カバー株式会社CEO 谷郷元昭、バーチャルタレントに求められる資質 個々の“やりたい”を伸ばすホロライブの徹底したサポート力
2022年03月17日 16:03
カバー株式会社CEO 谷郷元昭、バーチャルタレントに求められる資質 個々の“やりたい”を伸ばすホロライブの徹底したサポート力

 多くの人気バーチャルタレントが所属し、YouTubeチャンネル登録総数が7,000万を超えるVTuberプロダクションであるホロライブプロダクション。その1年に1度のビッグイベント『hololive 4th fes. Our Bright Parade Supported By Bushiroad』『hololive SUPER EXPO 2023』が2023年3月18~19日に開催される。 【ライブ写真】ファンに直接歌声を届ける星街すいせい  2020年に開催された『hololive 1st fes. ノンストップ・ストーリー』以降年々規模を拡大し、VTuber界でも恒例の存在となったこのビッグイベントについて、そしてホロライブプロダクションならではの魅力について、ホロライブプロダクションを運営するカバー株式会社CEOの谷郷元昭氏と、『hololive 4th fes. Our Bright Parade Supported By Bushiroad』の運営にも関わる音楽担当スタッフの2人に聞いた。(杉山仁) ■リアルイベントは“タレントがリスナーに会いに行く”機会 ーー今年は2度目の『hololive SUPER EXPO』、4度目の『hololive fes.』が行われます。それぞれのイベントはどんな想いのもと立ち上げられたのでしょうか? 谷郷元昭(以下、谷郷):2020年の最初にリアル会場でのイベントを立ち上げた経緯については、オンライン上でのコンテンツ提供が中心になっていた中で、「リアルな会場で、リアルにコンテンツを体感していただきたい」「タレントが本当に実在していることを感じていただきたい」という思いからはじめたものでした。我々は当初から「ホロライブ」というグループ単位での活動も大切にしていて、最初の全体ライブ『hololive 1st fes. ノンストップ・ストーリー』でも、統一アイドル衣装などを用意することでそれを実現してきました。そして前回の『hololive 3rd fes. Link Your Wish』にあたって、音楽以外でもファンのみなさんと交流できる機会を持てないかと考え、併設して『hololive SUPER EXPO』が立ち上がりました。 ーー昨年初開催された『hololive SUPER EXPO』の手応えはいかがでしたか? 谷郷:ファンの方々と直接交流できる場所をつくれたり、スポンサー企業さんにも入っていただいて、企業さんにもファンのみなさんとの交流の場所をつくっていただけたりしたことは非常によかったと思っています。一方で、初の取り組みということもあり、様々な面で課題も感じました。そのひとつが、『hololive fes.』を担当する音楽ライブの部署が中心に『hololive SUPER EXPO』の準備をあわせて進めたことでした。とにかく実現するだけで必死だったのが昨年だったと思いますし、その経験を通して「これは全社を挙げて取り組まないといけないことだな」と改めて実感しました。 ーーなるほど。それで『hololive fes.』と『hololive SUPER EXPO』の担当部署がそれぞれ分かれることになったのですね。 音楽担当:はい。私は『hololive fes.』を含む音楽面の担当で、昨年の『hololive SUPER EXPO』についても横で見ていた形にはなりますが、昨年の『hololive SUPER EXPO』では、実際にバーチャルで見ていたものを会場に再現していたのが印象的でした。 ーー「ホロのぐらふぃてぃ」(ホロライブタレントが出演するアニメ企画)にも登場するホロライブの事務所など、色々なものが再現されていました。 音楽担当:そうですね。会場内には事務所が再現されていましたし、タレントのみなさんの衣装も展示されていました。私たちとしては、日頃からリアルもバーチャルも垣根はないと思っていて、タレントがバーチャル上に存在していてもリアルに存在していても価値は変わらないとは思っているのですが、それでもリアル会場で事務所や衣装などを実際に目にしていただけたことはとても印象的でした。  もちろん、谷郷が話したようにすべてが上手くいったわけではありませんでしたが、会場に神社を取り付けた「ホロライブ神社」ブースなどを筆頭にアトラクションとして楽しめる体験型の展示物を多く用意したり、一緒に写真やプリクラを撮れるブースを用意したりすることもできました。当日は谷郷も会場内の色々なところを回っていて、『ホロライブ・オルタナティブ』のブースではPVに登場していた荷台の前で写真を撮ってもらったりもしました。そうした様々なブースを通して、タレントやホロライブプロダクションの魅力をリアルに感じていただけたのではないかな、と思っています。 ーーグループ全体の音楽フェス『hololive fes.』のこれまでについてはいかがでしょう? 谷郷:2020年に開催した『hololive 1st fes. ノンストップ・ストーリー』の頃は、そもそもお客さんが集まってくれるかどうかも心配していました。また、当時はまだLEDなどもいいものを使える状態ではなく、それほど予算はかけられない中での開催ではありましたが、そんな中でも来場いただいたみなさんが盛り上がってくださったことがとても印象的でした。そして、『hololive 2nd fes. Beyond the Stage』、『hololive 3rd fes. Link Your Wish』と続いていく中で、前回の3rdフェスでは生バンド形式のARライブを実現し、とても迫力のあるライブを楽しんでいただけたのかな、と思います。それまでのフェスでは、タレントだけが出てきて歌唱を聴いてもらう形だったのに対して、昨年はそれ以外の要素も含めて、よりエンターテインメントとして楽しんでいただけるものにできたのかな、と思います。 ーー『hololive fes.』については、今や約1年に一度のペースで開催されるホロライブの恒例イベントとして、リスナーのみなさんにとっても恒例のイベントになっていますね。 音楽担当:年一回開催される、ホロライブのほぼすべてのタレントが参加するイベントですし、普段は積極的には音楽活動をされていないタレントもステージに上がるという意味でも、とても貴重な機会になっていると思います。もちろん、タレントの人数が増えるにしたがって開催日数も増えていますし、ライブ自体も長尺になっていますが、その辺りも含めてみなさんが待ってくれているものを提供できているのかな、と感じているところです。また、開催ごとに技術も進化してきました。今も発展途上ではありますが、まだ技術的に確立されていなかった1st Fes.を経て、2nd Fes.では終盤にAR演出が加わり、昨年の3rd Fes.では生バンドを迎えた有観客でのARライブが実現しました。 ーー特に昨年は、会場で観させていただいても臨場感や没入感をより強く感じました。 音楽担当:私たちは、普段はオンライン上でリスナーのみなさんがバーチャルな世界に没入していただくためのコンテンツを考えているので、その場合は「リスナーのみなさんがタレントに会いに行く」形になっていると思うのですが、リアル会場でのライブは対象的に、「タレントがリスナーのみなさんに会いに行く」機会です。そのため、我々としては「手を伸ばせば届くんじゃないか」と思ってもらえるような臨場感のあるステージを心がけていますし、それをすべてのタレントのファンのみなさんに体験していただきたいと思っています。そう考えると責任重大だとは思いつつ、私達自身も楽しく準備をしています。 ■タレントが持つ様々なスキルで戦えることがVTuberの強み ーー今年の開催に向けては、どんなことに注目してほしいですか? 音楽担当:『hololive SUPER EXPO』については、前回以上にコンテンツのボリュームがアップしているように感じます。見るもの、展示されているもの、体験していただくものが増え、より楽しんでいただける場所になっていると思います。また、今年は有料コンテンツを含む特設ステージもより充実していると思いますし、隣の会場で開催されている『hololive fes.』を、『hololive SUPER EXPO』の会場で副音声的なコメンタリーとともにライブビューイングできる機会も用意しています。こちらも今年の新しい試みですね。  一方、『hololive fes.』については、去年確立できた「生バンドでのARライブ」を今年も大切にしていますし、新たにDECO*27さんとのコラボステージ『holo*27ステージ』も開催します。これまでのフェスはタレントが自分のオリジナル曲やカバー曲を歌うライブのみでしたが、今回はそこにDECO*27さんとのステージが加わり、そのステージのために制作されたオリジナル曲などが披露されます。こうした新しいチャレンジが、来場してくださるみなさんにとっても新しい体験価値を生んでくれるのではないかと期待しています。 ーー『hololive 4th Fes. Our Bright Parade』というタイトルに込めた意味も教えてください。 音楽担当:「Our Bright Parade」の「Parade」の部分には、「ファンのみなさんと一緒に進んでいきたい」という気持ちが込められています。みなさんがいつホロライブのファンになっても、我々はみんな同じ仲間ですし、いつまでも続くこの大きなパレードに、みなさんもぜひ入ってきていただきたい。「誰でもいつでも、世代を超えて参加できる大きなパレード」をイメージして考えられた公演タイトルでした。昨年からはホロライブENやホロライブIDのタレントも参加し、国内も海外も問わず、世界に向けて「ホロライブのパレードに参加してください」という気持ちも込められています。「未来を感じられるような、光を感じられるようなきらびやかなパレード」をイメージして名付けました。  ーー「これからもみんなで未来に進んでいこう!」という気持ちが込められているのですね。 音楽担当:メタバースのような場所に向けてという意味も含めて、「国も地域も、バーチャルも現実も、時間も場所も超えて広がっていきたい」という気持ちも込められています。 ーーそもそもお2人は、ホロライブのタレントさんやVTuberにとっての音楽活動についてどんな可能性を感じていますか? 音楽担当:配信などによって自らが制作したコンテンツを紹介できるVTuberの音楽活動は、個人的にですが、楽曲を出してTVに出演して……といった従来のアーティストの方法論とはまた違った方法で活動を続けられる存在になりえるのかな、と思っています。時代や時間性を超えて、つねにそこに居続けられるような魅力もあるのかな、と感じます。タレントのみなさんは配信活動もしていて、それぞれに色んな個性を持っているので、ホロライブの中でも「かっこいい」「かわいい」など様々な魅力を表現できますし、音楽面でも色々な動画を出していたり、TikTokで湊あくあさんや宝鐘マリンさんの楽曲の人気が広がっていたり、星街すいせいさんが音楽YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』に出させていただいたりと色んな形で活躍されているタレントがいます。 谷郷:日々の活動の中でそのタレントが持つ様々なスキルで戦えることがVTuberの強みで、そのひとつとして「音楽活動」があるということですね。そもそも、我々はタレントに何かを「やってください」と言うことはなく、それぞれが何を目指して、どういうゴールを設定するかは各タレントに委ねています。そして本人のモチベーションをもとに、あくまでそれを支えるポジションを取っているんです。そのため、それぞれのタレントが誰かに押し付けられたものではない、自分自身の目標に向けて活動しているのが特徴です。だからこそみんな伸び伸びと活動できるし、リスナーのみなさんも「その夢を応援しよう」と感じてくださるんじゃないかと思っています。 ーー音楽に関しても、あくまでタレントさんがやりたいことをサポートする形なのですね。 谷郷:そうですね。タレントが音楽をメインにして、何か目標を達成したいのであれば、そのために我々ができることをサポートしていく、ということなので。 音楽担当:現在ホロライブに所属しているタレントの中には、ビクターエンタテインメントさんからデビューして5周年を迎えたときのそらさんや、昨年ユニバーサルミュージックさんからメジャーデビューした森カリオペさんのように高いラップの技術を持っている方もいますし、他にも様々な活動をされている方々がいます。色んな可能性のある方たちを、ワールドワイドにサポートしていけることがこの仕事の魅力だと思っています。 ーー今やホロライブの所属タレントは世界中で高い人気を集めていますが、谷郷さんは2016年のカバー株式会社の設立当初、今のような状況を想定していましたか? 谷郷:我々はもともとVTuberに特化した事業に絞っていたわけではなく、VRやARの技術を活用した日本発のコンテンツを世界に届けたいと思って立ち上げた会社なので、そういう意味では、立ち上げ当初から今のような状態を目標にしていたので、そこに対する驚きはありません。 ーー当初からの目標が着実に実現してきている感覚なのですね。 谷郷:そうですね。ただ、バーチャルタレントのみなさんについては、生配信で活動するタレントのためのシステム開発などを進めて、2017年にときのそらさんがデビューしたのですが、最初はやはり、なかなかお客さんが集まってくれるような状況ではありませんでした。 ーーときのそらさんの初配信に訪れた視聴者は13人ほどで、関係者の数の方が多かった、というのはよく知られたエピソードです。 谷郷:ですから、所属タレントたちがたくさんの方々に認知していただけている今の状況については、隔世の感があります。 ーーみなさんが人気になった決め手はどんなことだと感じてらっしゃいますか? 谷郷:それは単純に、「埋もれていた才能が発掘された」ということが一番なんじゃないかと思います。また、ここ数年の流れとして、技術的な進歩によってライブ配信が主流のひとつになっていって、動画を楽しむだけではなく、ライブストリーミングを通してインタラクティブにコンテンツを楽しむことが受け入れられたことも、大きな要因のひとつだと思っています。  コロナ禍に入り、人と人とのつながりを求める気持ちが高まっていた中で、ストリーミングを通して同じ趣味を持つ方々が、ひとつの場所に集まることが受け入れられていったといいますか。ライブ配信などを活用したVTuberの活動は、ただ単にタレントと双方向的なやりとりができるものではなく、タレントを中心として様々なファンのみなさんが参加できる“コミュニティ”になっていることが大きな特徴です。人々がつながりを求める中で、ライブ配信の特性が受け入れられていったことは大きい気がしています。 ■バーチャルタレントの資質は“やりたいこと”と“目標”を持っていること ーー最近では東京観光大使にさくらみこさん、がうる・ぐらさん、森カリオペさんが就任するなど、ホロライブプロダクション所属タレントの活躍の舞台も多岐に亘っている印象です。世間に対するバーチャルタレントの認知についても、その広がりを感じる部分はありますか? 谷郷:ようやく「聞いたことはある」というレベルになってきたのかな、という感覚で、「まだまだ大きくは変わっていない」と思います。ファンのみなさんの裾野は広がってきていて、以前は20代中盤~30代前半の年齢層の方々が見てくださっていたものが、現在では中高生のリスナーさんが非常に増えています。また、そのご家族が子供の趣味を通じてホロライブのタレントを認識してくださるケースも増えていて、ホロライブを知ってくださる方々の層は年々広がっています。  ただ、一方で、実際に配信を見たことがあるかというと、その部分はまだまだファンの方のみにとどまっているのが現状です。もちろん、近年はコンビニとのコラボ企画で「ああ、これがホロライブなんだ」とビジュアルを認識していただいたり、音楽でヒットチャートに乗ることで、知らないうちにVTuberのコンテンツにYouTube以外で接していたりすることも増えてきました。我々としては、よりYouTube以外での露出も強化していきたいと思っているところです。 ーーホロライブプロダクションを運営する際にみなさんが大切にされていることはどんなことですか? 谷郷:それはやはり、「ひとりひとりがやりたいことをサポートしていくこと」に尽きると思います。ホロライブプロダクションには雑談が得意な人、歌が得意な人、ゲーム実況が得意な人など様々なタレントがいて、ひとりひとり個性も違いますし、目標も違います。ですから、みんなでグループを盛り上げるために「年一回のフェスはやりましょう」ということは決めていますが、普段の活動についてはこちらから押し付けることはせずに、あくまでそれぞれのタレントのやりたいことや夢を叶えるサポートをすることが大切だと思っているんです。 ーーあくまでタレントさんが何をやりたいかが大切なのですね。 谷郷:そうですね。ホロライブのタレントは基本的にはSNSタレントなので、YouTuberと同じで、ひとりひとりがクリエイターで、ひとりひとりが主体となって活動しています。日々自分が前面に出て配信をしたり、様々な活動をしたりしているので、我々はその活動をサポートする存在として、ひとりではできないことをやれるような環境を整えたり、会社の規模を大きくすることで、できることを広げていきたいと思っています。 ーー谷郷さんご自身も、「YAGOO」の名称でタレントのみなさんやリスナーさんから慕われていると思います。この辺りについてはどう感じていますか? 谷郷:そうですね……タレントからは特に慕われてはいないんじゃないかな、と思っているのですが……(笑)。リスナーのみなさんからそういった声をいただけることはとてもありがたく感じています。私としては、あまり自分が前に出たくはないのですが、VTuberプロダクションを運営していく上で、まだ知らない方に信頼を感じていただくことはなかなか難しいと思っているので、自分が出ていくことで「こういう人が運営している会社なんだな」という一定の信頼感を醸成していけているのかな、と思っています。ただ、基本的にはいなくても成立した方がいいと思っているので、自分が出ていなくとも「この会社だったら安心だ」と思ってもらえるようなことを目指していけたら、それが理想的ですね。  VTuberという職業は、「自分がやりたいこと」がなければやっていけない職業で、日々色々な形で前に出てお客さんを喜ばせなければいけない。「楽しそうにやっているよね」というだけで成立するような甘い職業ではありません。ひとりひとりがプロフェッショナルとして目標を持って活動したり、磨くべき技術を持ったりしていることがとても大切な職業です。そして我々は、あくまでそのサポート役として、「タレントたちがやりたいことに応えられるアセットを用意したい」「機会提供をしたい」と思っています。メジャーレーベルさんと連携することもそのひとつですし、日本武道館でライブをしたいという方のために武道館を抑えられるような会社になることもそのひとつです。そんなふうに、所属タレントのそれぞれの夢を実現できるようなケーパビリティを獲得していきたいな、と思っています。 ーーVTuberに必要な資質はどんなものだと思われますか? 谷郷:基本的には、何かしら他の人と比べて突出した魅力を持っていることだと思います。ダンスが上手いのか、歌が上手いのか、ゲーム実況の中でもRPGが上手いのかFPSが上手いのかと種類は違っても、その人ならではのスキルが必要です。そしてその技術を磨くためにも、モチベーションの源泉になる「目標」がすごく大事なのかな、と思います。タレントのみなさんは、VTuberとして長い時間をかけて活動することになりますから。もちろん、セルフプロデュースを出来る人と出来ない人がいるので、「こういうことがやりたいです」というタレントに「そのためには何をやっていけばいいか」とこちらでマネジメントできる部分もありますが、自分自身で何かやりたいことを持っていて、そのために進んでいけるような方でないと、活動を続けることはなかなか難しいんじゃないかと思います。 ーー長く活動していくことを見据えて、自分で考えていける方であることが大切なのですね。所属タレントについて、意識の変化を感じることもあれば教えてください。 谷郷:たとえば、ホロライブがはじまった初期の頃に入ってきてくれたタレントは、まだVTuberが職業として成り立つかどうか分からない中で飛び込んできた方たちで、ものすごいベンチャースピリッツを持って入ってきてくれたと思います。そういったタレントたちが、今は短期的なものにとらわれずに、腰を据えて活動をされているような感じになってきているな、ということは見ていて感じます。たとえば、1期生の白上フブキさんもそのひとりだと思うのですが、彼女はおそらくVTuberの活動を「これはすごい機会なんだ」と捉えてくれていて、我々と一緒に初期から成長してきてくれた中で、今の状況がそう簡単に実現したものではないことも実感していると思います。ですから、最近は特に、焦らずにしっかりと、浮足立たずに活動をするように変わってきているのかな、と感じます。  一方で、新しく入ってきてくれたタレントたちも、きっとすごく大変だと思っています。というのも、すでに一定の人気がある中でグループに入るということは、最初から期待値が高い状態ではじめなければいけないと思いますから。ですが、みなさんVTuberを職業として捉えてくれて、プロ意識を持ってやってくれているのを感じています。 ーーホロライブENやホロライブIDの海外のタレントさんについてはいかがでしょう?  谷郷:ENやIDのみなさんについては、コロナの影響で最近までなかなかスタジオに来られない状態が続いていたので、会社としてもまだまだしっかりサポートできている状況にはないと思っています。しかし、日本発のカルチャーとしてVTuberを世界に届けていくためには、ENやIDの海外のタレントのみなさんのサポートもとても大切です。単に3Dスタジオでの配信をすることだけではなく、それぞれの地域でのライセンシーを含む様々な事業を展開していきたいと思っています。日本では最寄りのコンビニなどでもホロライブに触れられる状況が出来つつありますが、海外はまだまだそこまで実現しているわけではないので、タレントのみなさんの認知が拡大していくように努力していきたいと思っています。 ーー海外のリスナーさんからの熱気を感じる機会も増えているのではないでしょうか? 谷郷:そうですね。我々は昨年21個ほどの海外のアニメ系のイベントに出展していて、これはおそらく他のVTuber事務所さんはなかなかやっていないことだと思っています。私も直接現地にうかがう機会がありましたが、そのたびに、それぞれの国にホロライブのリスナーさんがいて、熱量高く応援してくださっていることを実感します。今まで、コロナ禍でなかなか思うように活動をサポートすることが出来ていませんでしたが、今後さらに海外のファンのみなさんに、ホロライブENやホロライブIDのタレントたちの魅力を伝えていきたいですし、さらにいいコンテンツを届けていきたいと思っています。 ーープロダクションのこれからについてお2人が感じていることも教えてください。 谷郷:我々の場合、あくまで「タレントのやりたいことが実現できている」ということが一番ですが、「世界中のファンの方々にコンテンツを届けていけるような存在であり続けたい」とも思っています。その結果、久しぶりに日本から生まれたカルチャーでもあるVTuberというものの魅力を、世界に届けていけると嬉しいです。おそらく今後、海外で日本のアニメルックではないVTuberも多く誕生してくるだろうと思いますが、「VTuberという文化が海外でも根付いていく」という意味でそれ自体はいいことだと思いつつも、その中でもしっかりと、日本発のVTuberプロダクションとして業界をリード出来る存在であり続けたいですし、世界中のファンの方々にタレントの魅力を届けて、VTuberというコンテンツでの存在感をしっかり保っていきたいな、と思っています。 音楽担当:音楽活動についても、0から1を生み出す方々の、その「1」をいかに広げてあげられるか、もしくは新しい知識を持ってそれを「10」にしたり「20」にしたりできるかを考えていきたいと思っています。もちろん、タレントの中には、0から1を生み出して、それを自分で「10」にも「100」にも出来てしまう方もたくさんいます。ですが我々も、そんなタレントたちをしっかりとサポートしていける存在でありたいと思っています。

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