
筆文字メニュー7千円、アメリカンポップな似顔絵3千円…物価高時代の「手に職」これからはマイクロ化〈AERA〉
光熱費や食料品の値上げラッシュ。物価高に襲われるこんな時代だからこそ、収入の「壁」を突破したい。鍵は、強みとなるスキルのマイクロ化だ。AERA 2023年3月20日号の記事を紹介する。 【写真】これはお見事! 長山さんが描いた「筆文字メニュー」はこちら 「専門性が高い領域ですが、VTuberが使う2Dや3Dのキャラクターモデリングは人気ジャンルです。個人の購入もあるし、企業がキャンペーンなどで利用することもあるようです。あとは依然として、YouTuberの動画制作に関連する出品も人気ですね」 では、いざ自分も何かスキルを出品してみようかと考えるとき、何から始めたらいいのか。 鍵となるのはサービスの「マイクロ化」だそう。自分のいちばん得意なところ、好きなところだけを切り出して出品する。購入者側にとってみれば、ここだけ手が欲しい、と自社に足りていない機能のところだけをピンポイントで購入できる。 「私のような広報の仕事なら『プレスリリースの添削だけ』とか、設計事務所の建築士さんが『間取り提案』を出品している例もあります」(柳澤さん) ■10回以上注文の顧客も 福岡県在住の長山隆さん(70)も、本業で培ったスキルをマイクロ化してココナラに出品している一人だ。 筆文字デザイナーとして、飲食店のメニューやイラスト作成のサービスを4年半ほど前からココナラに出品している長山さん。飲食店でのエリアマネジャーや店舗設計の仕事に携わった後、45歳で独立して以来、長く飲食コンサルタントとして働いてきた。 かつては週に1千キロも車を運転して、九州一円から中国地方まで現場を回ることもざらだったが、年齢が上がるにつれてそうした仕事の仕方が体力的にきつくなってきたという。 そんな時にネットでココナラの広告を目にし、メニューに使える水彩イラストと手書き文字を出品しようと考えた。普段から趣味で絵を描いている長山さん。これまでもコンサルティング業務の一環でメニューブックの制作は手がけていた。自分で営業に出かけなくてもデザインが販売できるココナラのプラットフォームは、「こういうものがあればいいのに」と思い描いていたものだった。 筆文字で書くA4のメニュー1ページの基本料金が7千円。ページを増やしたりイラストを追加したりするのに追加料金が発生する。総じて3万円から5万円の注文が多く、月に10件ほど依頼が入る。3割はリピーターのお客さんだ。なかには10回以上注文してくれているお得意さんもいるという。 出品にあたっては「あまりお金のことは考えず、顧客満足を優先している」という長山さんは、こう話す。 「これまで数百店という店を見てきたから、飲食店の人たちの悩みは目に浮かぶんです。僕はもう引退に近い年齢だし、ガツガツ稼ぎたいわけでもない。自分が役に立てることで助けてあげたいという思いがあります」 ■飲食コンサルの「強み」 飲食店ではメニューの改定が年2回ほどあり、それに加えて季節ごとに変わるメニューもある。タイムリーなメニュー替えは店の活性化に繋がるが、大手ファミレスのようなチェーン店のメニューブックの切り替えは1店舗あたり100万円かかることもある。そうなると個人経営や中小企業が度々できる金額ではない。数千円から数万円で提供することで、頻繁なメニュー変更を可能にして飲食店を応援したい、と考えている。 単にメニューを書くだけではなく、「売りはなんですか?」「どんなお客様がターゲット?」など聞き取りし、ブランドイメージを一緒に練ったり、キャッチコピーをメニューに入れ込むこともある。飲食コンサルの経験があるからこその強みだ。 出品ページにポートフォリオを載せていて、気に入ったお客さんが注文してくれる形式のため、お互いのイメージがズレにくく、受注後は3往復ほどのやりとりで制作が進む。ただし、顔を見て話せるわけではないので、やりとりする際の文章にはかなり気を使う。 「家内に見てもらうこともあるし、ここまで言わなきゃいけないかな、というぐらい丁寧に説明するようにしています」 「楽しくなければ仕事じゃない」という長山さん。本業のコンサルティングではエリア内で競合となる店から受注はしにくいが、ココナラでは全国から受注ができるのも嬉しいという。 「70歳にしては頑張っているほうじゃないかと思います。結構忙しくしてますよ」 と、うまく仕事をシフトできたことに満足げだ。 さて、あなたなら何のスキルをマイクロ化する? (編集部・高橋有紀) ※AERA 2023年3月20日号より抜粋
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