 ぬるもと「着きました。この建物が、グミコースターとなっております」 ピーナッツくん「いきなりメインアトラクションナッツ!」 コースターに腰をおろすと、ピーナッツくんの代表曲「グミ超うめぇ」のMVの世界が眼前、いや、360度に広がる。あのサイケデリックな空間を、楽曲を聴きながら体験できる。 VRワールドと音楽を組み合わせた新たな音楽体験の形は、ミソシタさんやキヌさんをはじめ多くのクリエイターが実践してきている。遊園地/テーマパークとの相性は抜群だ。 ぬるもと「僕はワールド全体の設計を行っているんですが、このアトラクションも主に担当させてもらったんです」 ピーナッツくん「ぬるもとさんとの出会いは、ぽんぽこさん発だったナッツね」 コースターに揺られながら、「ぽこピーランド」の開発前夜が語られる。 ピーナッツくん「Vket(=バーチャルマーケット)でぬるもとさんが遊園地みたいなものをつくっているのを発見して、それで、ぬるもとさんならもしかしたら『ぽこピーランド』の構想を形にしてくれるんじゃないかなってお声がけしたんです。というより、構想段階からぬるもとさんに頼りまくってました!」 ぬるもとさんは、VRChatの最初期のブームである2018年頃からVRChatに入り浸るようになり、次第にアバター制作も開始し、バーチャルマーケットに出展。その後、2021年にはバーチャルマーケットの開発スタッフにもなり、ワールドクリエイターとして活動するようになったという。 ぬるもと「たしか最初に『ぽこピーランド』お話をいただいたのは、2022年の1月くらいでしたよね。ぽんぽこさんとピーナッツくんが活動4周年記念の配信で発表したタイミングが、本当に着手したばかりで」 ゼロからはじまった「ぽこピーランド」の開発。具体的にVRワールドの設計というのは、何を行うのだろうか。 ぬるもと「何を空間に配置していくとか、全体の大きさとかボリューム感とかを決めたり、ユーザーの導線を考えたり。そういう3D制作の土台づくりみたいな部分が大きいかもしれません。ぽんぽこさんやピーナッツくんからいただいたオーダーとか、『こういうものをつくりたい!』というリストみたいなものも最初にいただきましたね」 ピーナッツくん「そうなんです。ぬるもとさんのアバターを観てもらえば分かる通り、めちゃくちゃポップじゃないですか。そのクリエイティブのポップさがまず、ぽこピーに通ずるというか、素敵だと思ったナッツ! 多分!」 ぬるもと「(笑)」 今回の取材、ぬるもとさんに最初にコンタクトをとったぽんぽこさんが不在だ。ピーナッツくんが彼女の声を力強く代弁してくれた。 「グミコースター」はピーナッツくんからのアイディアだったそうだ。「本当にポッと出のアイディアを形にしていただいて……」とピーナッツくんは苦笑する。 ピーナッツくん「めちゃくちゃ最初は適当というか、なんとなく遊園地みたいなワールドをつくりたいねっていう、妄想みたいな感覚だったナッツ。でもそうしたら、ぬるもとさんをはじめ、すごいクリエイターたちが次々に集結してくれて……!」 VRワールドの開発は、実際の建築や都市設計のように、まずはグレー一色のミニチュアのような3Dのモックアップをつくり、規模感や建物の配置を探っていくという。それもぬるもとさんが行っている。 制作に参加したクリエイターたちは、ぽこピーだけでなく、ぬるもとさんが招聘した人もいるという。 ぬるもと「今回のプロジェクトは、もちろん本気の一方で、ファンメイド的な部分もあって。次々にいろんな人から新しいアイディアが挙がってくるんです(笑)。熱量がすごくて。みんなぽこピーの動画をめちゃくちゃ観てるし、好きっていう共通点もありますね」 「グミコースター」はその最たる例だが、ワールド全体に、ぽこピーの動画やピーナッツくんのアニメや音楽の中に入ったような没入感がある。ぬるもとさんは、このワールドをどのように楽しんでもらいたいのか。 ぬるもと「関わっているスタッフたちが本当にガチで……! ぽこピーに関する小ネタというか、『よく見つけてきたな!』というような彼らに関する意匠や仕掛けが、たくさん施されています。まずそれを楽しんだり、探してみたりしてほしいなと思いますね」 ワールド制作の統括をするぬるもとさんでも、あまりの物量・情報量・更新量があるため、「もしかしたらすべてを把握できているのか怪しい」と笑っていた。 次に案内されたのは、ワールドの中でも異様な雰囲気(迫力)を醸す、「ガチ恋メイズ」。まだ開発中らしく、中には入ることはできなかった。 だいまる「到着しました。やっぱりガチ恋さんといえば“狂気”ですよね。ピ虐エリアとも呼ばれています」 ここをおすすめしてくれたのは、コンセプトアートや建物・内装デザインを担当しただいまるさんと、ロゴなどのグラフィックデザインを担当したハムカツ29さん。 ピーナッツくん「これはまだ非公開情報なんですが……某有名ショップで、『ぽこピーランド』のグッズが発売されるナッツ! ハムカツ29さんにはそのグッズもつくってもらってるナッツ!」 だいまるさんが参加した経緯は、2020年に岩手県で開催されたゆるキャラグランプリにまで溯る。 だいまる「そこで、着ぐるみのぽんぽこさんと握手させてもらったんですが、着ぐるみの中から仕事を依頼されました(笑)」 まさか着ぐるみから仕事を発注されるとは。その仕事というのが、現在のぽこピーの配信で使われている“部屋”のアートワークだ。そこから、ぽこピーランド建設のためにコンセプトアートも手がけることになったという。 ハムカツ29「私ももともとはただのぽこピーファンで。本業がデザイナーだということでだいまるさんに誘ってもらって、みんなより後から狸豆建設に加入しました。私が入った時点でランドはほとんどできていたので、自分はロゴや細かい部分の2Dデザインにこだわることで、この遊園地に来てくれるみんなの体験価値を上げられるように頑張りました!」 モデリングチームが3Dを制作する前に、イラストでデザイン案を提案したり、ロゴや看板、ランド内掲示物などの2Dデザインを作成するのがデザインチームの仕事となる。 建物1つにつき、3~4枚、没案などを合わせると5枚ほどのデザイン案が必要になったと話すだいまるさん。これまでに40枚ほどのデザイン案を描いたという。 だいまる「とてもじゃないけど人手が足りなくて……! それでハムカツ29さんに入ってもらった感じなんです」 「ぽこピーランド」は様々な趣向のアトラクションやモニュメントがあるが、それでもしっかりとぽこピーの雰囲気を感じさせる。どのような点に注意を払いながらデザインしていったのだろうか。 だいまる「一番気をつかったのは、あんまりぽこピーの顔を使いたくなかったって部分なんです。テーマパークの象徴として、巨大なぽこピーを置いてはいるんですが──ディズニーランドとかもそうなんですが、意外にキャラクターの顔を使った建物って少ないんですよ。この『ガチ恋メイズ』はイレギュラーではありますが」 実際にディズニーランドやUSJなど「行ける場所には足を運んで、あらゆる遊園地を研究した」という。高低差を意識した設計も遊園地ならではの特徴のようだ。 もともとは一介のぽこピーファンだったからこその強い情熱を感じさせる。 ピーナッツくん「だいまるさん、一体何者ナッツか…? 実は、だいまるさんとは、ほとんど喋ったことがないナッツよ」 だいまる「僕はあくまでピーナッツくんの視聴者で、ただのオタクであるという立場も好きなので、気軽に喋っていいのかなと」 ピーナッツくん「いやいや、僕がぜんぜん開発会議に参加してないからナッツよね……? すみません!」 「ぽこピーランド」は、ぽんぽこさんとピーナッツくんの意図よりも、現場の判断や熱意を優先してつくられている。現場のクリエイターたちに全幅の信頼を置いているという。 ピーナッツくん「特に2人はぽこピーを熟知してらっしゃって、あらゆるアイディアが出てくるんですよ……超マイナーなショートアニメのキャラとかも知ってて……全部任せてます!」 ハムカツ29「でも確認だけはしてもらいたいので、ぽこピーの2人には何回もリマインド依頼を投げさせてもらってます(笑)」 ピーナッツくん「本当にすみませんッ!」 モデリングチームは、3Dモデラーのキクラゲさんと、VTuberとしても活動する衛星ライトさん。デザインチームが制作したコンセプトアートなどをもとに、実際に3DCGをつくっていく。 キクラゲ「建物から小物までとにかく物量がスゴくて。オリジナルのモデルでランドを埋めていくだけでも大変でした」 2人が紹介してくれたのは、若者の人気エリア(となる予定)の「豆下通り」。 ピーナッツくん「モデリングはもちろんなんですが、キクラゲさんもライトくんもアイディア段階から参加してくれてるってイメージがあるナッツ!」 絵コンテやコンセプトアートがありつつも、誰か特定の人がすべてを決めるわけではなく、みんなの技術やアイデアが結集し、協創的に完成していったのが「ぽこピーランド」だという。 VTuberとしても既に知名度の高い衛星ライトさんだが、そんなチームメンバーに囲まれてきた環境について、やや自嘲気味に話す。 衛星ライト「本当に関わってる人たちがみんな凄すぎて……! 僕はやることがないって無力感を感じていました。キクラゲさんには本当に鍛えられましたね、もう師匠です」 本人曰く、モデル制作はあくまでVTuber活動から得た技術で、動画編集がメインだという。「動画では、あくまで動画上で見える部分だけつくればいいじゃないですか」と衛星ライトさん。 しかし、体験型のVRワールドとなると、その“奥”や“裏側”まで細部の表現を詰めていかないといけない。そこが大きく異なったという。 キクラゲ「深夜まで話を詰めました(笑)。自分は2021年頃にぽんぽこさんから『いつか遊園地を作りたいのでその時は……』と声を掛けていただいただいたのが最初で、もうずっと遊園地の事を考えていたので……温めていた想いが爆発してましたね……!」 1年以上に及ぶワールド制作。クリエイターは「ぽこピー好き」という点で共通しているが、意見がぶつかり合うこともあったという。 キクラゲ「店員さんのキャラクターで『エンジョイガール』という子がいるんですけど、せっかくなのでピーナッツくんに新しくオリジナルキャラをつくってもらおうってお願いしたんです──でもそれが……なんかめちゃくちゃ個性強いやつがきてしまって(笑)」 「エンジョイガール」はぽこピーランドの様々な場所で観ることができる。ぽこピーランド全体の印象も左右するキャラクターだ。そのデザインを巡り、ひと悶着あったそう。 キクラゲ「最初に届いたのが『オレンジ博士のバ美肉姿』という衝撃のキャラで……『どうしよう?』派と『せっかくピーナッツくんがつくってくれたんだから……』派でせめぎ合いが(笑)」 ピーナッツくん「ちょっと!……攻めすぎたナッツな?」 衛星ライト「奇跡的に、キャラクターデザインで揉めてるときピーナッツくんがチャットにきたんですよ(笑)。それでもう言うしかない、みたいな感じになったんです」 ピーナッツくん「すごく丁重に進言してもらったナッツ……本当に申し訳ないことした思ってるナッツ……」 キクラゲ「結果、めちゃくちゃ可愛くなって良かったです! あ、オレンジ博士もちゃんとサウナに居ます」 ぽこピーファンでもあるが、意見するところはちゃんとする。クリエイターとしての矜持を感じる一幕だった。 「“ぽこピーファン以外も楽しめるような場所”になってほしくて」とキクラゲさんは語る。 キクラゲ「モデルに小ネタを仕込むのがとにかく好きで、VRでチームの皆の反応を見るのが制作で一番の楽しみでした。もちろんぽこピーの小ネタも多いんですが、普通に楽しい遊園地としていろんな人に遊びに来て貰えたらと……!」 ピーナッツくん「クリエイティブ面もそうだし、1年を通して、キクラゲさんは相当モチベーション高くみんなを引っ張ってくれた印象があるナッツ。ライトくんとのコンビも良かったナッツ」 モデリングやワールドの中でも特に見どころやこだわった部分について聞くと、衛星ライトさんが綺麗にまとめてくれた。 衛星ライト「もうね……『ぽこピーランド』のすべてが輝いて見えますよ。本当にすごい!」 VRワールドが仮想空間と呼ばれるのは、3Dモデルの中を歩き回れるから、というだけではない。 様々なオブジェクトやプレイヤーの行動に対して“ギミック”と呼ばれるプログラムを仕込むことで、インタラクティブな体験ができる。 「ぽこピーランド」で主にギミックを手がけたのは、bironist(びろにすと)さん。ゲーム系のVRワールドや3Dモデルの制作を幅広く手がけるVRクリエイターだ。また、「ぽこピーランド」の中でも異色の空間となるホラーコーナーは、同じくVRクリエイターのいおりさんが手がけている。 bironist「僕もいおりさんも、ぬるもとさんから誘われたんです。ぽこピーの動画は普段からずっと観ていて、ランドの事も知っていました。そんな中でぬるもとさんからギミックを制作してほしいとお声がけしてもらったので『もしや、ぽこピーランドか!?』と思ったら本当にそうでした(笑)」 2人に連れてきてもらったバーガーショップでは、ハンバーガーを店員のぽんぽこさんがつくってくれる。ぽんぽこさんの声もしっかりと出る(撮り下ろし)! ピーナッツくん「今、『カフェラテプリンぽこバーガー』をぽんぽこさんがつくってくれたナッツね。こういう動きというか、ユーザーとのやり取りみたいな仕組みをbironistさんがたくさんつくってくれたナッツ!」 bronist「このバーガーはランダムでつくってくれるんです。いろんな種類を確認してほしいですね。こういうワールド上のゲーム的な動きのことをギミックと言います。100円ショップだとか、たこ焼き屋さんとか。お化け屋敷以外のいろんな場所のギミックを手がけています」 「ぽこピーランド」が他のVRワールドと最も違う部分を上げるとすれば「あらゆるギミックが一つのワールドで楽しめることなのではないか」と語るbronistさんといおりさん。 bronist「VRChatでは、一つのワールドで一つのゲーム(ギミック)を楽しめるというのが常識なんです。でも、ぽこピーランドは、たこ焼きを食べる人がいて、グミコースターに乗る人がいて、お化け屋敷に行く人もいる──いろんなことやってる人が同時にいて、それが多発的に起きるんです」 ピーナッツくん「bronistさんのアイコンというか、変なキャラがあるじゃないですか(笑)。彼がつくったワールドには、このキャラがどこかにいて。いろんなワールドで彼の存在を知っていたから、すごい人が来たと思ったナッツ!」 ファンの間ではお馴染みの「ピ虐」……VRホラーゲームもギミックの宝庫だ。それならホラーのギミックもbronistさんがつくったのかというと、そうではないらしい。 いおり「ホラーアトラクションは、全体を通して僕が担当しました。本格的なホラーにするためランド本体とは別の雰囲気にする必要があって、モデル制作から動きなど含め専念させてもらうためです」 いおり「ピーナッツくんから『最強に怖いお化け屋敷』をつくって欲しい! という要望がありまして。それで全く違う雰囲気というか、ぽこピーの「ピ虐」という概念を膨らませた上で、一つのホラー体験としてガチになるように注力しました!」 クリエイターチームにもテストプレイをしてもらうために、スタッフたちにもネタバレ厳禁。開発初期に方向性を相談した後は、一人で開発を進めていたという。 いおり「ある程度、完成に近づいた状態からフィードバックをもらって調整していく、というような形でつくらせてもらいました。方向性に詰まる事も多かったので、チームの皆の意見には本当に助けられました」 遊園地アトラクションらしさを残しながら怖さを盛っていくのに苦労した、と語るいおりさん。ホラー映画やホラーゲームが大好きで、様々な知見を取り入れつつ、ぽこピーランドでしかできない究極のホラー体験を目指したという。 ピーナッツくん「ちょっと、本当に怖そうなので、今回は入るのやめときましょう」 いおり「早く遊んでほしいですね(笑)」 ピーナッツくんもまだまったく中身を観てないという。そんな「最強に怖いお化け屋敷」をぽこピーが体験する様子は、後日動画でアップされる予定だ。 「ぽこピーランド」は、SEやBGMなど、様々な音に彩られている。 シームレスに区画された広大なワールドだが、音楽が変わることで「あ、いまエリアが変わったんだな」と直感的に分かるように設計されている。 そんな数々の音楽を手がけたのが、玉田デニーロさん、nerdwitchkomugichan、コイデシュンペイさん、桶田知道さんの4人だ。桶田知道さん以外は、ピーナッツくんのアーティスト活動も支える音楽家たちでもあり、ピーナッツくんの3rdアルバム『Walk Thorug The Stars』での功績も記憶に新しい。 桶田「僕はデニーロさんの大学の後輩で。ぽこピーの2人が“レンタルぽこピー”をやっているときに『ピピピピーナッツくん』のオケ制作をやらせてもらったのが、関わらせてもらった最初のきっかけです」 玉田デニーロ「桶田くんはここ以外の制作でも一緒になることもあり、その腕を見込んで今回お誘いしました。今回僕はぽこピーランドの音楽監督として楽曲周りのディレクション、作曲やミックスなどを担当させてもらいました」 桶田「実際の遊園地でも実は結構音楽って鳴っていて。USJでたくさんshazamしましたね」 「短期決戦で、一人では絶対につくりきれないのと、複数人で関わることによってアイディアの広がりが欲しかった」として仲間を集めたという玉田デニーロさん。短期決戦というと、音楽チームはいつごろからワールド制作に参加したのだろうか。 玉田デニーロ「2023年1月で、めっちゃ最近なんですよ。2ヵ月前くらい。さっきぬるもとさんが『もうつくりはじめて1年になるんですよ~』って話してて、そんなにやってるんだって思いました(笑)」 ピーナッツくん「正直に申し上げると、音楽面を疎かにしていたナッツ(汗)。フリーBGMでいいか~って思ってたんですよね^^ そんな甘い考えがゆえに、依頼が遅くなったナッツ!」 一同「(爆笑)」 VRワールドといえば、まずデザインやモデリング、ギミックなどが目立つが、音楽もその世界を構成する大事な要素となる。ピーナッツくんもはじめてのワールド制作ということで、気が回らなかったという。 ワールド制作初挑戦は、音楽チームも同じこと。音楽チームは全員がバンド活動や他アーティストへの楽曲提供を行っている。しかし、BGMやSEの制作は初めてのことだった。 nerdwitchkomugichan「もちろんバンドの音楽制作とは全然違って。でもピーナッツくんのおかげで、ヒップホップのビートをつくるようになった経験がすごく活きたっすね。あとはもともとゲームやゲーム音楽は大好きで興味は強くあったから、上手くハマったと思ってます」 玉田デニーロ「元々ゲームのBGMや劇伴が好きだったのもあり、どのようにして作られているのかを調べたりもしていました。今回はそのインプットが役に立った感じです」 なんと音楽チームは玉田デニーロさん以外、VRChatにログインできる環境を持っていないらしい。DiscordでVRChatの様子を中継しながら取材させていただいた。 nerdwitchkomugichan「でも僕は直接ワールドに入れてないから、実際にランドを体験することができてなくて……。今みたいに中継してもらったり、もらった動画を観ながらイメージを膨らませていった感じです」 玉田デニーロ「若者の集うストリートをイメージした“豆下通り”には、komugichanにキュートなフューチャーベースをつくってもらってます。本当に納品が早くて助かる!」 nerdwitchkomugichan「エリアを歩いている動画を送ってもらって、すぐにイメージが出来たおかげでこの曲は一晩で完成しました。というか、ずっと想像はしてたんですけど音楽が実装されてからははじめて観るから──今めちゃくちゃ感動してます(涙)」 ちなみにコイデシュンペイさんは音楽チームの「顧問」だという。実際には何をされているのだろうか。 コイデシュンペイ「ちょっとギターを弾いているのと──バイブス担当ですかね?」 玉田デニーロ「(笑)。いやでもかなり重要な立場で、この中でも随一の”考察厨”なんですよね。実際に制作で手を動かしている人が踏み込めない領域まで聴いて、フィードバックをくれるというか」 例えば、入り口のワープの音について聞くと、コイデさん曰く「“転送”って感じで“ワープ”とはちょっと違うかなあ…」というような意見を出してくれるという。マニアックだ。 コイデシュンペイ「はい。カスタマー目線というか、厄介なオタク目線でいろいろ意見させてもらってます!」 玉田デニーロ「全く忖度してくれないので、助かってます」 ピーナッツくん「ぽこピーランドを、音楽面からどう見せていけばいいのかっていうことも一緒に考えてくれたナッツ。ぽこピーランドのテーマソング『お気楽KING』もみなさんからのアイディアだったナッツ」 テーマソング『お気楽KING』はnerdwitchkomugichanがプロデュースし、玉田デニーロさんがミックスを手がけている。「ぽこピーランド」内でも聴くことができるのだろうか。 ピーナッツくん「実はまだ、どう使うとかまでは考えてないナッツよ(笑)」 玉田デニーロ「もしランドの中でイベントやったりする時がくれば、みんなで歌って踊ってもらえたら嬉しいですよね。ピーナッツくんのこれまでの楽曲の中でも、特にいろんな人と共有しやすい曲になってると思うんです」 nerdwitchkomugichan「全然つくったことないタイプの曲だったんで、結構大変だったすね。これをつくってる時は、自分の思う"踊れる曲"とか"みんなで盛り上がれる曲"を車でもライブハウスの楽屋でも延々と聴いていて……普段はあんまりそういう曲を聴かないので、バンドメンバーやスタッフに心配されました(笑)」 凄腕クリエイターたちが集結し、ファンのアイディアも巻き込み、協創的に生み出された「ぽこピーランド」。改めて、ピーナッツくんは「ぽこピーランド」に何を思うのか。 彼の最も思い入れのある場所「ぽこピーの配信部屋」へと場所を移す。視聴者にもお馴染みのあの部屋が、「ぽこピーランド」の中に再現されている。 ピーナッツくん「ぽこピーランドは電車も通っていて、いろんなところにいけるナッツ。本当にいろんな人に、隅々まで楽しんで欲しいナッツね」 ショートアニメの配信から活動を開始したピーナッツくん。そこから自分で絵を描いてVTuberとなり、着ぐるみをつくってゆるキャラになり、そして新たな挑戦として“VR上の遊園地”に辿り着いた。 ピーナッツくん「今日、いろんな人と話して思い出したんですが、実は“ぽこピーランド”みたいな構想はずっとあったというか……構想というか、いつか叶ったらいいなっていう夢の一つとしてあったナッツ」 キャラクターコンテンツとして、遊園地やテーマパークは一つの到達点だ。“キャラクター”として、あるいは”クリエイター”としての夢だったと語るピーナッツくん。 活動から約5年──彼らの躍進を考えると、自身の名前を冠する遊園地を生み出すのにふさわしい存在になったと筆者は本当に思う。 ただ、ピーナッツくんは恐縮しながら語る。 ピーナッツくん「でも取材して分かってもらったと思うんですけど(笑)。ぼくとぽんぽこさんにとって、今回のぽこピーランドは気づいたらできてたってくらい、みなさんにお任せして、みなさんの力で成り立ってるナッツ」 個人で活動する2人のVTuberに、多くの才能が惚れ込んでいる。 ぽこピーは“VTuber”という存在と可能性について、自問自答を繰り返しながら歩いてきた。その足跡と生み出してきた作品が、人を惹きつける魅力になっている。 ピーナッツくん「VTuberが広まって、その後にメタバースっていう言葉がビジネスの世界でも言われるようになったじゃないですか。そこで活動するぼくたちにとって、改めてメタバースってなんなんだろう?って。その答えを出したかったという思いもあるナッツ」 新たなWebの概念・”Web3”。ブロックチェーン技術を用いた分散型の新たなインターネットの形だが、仮想空間”メタバース”の発展も内包されて語られる。トレンドワードのように使われたが、いまでは“AI”に押されている印象も受ける。ピーナッツくんは「でも、しっくりこないメタバースもたくさんあったんですよ」と語る。 ピーナッツくん「一過性のものとか、流行りじゃなくて。毎日誰かと遊びに行ったり、長く続いていくような場所になって欲しいんです。本当にみんなにつくってもらっただけなのに、偉そうなこと言って恥ずかしいナッツが!」 2人のキャラクターとクリエイターの夢でありながら、みんなにとっては日常やホームのような場所になって欲しい──それが「ぽこピーランド」が目指すものだ。 ピーナッツくん「……いや本当、このワールド、実際どうすればいいと思いますか?(真顔)。ぼくたちの想像よりはるかに凄いものができてしまって、責任感で潰れそうナッツ!!!!!!」 そんな「ぽこピーランド」はいよいよ、3月24日(金)に一般公開! VRChatがはじめての人も楽しめる、本当に素敵な場所でした。
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