
連載「lit!」第35回:ぬゆり×和田たけあき、DECO*27×ピノキオピー、MI8k×星街すいせい……様々なスタイル展開するボカロPたち
ボカロPはボカロPとして曲を作る。歌い手は歌い手としてボカロ曲を歌う。昔はそうだった。しかし、今はできることが何通りも広がり、誰もがマルチプレーヤーに成りうる時代だ。実際、ボカロPはメジャーなアーティストからVTuberなどシーンを越境して楽曲提供を行うほか、楽器演奏でほかのアーティストのサポート、レジェンドクラスの作家同士が共作するなど、好きなことを軸にしつつ、いくつもの活動スタイルを生み出している。本稿では、ボカロPの活躍ぶりが見える作品をテーマにレコメンドする。 【画像】DECO*27×ピノキオピー 対談 昨年12月7日にソロプロジェクト・Lanndoとして、様々なゲストボーカルを迎えた1stアルバム『ULTRAPANIC』をリリースしたボカロP・ぬゆり。同作から厳選した10曲のボカロバージョンが収録されたnulut 6thアルバム『ULTRAPANIC2』のリリースも控えている。リリースに先立ち、昨年12月28日に公開されたのが、v flowerによる「クレイ」。メロディアスなピアノから物語が幕を開ける同曲は、ダウナーな空気感と洒脱なメロディのバランスが絶妙で、ぬゆりワールドが炸裂している。難解なリリックやバンドサウンドと、Eveやずっと真夜中でいいのに。のMVで馴染みのあるWabokuによる考察意欲を誘う物憂げなアニメーションMVが交じり合うことで不可解の連鎖が巻き起こる。特に2番からはベースラインの存在感が強く、深い夜の底に落ちていくようでもある。そして、これまでのぬゆりの楽曲にギタリストとして参加してきたボカロP・和田たけあきによる、咆哮するようなギターサウンドは聴きどころの一つだ。 次に紹介するのは、ボカロシーンの黎明期から時代の先端を行くメロディを生み出してきたDECO*27とピノキオピーによる、アップテンポなコライト楽曲「デビルじゃないもん feat. 初音ミク」。フレーズごとのメロディ、歌詞、初音ミクの調声がどちらのものなのか一聴すればわかる。それは二人が長い間、自身のサウンド、初音ミクと向き合ってきた結果によるものだろう。この曲からは、初音ミクなどの音声合成ソフトがアーティストの個性に繋がっていることが分かる。例えば、DECO*27のターンではダークなロックサウンドを提示し、初音ミクも少々病み要素を含む声色になっているのに対し、ピノキオピーのターンではピコピコと鳴る電子音が印象的で、初音ミクはイノセントな声色になっている。まるで、DECO*27とピノキオピーの論争を見ているような感覚だ。 作詞・作曲・編曲からミックスまでをボカロP・MI8kが手がけた「放送室」は、1月25日にリリースされる星街すいせいの2ndアルバム『Specter』収録曲。同アルバムは、MI8kのほか、Ayase、キタニタツヤ、じん、ナナホシ管弦楽団などボカロシーンで頭角を現した豪華ボカロPが楽曲を提供した。星街すいせいのセンチメンタルなボーカルとアコースティックな雰囲気から徐々に力強くなるバンドサウンドは、前を向き、続けることを選択した人々の背中を押す。バーチャルな“宇宙”を楽曲の舞台にすることの多い星街すいせいにとって、「放送室」の実写MVはレアと言える。歌詞には、〈届いてほしいのはSOSじゃなくて 優しい言葉〉と、星街すいせいとサウンドプロデューサー・TAKU INOUEによるMidnight Grand Orchestraの1stシングル「SOS」を想起させるワードも組み込まれている。星街すいせいの新たな姿で魅せるとともに、丁寧に彼女に寄り添った1曲だ。 音楽シーンにおいて、今はふとしたところに、ボカロの要素が転がっている。その活動がよく見えるようになったのも、それだけボカロシーンにスポットライトがあたっている証左だ。日々、フレッシュなボカロPが増えている今、ボカロPが活躍する場もますます拡張していくだろう。
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