
2021年12月23日 06:12
「日本の現代小説の9割は東京が舞台」だったけど 「地方再生」モチーフの小説が成功する絶対条件(レビュー)
日本の現代小説の九割は東京が舞台、と喝破したのは島田雅彦だ(二〇〇九年刊『小説作法ABC』)。しかし、このところその割合が徐々に変化しつつあるように感じられる。非東京を舞台にし、「地方再生」をモチーフに採用した小説が増えている。 藤井太洋は『第二開国』(KADOKAWA)で、自身がティーン時代を過ごした奄美大島を舞台に選んだ。主人公の昇雄太は、父親の介護のために東京からUターンし、地元のスーパーマーケットに就職し働き出した。配達先の一つが、西久慈集落で建設中の統合型リゾート施設だ。フランス人起業家を中心とした国際企業が同地を巨大クルーズ船の寄港地に指定し、「ユリムンビーチ」として開発をスタート。二〇〇〇億円もの莫大な資金が投下され、全島は活況に沸いていた。ところが……。雄太ら島民サイド、開発企業、公安。視点をスイッチする群像形式で、事業計画の裏に隠された真のビジネスを炙り出していく。個人的には、小川一水の月面開発SF『第六大陸』を思い出した。本作は著者がこれまで主戦場としてきたSFではないものの、度肝を抜かれるアイデアをシミュレーションし現実化する想像力には、センス・オブ・ワンダーが宿る。ウクライナ戦争など現在時制の問題や、奄美の歴史を取り入れたストーリーテリングも見事。
Book Bang