小野町春香が穏やかなたたずまいに秘める“白球への愛情” 多彩な表情でリスナーを魅了するにじさんじの若女将
2022年01月25日 12:01
小野町春香が穏やかなたたずまいに秘める“白球への愛情” 多彩な表情でリスナーを魅了するにじさんじの若女将

 現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。 【動画】パワプロを前に豹変する小野町春香  メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。  いまから4年前、2018年末に1期生・2期生・ゲーマーズ・SEEDs組と分かれていた流れが撤廃・統合され、2019年へと進んでいったにじさんじ。2018年11月16日には約5か月ぶりとなる「キャラ有り」オーディション、2018年12月26日からは配信経験・ストリーマー・歌手経験・クリエイター向けのオーディションをそれぞれに告知し、この年に非常に多数のメンバーがデビューすることになった。  2019年1月8日に童田明治と久遠千歳が、1月17日に郡道美玲と夢月ロアと、約10日ほどのスパンでつぎつぎとデビューしてきたが、1月28日には3人の新人がデビューすることになった。そんな3人のうち、今回は小野町春香について書いていきたいと思う。  小野町春香は1月28日にTwitter初投稿、1月30日にはYouTubeでデビュー配信をした。これは筆者の感覚によるところが大きいのだが、5周年となるにじさんじに所属するメンバーのなかで、外見・ビジュアルから受ける印象と声・会話・配信内容のギャップがそこまで激しくないタレントといえば、鈴谷アキ、シスター・クレアとともに彼女を思い浮かべてしまう。  デビュー配信でのおっとり・優し気・柔和な笑顔は現在でも彼女のチャームポイントでもあり、トレードマークであろう。とあるゲームやスポーツなどでは溌溂とした彼女が見れるわけだが、やはり小野町春香といえば「包容力」という言葉がパッと思い浮かぶ。  そんな彼女の配信で長らく軸となってきたのは「バイノーラル/ASMR生配信」である。2019年3月8日に初めてのASMR配信を行なって以来、活動5年目を迎えようという現在まで、のべ300回以上にわたってASMR配信をしてきた。ASMR/バイノーラル配信に挑戦しようというにじさんじのタレントは多いものの、彼女と同じ程度に長期間かつ高頻度で配信しているのはSEEDs1期生の鈴木勝くらいだろう。  しかも鈴木勝の場合、日によっては集音マイクを使用するなどの遊び心あるバイノーラル配信をする日もあるので、ASMR配信の王道ともいえる「人肌を感じさせるような癒し」を日々表現し続けてきた小野町春香には、「にじさんじのASMRクイーン」という言葉がふさわしい。  そんななか、2022年6月にはYouTubeの規約改訂によって、「ASMR」動画が非公開対応になる事例が大量に発生した。  YouTubeの「子どもの安全に関するポリシー」内にて、未成年者が出演するコンテンツに関して、個人宅の寝室や浴室などのプライベートな場所で撮影したもの、未成年者への不適切な注目を喚起するような活動(体の不自然な捻じ曲げやASMRなど)を披露するものについて無効になる、というような条文がある。  猥褻さ・暴力性を訴えるような未成年の視聴者に悪影響を及ぼしかねない内容も規制にはいるわけだが、この場合、VTuberのアニメルックなビジュアルが「見た目が未成年に見える」という判断で規約に抵触したのではないか?と考えられる。  これまでオッケーであったASMR配信・アーカイブ動画が一気に非公開扱いとなり、にじさんじに関わらず多くのタレントが対応に追われた。線引きの見極めが難しいなかで、小野町春香は2022年後半からはYouTubeから離れてツイキャスをメインに配信、いちど様子を見る方向になった。  9月後半からは「小野町春香 ASMR」と称した専門チャンネルを新たに開設し、現在彼女はこちらのチャンネルでASMR/バイノーラル音声での生配信・収録動画の投稿を行なっている。規約改訂・動画非公開などの騒ぎがあったことで不安が残るなかでスタートしているが、以前と同じような月5回~7回のペース感で配信ができているようで、彼女本人・ファンとしても一安心といったところだろう。  今後もにじさんじを代表するASMR配信者として、今後も着実に配信をこなしてくれそうだ。  ここまでは小野町春香の「安・穏・憩」といったイメージ像について触れてきた。だが彼女にはもう一つの「叫・激・怖」な顔がある。この1~2年で彼女を知ったひとにとっては、もしかすればこちらのパッション全開・笑顔いっぱいな彼女をイメージする人が多いのかもしれない。  にじさんじでも指折りの野球ファン・巨人ファン・パワプロファンなのだ。  数あるゲームのなかでも「実況パワフルプロ野球」シリーズを特にやり込んでおり、過去シリーズやアプリゲーム版もしっかりとプレイしているので、特殊能力それぞれの能力値・細かな違いだけでなく、当ゲームで人気を集める「サクセス」シリーズに登場するオリジナルキャラクターもしっかり覚えている。  過去作品での出来事を踏まえながら「このキャラは昔はこうだったけど~~」と印象的なエピソードまでしっかりとリスナーに伝えることもでき、ライバルキャラとして長年登場し続けている猪狩守が登場すると、興奮のあまりプレイを止めて語り始めることもある。  「サクセス」のなかには明らかにおかしな能力値をもったオリジナルキャラクターも登場するが、小野町自らの操作で彼らをやっつけるのはお手のもの。視聴者参加型オンライン対戦を開けば、なぜか「パワプロ」のプロプレーヤーらが参加してくるなど、「小野町旅館はプロのキャンプ地」と冗談めかして話されるほどだ。  じつは「パワプロ」配信は初期のころに数回ほど配信しただけにとどまっていたが、2020年7月上旬に『eBASEBALLパワフルプロ野球2020』が発売されたタイミングでプレイ配信する回数が増えていくようになった。  配信活動も1年以上経過して慣れたことも影響し、感情や口調を抑えることもなくなっていき、いまではホームランをかっとばしたり三振を奪えば、ASMRで聴かせてくれる穏やかな印象が吹き飛ぶほどの、とんでもなくドデカイ絶叫を聞かせてくれる。  かつて「バイクに乗ると豹変する男」という漫画キャラクターが描かれ、表情・言葉遣い・態度までガラっと変わってしまうというギャップが売りにされていたが、「パワプロ」をウキウキでプレイする小野町春香に対して、「バット・グローブ・ボールを持つと豹変する女」と言葉を借りてを評しても、おおよそ当てはまってしまうレベルではなかろうか。  こういった影響もあり「パワプロ」公式との繋がりがかなり強く、これまでに4回にわたって「パワプロ」PR案件をこなしてきた。ときにはイベントキャラクターコンペ、ときには新シナリオ公開に合わせたPR配信、時にはそもそも「パワプロ」の魅力を語るなど、さまざまな角度から「パワプロ」シリーズ並びに野球の面白さを伝えてきた。  にじさんじでも随一の大型企画「にじさんじ甲子園」には、2021年夏に監督として参加した。  それまでの同企画では育成されてこなかった高能力値な選手/バッターを育成するだけでなく、選出されたメンバーひとりひとりに持ち味・カラーを持たせた育成術でチームを育てていった。プレイヤーとしても勝負所での判断にはリスナーからのコメントを一切封じて自己判断で進め、劇的な勝利をいくつももぎ取るなど、持ち前の知識・腕前を存分に活かしたプレイングで多くのリスナーを惹きつけた。  この企画配信では普段の配信とは比べ物にならないほどのリスナーが見に来ていたのだが、溌溂と元気よく、ときに絶叫しながらプレイしつづけたことで、「穏やかそうな小野町さんが、こんなに熱くなって叫ぶ人だとは知らなかった」と、にじさんじファンはおろかにじさんじの同僚らを大いに驚かせることになった。  本大会の結果は少々不甲斐ない成績になってしまったものの、「小野町春香、ここにあり」と存在感を示すには十二分であった。  こういった事も影響してか、2021年12月17日に行なわれた自身の3Dお披露目配信は、3Dボディ・3D空間とASMR/バイノーラル音声でミックスされた「3D & ASMR」体験、「パワプロ」に搭載しているVR技術を活かして「パワプロ」空間に3Dボティで登場して試合観戦するなど、ASMRと「パワプロ」を詰め込んだ彼女らしい内容となった。  後半にはこの配信でこけら落としとなった「にじさんじスタジアム」の始球式に、「にじさんじ甲子園」企画で仲良くなった樋口楓、舞元啓介、長尾景らが登場、彼女を祝った。  2022年の「にじさんじ甲子園」企画には監督として参加することは無かったが、代わりに「にじさんじ甲子園2022をこっそり応援したい!」「楽しくゆるく話せる空間」と称して、朝企画「#はるスポ」をスタート。各監督の配信内容・選手パラメータを独自で集計し、「昨日の配信、あの瞬間可愛かった!」「あの采配はこういう意図だと思う」などビギナーから玄人まで集まるリスナーを楽しませる内容を届けてくれた。  お気づきの方もいるかと思うが、彼女の線の細い声には感情が乗りやすく、ほんのちょっとの心の機微すらリスナーがその変化に気付けるほどだ。この辺りはASMR配信で声を繊細に出していて、自然と身に付いたクセ・スキルなのかもしれない。  これに加えて喜怒哀楽といった感情を隠すことが少なくなったことで、より心の内が声へと乗るようになった。なにかにツッコミを入れようとればクシャっと笑いながらツッコみ、アクションゲームをプレイすれば「むぅぅー!」と言いながら頑張ってプレイする彼女がいる。たとえトラブルで配信上の顔が固まっても、声だけでどんな表情か?感情なのか?その輪郭が分かるほどだ。  2023年1月上旬に開催された「新春!にじさんじ麻雀杯2023」では、仲の良い後輩・空星きらめに教えてもらった麻雀を配信内外でプレイしつづけたことで実力をあげ決勝戦まで勝ち上がり、空星きらめ当人と雌雄を決することになった。結果は空星の優勝。決勝卓4人で感想を語り合うなかで、声を殺して押し黙る小野町春香、悔し泣きをしているのが伝わってくる痛切なワンシーンであった。  こうして彼女を振り返れば、ASMR配信での穏やかさや野球好き・「パワプロ」好きなヤンチャさの裏に、その飾り気の無さや純真さがあることに気づかされる。その純真さ・飾り気のなさが、5年経ったいまも変わらない彼女のたたずまいに繋がっている。

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