
BOOGEY VOXX、解散ライブで見せた最高の散り際 ヒールとしての美学感じるラストギグに
BOOGEY VOXX(以下、ぶぎぼ)の事実上の解散ライブ、『#ぶぎぼ解散』がYouTube上で行われた。3月6日にて活動3周年、否、3周忌を迎えてのYouTubeでのラストギグとなった。 【画像】BOOGEY VOXX、解散ライブで大盛り上がり まずはお決まりのカウントダウンムービーからスタート。アルバム『Bang!!』のイントロ後にCiとFra、2人のシルエットが見えるはずだが、今夜はそこに4つの影があった。映像の手前に3Dのぶぎぼが並び立ってリアルを主張していた。 オープニングは「Go!!Go!!Undead!!!!!」。同日のトレンド、侍ジャパンの大谷翔平選手に対抗し、ホームランをかますと宣言しながら曲に突入した。ぶぎぼのテーマ曲を目指して制作されたというこの曲は定番のライブスターター。時折挟まれるワルなコードが、リスナーの心のエンジンをふつふつと温めていく。 画角を自由に動かせる3Dスタジオならではの秀逸なカメラワークも光る。間近で見るとやはりFraもCiも表情がいい。アップのカットでも、反対側のスクリーンが映るおかげで、ぶぎぼとしての連帯感が感じられるのがまた嬉しい。これはスタジオ主(ぬし)にして操作担当のノリ氏、そして朝ノ瑠璃氏に感謝を述べざるを得ない。 「お通夜ムード」の新しい意味を「ブチ上げ」として広めたいというMCを挟んで迎えた二曲目は「Escobar Dance」。ラスサビ前ではFraが、送り出すような手の動きを披露する場面も。ライブ定番の動きなだけに、2人が現場をこよなく愛する気持ちを感じ取って胸を熱くさせられた。 今夜初のロングMCもそれまでと変わらないゆるい雰囲気。「スペシャルゲストのなかやまきんに君も来ております」などという雑なボケフリに、凄まじい瞬発力で「パワー!」と対応するコンビ力を見せると、コメント欄では笑いを表す「草」が高速で流れ去っていった。 そういえばなにか忘れていないか? と急ハンドルを切った話から始まったのは、昨年発表されていた、おしゃれ着新衣装のお披露目。忍者系VTuberである朝ノ姉妹のプロジェクトのお膝元ということでジャンプからのドロンで現れた装いは、真っ赤なスーツのFraと女児服風コーデのCi。普段着ないものを、とカチッと固めてきたFraは金の腕時計にドレッドヘアーとかなりの気合の入りよう。Ciは全身ピンクのファンシーなルックに、大好きなクマのポシェットを装備。ここに来て初めて手が見える衣装となった。 そんな新衣装に合う曲をと始まった3曲目は、通称「LSD」こと「ラヴリースタンプデリバリー」。セールスマンにも見えるFraと危うい雰囲気のCiがMVに登場する2人に確かにハマる。と、ここでCiにサプライズが。なんと、いつの間にか頭にティアラが輝いていたのだ。これは新衣装を制作したヨッシャとサキュバスのリヤによる粋な計らい。Ciが部屋着のお披露目配信でこぼしていた「ティアラがない……」に応える形で用意されていた。今回の曲順やお披露目のタイミングなどもこのために調整されたもので、リハーサルのときですら隠されていたという。ウキウキした様子で、いつも以上にキュートなモーションとともに「LSD」を歌い上げた。 MCでは思わずCiが「“世界でいちばんおひめさま”やで」とryo(supercell)「ワールドイズマイン」をオマージュ。スイッチが入ったFraも茶々を入れながら「メルト」「男女」と古のニコニコ動画ネタを擦るが、次に披露したのもまさにCiが主役の楽曲「Pray a LOVE」だ。ぶぎぼの中でも珍しくCi主導で制作された楽曲で、ファンの間でも彼女を象徴する楽曲として定着していた。印象的なサビのラストフレーズ〈あなたを愛してる〉では、メンバー限定スタンプで「あいしてる」が作られ、コメント欄に弾幕が張られた。「みんなからの愛も、Ciたちからの愛もまだまだ終わりじゃない」と、2人のこれからにも希望を見出し、たっぷりと感情を込めて歌い終えた。 しかし、歌い終わったが最後、ティアラは没収。昔のバラエティ番組さながらのジャンプ着替えで普段の衣装に戻ると、すぐさま次の曲へと移った。披露されたのはプロデューサー・PSYQUIとタッグを組んだ「Karma D-Live」と「GOLDEN BATS」のコンボだ。 「Karma D-Live」はスマートフォン向け音楽ゲームアプリ『東方ダンマクカグラ』に収録されていた楽曲。3Dでは初のパフォーマンスとなった。『東方ダンマクカグラ』は、ゲームシリーズ『東方Project』のアレンジ楽曲を専門にしたリズムアクションゲーム。こうしたアレンジ文化は同人即売会でも1つのジャンルを築いている。『東方Project』の原曲はどれも登場キャラクターに紐づいており、「Karma D-Live」のアレンジ元の1つである「リジッドパラダイス」は宮古芳香というキョンシーのキャラのテーマ曲。“アンデッドが歌うアンデッドの歌”ということで当然のように最高の親和性を響かせている。 音ゲー楽曲らしくバツンと音が切れ、そのまま「GOLDEN BATS」へ。説明不要のPSYQUIの楽曲に、Fraの言葉が鋭く重厚に、斬りかかるように重ねられる。「誰が基準か言ってみろ。誰がお前の上か言ってみろ、俺らだ」「やってきたことはシンプルだった。ずっと誰が一番強いのか問うてきた。俺たちは俺たちが一番強いと思ってる」。〈ここじゃ俺らが基準だ〉の歌詞に沿うように並べられた語りは視聴者全員を痺れさせた。 曲について振り返ったFraは、「俺らの好きなことしかやってない」のに「これだけの人数に受け入れられるのは結構とんでもないこと」と評する。チャットに現れたMori Calliopeにも触れ、コラボ曲「CROWN」はフレッシュなホロライブリスナーへのリーチよりも好みを優先し、制作では伝説のラッパー・Jay Zをイメージの1つに挙げたと明かした。 そうして、楽曲たちの中でもわがままを通して作られたという「Bang!!」「Re:Credits」「y’all」が続けざまに歌われた。この時点で盛り上がりは最高潮になり、「Bang!!」の途中には同時接続者数が1万人を突破。どの曲でもライブお決まりのムーブが文字に置き換わり、強い一体感でコメント欄が埋まっていた。 これら3曲は、発表時期もバラバラなら、パフォーマンス順もリリース順と異なる。しかしそこには一貫した思いがあるという。Fraが掘り起こしたのは、ぶぎぼを始めようとCiに持ちかけた時の話。当時の資料には「業界のヒールをやりたい」とあったそうだ。アイドル的な活動をすることも多いVTuberシーンにいながら、事務所に所属せず、音楽を全面に出し、ラップという道を歩む。だからこそ3曲に一貫するのは、ヒールには必ず宿る美学。3曲の共通点といえば、クリエイターを後押しする歌詞だ。歌唱の合間にFraが言った「地元のNo.1、お前いったい全国じゃ何番?」「最後の置き土産だぜ。俺らを倒してみろ。手上げろ」も視聴者だけでなく世のクリエイターに向けられた言葉だろう。彼らの美学として、同業者の前に立ちはだかる最強の好敵手になろうとしているのだ。 そして、最高の散り際を用意してそれを完成させるため、今回のライブを開いたという。「このライブはFor同業者だ」「同業者の背中を叩き、クソな同業者の首を掻き切る」「俺らは死後強まる念だから」「ぶぎぼは今日終わるんだ。お前らが超えるんだ」。立て続けの台詞で伝説に楔を打ち込んでいく。そして再度、ぶぎぼのYouTubeチャンネルは残ることを強調する。メンバーのいなくなったぶぎぼは、最早誰にも消すことができない。だからこそ永久に残り続ける。倒すべき相手として存在感を放ち続けることになるだろう。 こうして打ち明けられた想いは、フィナーレ「D.I.Y.」につながっていく。全てをゼロから作り上げろと強いメッセージを放つこの曲が、最初の曲であり最後の曲なのは運命だとCiは語る。「今来たばっかり!」と叫ぶ定番の流れにも、いつもと少し違った笑いがこみ上げる。目頭もコメント欄も熱くしながらのラスト「D.I.Y.」を歌い上げ、この日のライブは終幕を迎えた。 しかし、ぶぎぼの活動は完全には終わっていない。5月にYouTube配信されない場で、もう1度だけライブがあるという。次に会うその時まで、生きているしかないようだ。
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