2022年の「バーチャル」はどうだったか。メタバース、XRデバイス、VTuberの三軸から振り返る
2021年12月26日 20:12
2022年の「バーチャル」はどうだったか。メタバース、XRデバイス、VTuberの三軸から振り返る

 今年も、バーチャルな界隈では様々な出来事が起きた。これまでと違うのは「メタバース」が加わったことだろう。Metaという巨人も参入し、良くも悪くも大きな注目を集めたメタバースとともに、この一年はどのように過ぎていったか。振り返ってみようと思う。 【画像】煌びやかなVRChatのワールド「Nakayoku Connect」 〈「メタバース」はどう広まったのか?〉  その名にずばり「メタ(バース)」を冠したかつてのFacebookだが、メタバースに関して言えば伸長したかどうか、日本からではなんとも言えないのが実情だろう。なにせ、いまだに「Meta Horizon」は日本に上陸していない。いろいろと不穏なウワサも耳にするが、行くことができない場所に対して、人はよもやま話しかできないからだ。  では、「行くことができるメタバース」で話題になったのはどこか。おそらくそれは『VRChat』だろう。2022年12月時点で英語にしか対応していないにも関わらず、コミュニティの熱量も相まって、日本国内での知名度は着実に上昇している。  とりわけ今年は、企業や地方自治体による活用例が増加した。昨年から取り組みを続ける日産自動車に続き、モスバーガーや京セラ、兵庫県養父市などが、VRChat生まれのクリエイターとともに特設ワールドを展開し、ユーザー距離の近い取り組みを展開してきた。各所での活用が相次いだことで、メディアからの注目も自然と『VRChat』に集まっていたように思う。NHKでは大々的にVRChatユーザーに密着取材する番組も放送された。  国産メタバースの『cluster』も堅実に拡大している。10月末にはプラットフォーム内のストア機能充実を告知し、アバター、アクセサリー、ワールド用アセットと、3つの軸から経済圏を生み出そうと動いている。各種アセットを外部プラットフォームに依存している『VRChat』よりも、「メタバース経済圏」の確立は早いかもしれない。一方、DMMは自前で開発・展開していた『DMM Connect Chat』を8月に閉じ、表向きには業界から一線を退く形になった。  今年前半は大いに投機的に盛り上がっていた『The Sandbox』『Decentraland』は、NFTの投機的注目の低下によって、今後大きな影響を受けるかもしれない。投資家以外が見出す「ブロックチェーンが生み出せる価値」が、今後どれだけ浸透するかがカギだろう。  「メタバース」それ自体は、今年一年で「浸透した」とは言い難いだろう。ユーザー数や利活用事例こそ増えたが、まだまだ既存コンテンツやプラットフォームと比べれば小さく、開拓も進んでいない。入口はこの一年で大きく広がったが、社会への浸透は今後の取り組み次第だ。巨大な「無人島」あるいは「宇宙」への長期的投資として、各所のメタバース活用が地道に積み重なれば、やがては生活・経済・娯楽が、仮想空間で大きく花開くだろう。 〈大躍進が続いたXRデバイス〉  世界的な半導体不足は続いているが、VRデバイスは今年大きな躍進を遂げている。  まず、Metaは『Meta Quest Pro』を発売した。「Quest」の名を関しているものの、その正体は「VRかつAR対応」という新基軸のデバイスだった。3DモデルやUIを現実と重ね合わせることで、ビジネスユースでの活用も見込みつつ、VRヘッドセットでは実現できない表現を紡ぐ可能性がある。とはいえ、いろいろと割り切ったつくりではあり、現状は実験機の域は出ない。一番使いこなせるのは開発者だろう。  一方で、一般ユーザーにとっての新たな選択肢として登場してきたのが『PICO 4』だ。値上げ後の『Meta Quest 2』よりも安価で手に入り、より軽量で、高画質。コンテンツの数や細かな機能差異こそあるが、全体的な性能や使い心地は『Meta Quest 2』をしのぐものだ。長らく『Meta Quest 2』一強だった時代からやっと一歩進んだ、というだけで2022年には大きな意味があった。  フルトラッキングデバイスも大きく躍進した。ソニーはスマートフォンだけあれば動く超小型・軽量な『mocopi』を、Shiftallは供給性を改善した『HaritoraX 1.1』と、さらに軽量・小型になった『HaritoraX ワイヤレス』を発表した。Shiftallはパナソニック系列であるため、この領域は現在国内企業がしのぎを削っていることになる。これはVTuberが隆盛した国だからこその動きといえるだろう。  さらにスタートアップのDiver-Xは、「一般ユーザー層向けのグローブ型VRコントローラー」という野心的なデバイス『ContactGlove』を発表している。なかなか実現しなかった「VRに手を持ち込む」という夢が、いよいよ叶いそうである。VR・メタバース関連デバイスは、いま日本で大きく花開こうとしている。  とはいえ、VR機器もメタバースと同様に、少しずつ普及が始まった段階ではある。価格・性能・重量など、普段遣いの面ではだいぶ改良が進んでいるが、まだまだ大多数の人には「そこそこ重いものを頭に装着する」という面倒臭さを乗り越えるインセンティブは芽生えていないだろう。価格にしても、スマートフォンのように分割払いできないことで手をこまねいている人はいるはずだ。  だからこそ、『PlayStation VR2』がどうなるかはなかなか予想し難い。スペック面、デザイン面では初代から大きく進化し、コンテンツ面でもPlayStationファミリーの強力なタイトルがそろっている。しかし、まともな一般ユーザー向けVRがほかになかった初代と比較すると、現在は競合だらけの業界と化している。そんな情勢下で、74,980円という価格にどれだけの人が食いつくか。2023年2月22日以降、各所から注目の視線が向けられることだろう。  打って変わって、ARの領域では『Nreal Air』という注目株が登場した。スマートフォンにつなぐだけで使える手軽で、扱いやすいスマートグラスであり、現在はAndroidだけでなく、アダプターを介することでiPhoneやPC、ゲーム機などでも扱える。より厳密にはAR機器にカウントしない見解もあるが、「かけるだけで画面が眼前に広がるサングラス」というファッショナブルなスタイルは、一般生活に溶け込みやすそうだ。  技術面では、NianticやGoogleを中心に、ビジュアル・ポジショニング・システムや開発プラットフォームの発展が続いた。今後、ARコンテンツ開発は加速する可能性があるが、コンテンツを体験するためのデバイスはまだまだ少ない。現実の座標を取り扱う以上、課題はVR以上に山積しているかもしれない。 〈VTuber業界は“安定期”に入ったのか〉  大変化が起こったメタバースやVRと比較すると、2022年のVTuber業界は安定期に入ったように見える。  『ホロライブ』と『にじさんじ』の二大巨頭は特に、メディア露出やグッズ・マルチメディア展開、イベントや無料ライブ開催などで、ブランドを強化する動きが見られた。テレビなどに登場する機会も増え、なにより若い世代を中心にYouTube経由の認知度は着実に上昇している。  『にじさんじ』のANYCOLORが上場したこともあり、VTuberは一般層に広く知られ始めている段階だろう。一方で、黎明期に見られたカオスさ、尖った姿は、上層部に行けば行くほどに減じつつあるように感じる。  そうしたなか現れたのが、『にじさんじ』の壱百満天原サロメだった。2018年であっても第一線に立ったであろう、圧倒的なキャラクター、タレント性、ポテンシャル。VTuber史上最速の100万人登録達成という快挙もあり、間違いなく歴史に残る一人となった。安定期に入ってもなお、まだ見ぬ逸材が生まれる余地があるのは、VTuberというカルチャーの可能性を示しているようにも思う。  一方、最上層の2グループ以外は、三者三様の一年だった。『774inc.』はこれまでと同様に安定路線を進んでいる。『KAMITSUBAKI STUDIO』はWeb3系列の展開も見せているが、強力なアーティストを主役とする姿勢は変わらず、そして強い。  大きな変化といえば、『RIOT MUSIC』『あおぎり高校』『ぶいすぽっ!』『Palette Project』の4グループが、「Brave Group」として合流したことだろう。それぞれ強みを持つグループが、一つの傘下にまとまることで、大きな存在感を発揮しつつある。  国外勢力と思われた『VSHOJO』は、まさかのkson参戦とともに、日本へも本格進出を開始した。また、『NIJISANJI EN』は着実に勢力を伸ばし始めている。とりわけ男性グループ「Luxiem」は100万登録達成者を2人も輩出し、5名の100万登録達成者を有する「ホロライブEnglish」とは違った存在感を示している。  こうした「企業勢」に対して、個人勢は企業所属ならではのしがらみにとらわれない「自由さ」が再び注目されている印象だ。特に、自分の3Dアバターを自分の裁量で『VRChat』などに持ち込みやすいのは、個人勢の強みとなるだろう。また、尖ったアクションも企業所属よりかは取りやすいはずだ。  念願の「埼玉バーチャル観光大使」となった春日部つくしなど、長い活動の積み重ねが花開く個人勢も現れている。「有名事務所所属がゴール」という環境は、少しずつ変化しているのかもしれない。 〈バーチャルとリアルの境界を超えて〉  今年は、“最初の一人”であるキズナアイが休業期間に入った年でもある。しかし、「親分」不在の状況となっても、様々なプレイヤーがしのぎを削っている。VTuberというカルチャーの大きさを、こういったところからも感じる。  そして、VTuberではない純粋なフィクションのキャラクターが、VTuberのような「生きているキャラクター」として活動するケースが増えた。とりわけ大きな存在といえば、『ONE PIECE FILM RED』のヒロイン・ウタだろう。  ルフィやシャンクスの関係者という出自も大きいが、映画放映前にVTuber的な動画を公開。その後もいくつかの展開を経て、その存在は「映画オリジナルヒロイン」という枠から大きく飛び出し、ついには『NHK紅白歌合戦』への出場という快挙につながった。  ウタがウタとして、紅白歌合戦という現実の晴れ舞台に立つ。その事実こそ、バーチャルな存在がこの世界に根付き始めた証左だろう。奇しくも、ウタの3Dまわりの制作には、キズナアイを生み出したActiv8が携わっている。キズナアイから生まれた「バーチャルなひと」は、バーチャルとリアルの境界を超えて活躍できる「新時代」を、たしかに切り拓きつつある。

リアルサウンド

戻る