
聖夜の過ちは冷めない――1000万再生に届いた「刀ピークリスマス」と、Twitter大量凍結に揺れたVTuber界隈
聖夜の過ちが、とてつもない勢いで広まっている。『刀ピークリスマスのテーマソング2022』の話である。 「刀ピークリスマス」とはなにか? 説明するのはなかなか難しい。まず、VTuberのピーナッツくんと、「にじさんじ」所属のVTuber・剣持刀也が毎年クリスマスに実施している企画「刀ピークリスマス」というものがある。2018年から続く、伝統ある企画だ。この企画の中で、ピーナッツくんが剣持刀也へ捧げる曲が「刀ピークリスマスのテーマソング」である。 ピーナッツくんが剣持刀也への感情と関係性を歌うこのラブソングは、毎年曲調も歌詞も変えて発表されている。今年発表された『刀ピークリスマスのテーマソング2022』は、「にじさんじ」発グループ「ROF-MAO」にて躍進を続ける剣持刀也との距離を認めながらも、尽きぬ情念をねっとりと伝える、これまで以上に”湿度”の高い一曲となった。 この『刀ピークリスマスのテーマソング2022』が、異常ともいえるバズを引き起こしている。最初の震源地は「TikTok」だ。楽曲がウケたのか、ピーナッツくんの動きがウケたのか、MV内の踊りを再現するショート動画が急増した。 「にじさんじ」の天宮こころや星川サラが踊った。「モーニング娘。’23」も踊った。ついには本田翼も踊った。数多くのインフルエンサーが踊ったことで、曲の知名度はすさまじい勢いで上昇している。「刀ピー」という言葉も知らない層にまで、そのメロディとリリックが波及している異常事態だ。 「踊ってみた」だけでなく、「歌ってみた」もにわかに投稿され始めている。歌い手の超学生は余すことなく圧倒的な歌唱力をぶつけてきた。ピーナッツくんや剣持刀也とデビュー時期の近いVTuber・田中ヒメも、7時間の長時間収録による本気すぎる歌声を叩きつけてきた。もはや一人から一人へのラブソングから、普遍的なラブソングへと羽化を始めている。 そして2月5日、『刀ピークリスマスのテーマソング2022』は1000万再生に到達した。投稿から約42日での達成となり、VTuber楽曲動画において最速の記録樹立となる。風のうわさによれば、Adoの『うっせぇわ』に匹敵するスピードのようだ。 あらゆる意味で、新たな伝説がVTuber史に刻まれることになる。アーティストとしての活躍もめざましいピーナッツくんにとっても、非常に意義深い記録となるだろう。それでも”たったひとり”にこの想いが伝わることはないというのが、この曲にさらなる価値を与えているのは、皮肉だろうか。 「刀ピークリスマス」が異常震域を生み出している最中、VTuber業界には別の衝撃がもたらされた。にわかに引き起こされたTwitterのアカウント大量凍結事件だ。数多くのアカウントが原因不明な凍結の憂き目を見たが、VTuberにも少なくない数の被害者が確認されている。 推測として立ち上がっている凍結理由には「同一文言の宣伝ツイートが多い」「外部サービス連携による自動ツイートが多い」といったものが挙げられている。しかし、これらを抑えたアカウントでも凍結されたという報告も見られ、これと断定できる要因は依然として不明だ。現時点では、異議申し立てによって解除された人も増えているが、対策しようのない凍結を前に困惑を隠せないVTuberも多い。 イーロン・マスク買収後、不安定な運営が続くTwitterに見切りをつけ、別のSNSへ移住する動きも(数年ぶりに)確認されている。しかし、多くのファンを獲得したいVTuberにとっては、多数の見込み顧客がいるTwitterを見限れない場合もあるだろう。今後「活動拠点の分散」が意識として広まるか、Twitter自体の動向も含めて注視していきたいところだ。 一方のソーシャルVR界隈では、ひとつの興味深いデータが公開された。ECサイト「BOOTH」上で取引されている、3Dモデルカテゴリに関するデータが公開されたのである(※1)。 公開されたデータによれば、取扱高は約24億円、注文件数は約148万件。「思っていたよりも大きい」と感じた人は多いのではないだろうか。その多くは、『VRChat』などで使われるアバターやアバター向けデータ、アバター作成ツール『VRoid Studio』向けのテクスチャデータと思われる。「アバターを買う人はこれだけいる」というひとつの指標といえるだろう。 価格帯についても、5,000~6,999円がボリュームゾーンであることは、知らない人からすれば驚くかもしれない。実際、このくらいがよく見る『VRChat』向けアバターの平均価格だ。そして、それ以上の価格帯も、安価な商品と同じくらいの注文件数となっており、「アバターにある程度は出費する」というユーザーの消費動向が見て取れそうだ。 市場として見ればまだまだ小さいが、個人が作り、収益を得るラインとしては、アバター市場は着実に成長を遂げている。衣服を買う感覚でアバターを買い、メタバースへと遊びに行くという日常は、「識者の未来予想」ではなく、現実のものとなりつつあることは、一般層もビジネス層もおぼえておくとよいだろう。 ※1:「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書」
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