ホリエモンに聞く「宇宙ビジネス民主化」の衝撃、ニコ動やANYCOLOR誕生からわかること
2022年03月21日 06:03
ホリエモンに聞く「宇宙ビジネス民主化」の衝撃、ニコ動やANYCOLOR誕生からわかること

 「僕が100億円持っていたら全張りします」。実業家のホリエモンこと堀江貴文氏が、これほどまでに宇宙ビジネスに熱視線を送るのはなぜか。その理由を尋ねてみると、堀江氏は「民主化」というキーワードを繰り返し挙げて説明した。ロケットによる衛星の打ち上げコストが下がり、打ち上げの頻度が上がると、誰もが宇宙を利用できるようになる民主化が実現する。そうすれば、宇宙空間や衛星の用途が広がり、市場が桁違いに伸びるというのだ。 【詳細な図や写真】ISTは大型ロケット「DECA」の開発で「既存の国内大型ロケットの10分の1の打ち上げコスト」を目指す(出典:インターステラテクノロジズ)  宇宙産業が民主化すると、スターリンクを超える宇宙ビジネスの登場が期待される。実際に、インターネットは民主化後多様な用途で使われるようになり、さまざまなビジネスが生まれた。インターネットと同様に宇宙が民主化されるといっても、どんな市場が生まれ、何が求められるか見当もつかないビジネスパーソンも多いのではないだろうか?  堀江氏は「宇宙ビジネスの民主化の波に乗るには、自分でプロダクトやサービスを立ち上げ、ビジネスを創るのが一番早い」と主張する。 「僕個人が考える宇宙の民主化後のビジネスアイデアなんて大したことはありません。僕からするとよくわからないことをするオタクの方々に聞いた方がずっといいでしょう」  「民主化したビジネス領域のことはオタクに聞け」とはどういうことなのだろうか? 堀江氏は2022年6月、アバターを使ってライブ配信を行う「VTuber」のグループの運営などを手がけるエンターテインメント企業ANYCOLORが上場したことに言及した。 「僕にはVRのアバターを使って『バーチャルYouTuber』をやろうなんて発想はない。顔出しNGで、でもYouTuberとして活躍したいなんて『わけのわからないこと』と思っているからです。でも、世の中には顔バレして叩かれるのが怖い、でも目立ちたいみたいな、感情を持つ人たちがそれなりにいるわけです」  次に堀江氏は動画配信プラットフォーム「ニコニコ動画」を例に挙げた。 「なぜニコニコ動画が流行ったか、1つはミュージカル『テニスの王子様』の空耳字幕(※セリフを自動で起こした字幕のこと。誤った内容の字幕が逆に笑いを誘った)でしょう。しかも下品な空耳字幕が付いたことで流行りました。僕もそれで初めてニコ動を見て。『ああ、なるほど。ニコニコ動画は流行る!』と思って、ドワンゴの株を買いました。ニコニコ動画ってオタクの世界のものだったので。知らなかったのですよ」  空耳字幕を楽しむという意外な用途で「オタク向け」だったニコニコ動画は、新たなユーザー層を獲得していった。  さらに堀江氏は、2005年1月にライブドアの代表だった際に買収した「エイシス(EISYS)」に言及した。 「DLsiteというサービスを展開する会社を20億円ほどで買収したのですが、その後すごく成長して、今売り上げ250億円です。買収金額を優に上回る利益を毎年出し続けていますが、同人誌をネット発売する、要はコミケをネットでやる「エロやパロディ」を扱う会社です。僕は、そんな会社があるとはまったく知らなかった。投資部門のオタク社員が見つけてきたのです」  堀江氏は、インターネットでサービスが成り立っている「空耳に字幕を付ける」「ネットで同人誌を売る」「バーチャルYou Tuberをつくる」といった思いもよらないビジネスの種は、「民主化の後に生まれてくるものである」ことを示した。  黎明期には誰も想像しなかった、インターネットを使った多様なサービスが今も生まれ続けている。しかし、技術が発展途上の段階でのアイデアを持った企業や人材の呼び込みは簡単なことではない。 「人間は想像力があるようでないので、実際に宇宙が安く使えるようにならないと、技術を使いたい人も出てこない。だから、民主化した世界をある程度提示する必要があるでしょう」  さらに、技術の古参ユーザーの中には、民主化をよく思わない層がいないとは限らない。今では生活やビジネスに欠かせない存在となったインターネットだが、黎明期にはビジネスに利用することへの偏見もあったという。 「民主化していない世界は、限られた人たちが口々に議論しているだけなので、全然面白いことをやれない。インターネットだって、1990年代中ごろは『商売に使うなんてけしからん』と言っている人がいて、怒られていましたから」  民主化途上にある宇宙ビジネスにおいても同様の現象が起きている。堀江氏が創業した小型ロケットベンチャー、インターステラテクノロジズはアダルトグッズメーカーTENGAと共同で「TENGAロケット(観測ロケットMOMO6号機)」を打ち上げるプロジェクトを発表した際は、批判の声も散見された。  実際に2021年7月にTENGAロケットの打ち上げが成功すると、TENGAとのコラボによる効果もあり、宇宙開発関係者や宇宙ファン以外の層にも広く小型ロケットの開発動向が知られたというポジティブな効果もあった。さらに、ロケットからTENGAの公式キャラクターの人形を宇宙空間に放出し、落下後に海上で回収することにも成功した。これは国内の民間企業では初の宇宙空間でのペイロード(物資)放出および回収事例となった。 「『TENGAロケットを打ち上げるなんて、けしからん』と。一部の人たちしか入れない、民主化されていない産業はすごく偏見に満ちた世界だという印象です。『宇宙を学術以外に使うなんてけしからん』と真面目に言われますが、宇宙はみんなのものでしょう。技術を『誰もが使える』ようになってこそ、みんな自由に色々な発想するようになるわけです」

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