
「世界で一人だけ、わたしだけが郡道美玲」 強烈な自己意識から生まれたにじさんじの"最速最強イニシエーター"
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。 【動画】にじさんじ麻雀杯 抽選会の様子(郡道視点) メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。 いまから4年前、2018年末に1期生・2期生・ゲーマーズ・SEEDs組と分かれていた流れが撤廃・統合され、2019年へと進んでいったにじさんじ。当時は3DモデルとLive2Dがまだまだ混ざっていた時代であり、むしろにじさんじのようなLive2Dを使ったVTuberへの風当たりが強い時期でもあった。 そんな折、年末に2つのニュースが飛び出すことになる。2種類のオーディションを行なうというニュースだ。 2018年11月16日には約5か月ぶりとなる「キャラ有り」オーディション、2018年12月26日からは配信経験・ストリーマー・歌手経験・クリエイター向けのオーディションをそれぞれに告知。 その影響もあり、2019年には非常に多数のメンバーがデビューすることになった。2019年1月8日に童田明治と久遠千歳がデビューして以降、のべ44人ものライバーがデビュー。現在までに数名はさまざまな理由で引退・活動休止となってはいるものの、38人が現在でも活動中だ。 この時期にデビューしていたメンバーやファンたちから「にじさんじから毎月のように新人がデビューしていた」という話題があがるが、そのペースがどれほど異常かが伝わるだろう。ここまでデビューしてきた流れですら多いというのに、この1年で約2倍へと結果的に増えることになるわけだが、その影響については別の機会に綴ろうと思う。 さて、童田・久遠の2人がデビューしてから9日後にデビューしたのが、今回のヒロイン・郡道美玲である。2019年1月17日にTwitter初ツイートし、1月20日にYouTubeにて初配信を行なった。 Twitter上にアップした初動画を飛鳥ひなが発見し、それをキッカケとして「#郡道美玲チャレンジ」が流行。当時のシーンは現在よりもかなり小さかったことも影響してか、個人VTuberらも含めた大盛り上がりをみせた。 同期である夢月ロアの初配信中には「同期が芸人枠だけども大丈夫そう?」というコメントを質問箱から見つけると、「先生は怖いけど……」と口にしながらも初配信の緊張をリラックスさせたり、夢月にアドバイスする郡道のコメントをリスナーに見せたのだ。 初手に「プライベートなやり取りを晒される」という強烈なパンチを食らった郡道も、初配信から後半にはにじさんじの先輩らの紹介(もといイジリ)をするという大胆な内容になっている。いまとは違ってとりすました口調となっているが、現在に続く「気位が高そう」「高圧的」というイメージ作りの基礎となっているのが伝わるだろう。ちなみにこの口調は、デビューして半年もしないうちに抜けている。 冒頭にあげたオーディションの部分に戻れば、2018年11月16日に公開されたオーディション紹介のキャラクター例に郡道美玲が取り上げられていることが分かる。つまり、公開されてからデビューまで2か月と経っていないなかで彼女はデビューしており、この点は先にデビューしている童田・久遠も同じだ。 そんな彼女はオーディションについて、デビューから約半年経過した2019年8月22日にYouTube登録者が10万人を突破した記念枠で語っている。そのエピソードは、おそらくにじさんじ所属メンバーのなかでも最もインパクトあるものだ。 「正直にじさんじは全然知らなかった、たまに切り抜きを見るくらい。すっごいデカイ口を叩くけど、受かると思ってて」 「童田・久遠・フミとわたしとユードリックとあって、どれにするかのチェックを入れるやつだったんだけど、わたしは郡道美玲なので『わたしがおるやん』と思ってチェックをいれて、その他のところはチェックを一切入れなかった。わたしは群道美玲なので、それ以外は興味はありませんって」 「クソ恥ずかしい話をするけど、三次試験のときに5人分のイラストやあたし(郡道)の別の衣装も描いて、『他の4人って決まりました? 話してみたいんですよ』って切り出して、童田・久遠・フミ・わたし・ユードリックの5人でこういうことがしたい!という話をバーっと話をしたの」 「噂にすぎないけどもの凄い人数がオーディションを受けたって聞いています。けど、わたしだけが郡道美玲だと胸を張って言えます。わたしが郡道美玲。世界で一人だけ、わたしだけが郡道美玲だと思ってます、応募した時からずっと思ってる」 応募最終日の11月26日の23時59分に応募、12月14日に電話面接、12月24日に最終面接へとステップを踏んでいったという。圧倒的なる自身・自負、先走って前のめりになるほどのアグレッシブな姿勢、多くの人が臆する場面であっても強烈な自己主張が止まらず、むしろ迸らせるオーラとなっているのがわかる。 このキャラクターがあったからこそ、デビュー直後から彼女はいくつもの名場面・モーメントを作っていくことになる。 ファンならばご存知かと思うが、郡道美玲といえば、にじさんじらしい破天荒・慇懃無礼なキャラクター・言動で注目をひくキャラクターだ。 バイオレンス&エロなブッコミをためらいなく相手にぶつけてイジったり、少しでもユルいボケが来たらボケのようにツッコミをし返し、声を荒げて「なんでだよおまえぇ!」「フザけんなよぉ!!」と叫ぶリアクションもバッチリ。 MC役を長くこなしているということもあり、会話をうまく転がす回し役としても機転が効くので、会話内容に気を付ければ初対面のメンバーもかなり場に馴染みやすいはずなのだが、彼女はあえて鋭利なナイフのような内容と言葉遣いで相手に言葉を投げつける。 教員免許を実際に持ちながら、さまざまなアルバイトを経験しており、じつは夜職に就いていたことがあると語っている。彼女のコミュニケーション力がいかに高いかが分かるだろう。 デビュー当初から暴れ馬かつ尖っていた彼女とコラボするには、相応の対人コミュニケーション力が求められる。そんな彼女にピッタリだったのがSEEDs2期生として先にデビューしていた神田笑一だった。 初めて2人でコラボした配信は、運とお金を大量に使って試されるガチャ配信(その前に夢月ロアらを含めてのコラボ配信がある)。お互いにTYPE-MOONが好きだったというのがキッカケというが、まさか人間の本性がダイレクトに出てくるガチャ配信をするとは。この2つの配信は、その後の関係性が決定的になった配信であろう。 両者ともに頭の回転が非常に早く、お笑い的なボケ・ツッコミのやり取りはもとより、気づく・察する・とぼける・勘ぐる・はぐらかすなどを含めた日常会話がハイテンポで積み重なっていく2人の空気は、長年連れ添った友達か?と感じられるほど。 「〇〇して!っていうか××ってなに!?」という郡道のメッセージに、「えーっとそれはね……」と答える神田のリアクション、そのあと言い争うように会話していく流れも含めて、まさに「ケンカップル」という言葉がハマるだろう。 「にじさんじの男女2人組ペアといえば?」という質問があれば、いまでもこの2人のペアは強い支持を得るだろう。そもそも彼らほどに「男女関係」を強烈に印象付けるペアも、それ以前のにじさんじまたはVTuberシーンでもかなり稀であったこともあり、「VTuberの男女ペア」の先駆けともいえる存在かもしれない。 そんな彼女がもっとも得意とし、熱量をもって接しているゲームといえば「麻雀」だ。いまでは彼女の配信活動にはなくてはならないゲームであり、多くの出会いをもたらし、感動とお笑いを生みだしてきた。 彼女が初めてプレイしたのは2020年2月22日、彼女がデビューして1年ほど経ったタイミングであり、数日前には2020年2月20日に自身の3Dお披露目配信をしたばかりのタイミング。節目を迎えて気持ちを新たに活動をスタートするには良いタイミングだったといえよう。 その後彼女はオンライン対戦麻雀ゲーム『雀魂』を使って非常に多くの配信をこなしていくことになる。その配信数は現在までなんと400回を優に越えており、「1つのゲームを数多くこなしつづけている」という点において、同じく麻雀好きであるルイス・キャミーや『Apex Legends』をプレイし続けている勇気ちひろと同じく、不断の努力を続けててきた人物である。 麻雀を始めてわずか3か月ほどの腕前ながら、雀魂のサービス開始一周年を記念したトーナメント戦『一周年大感謝杯』に参加。このタイミングで解説役として出演した「最速最強」「麻雀星人」こと多井隆晴と出会ったことで、その後の人生が大きく変化していくことになる。 2020年6月末からルイス、舞元啓介、多井との4人で「郡道美玲の麻雀ハイスクール」「にじたま」と番組を変えながらも共に番組を続けていくことになる。にじさんじの舞元啓介や渋谷ハジメ、個人VTuberから天開司や歌衣メイカといったタレント、女性であれば千羽黒乃、咲乃もこ、因幡はねるらが麻雀配信をしつづけていたわけだが、彼女のように悪態をつきつつ楽しく麻雀をする初心者雀士が出てくるのは、やはり真新しく見えていたろう。 先に述べたようなアクティブ&アグレッシブな性格が影響し、『雀魂』が企画する公式大会などに参加するだけでなく、彼女はプロ麻雀士や麻雀好きタレントと数多くコラボしていくことになる。 多井隆晴を筆頭に、松本吉弘、山田独歩、鈴木たろう、渋川難波、松ヶ瀬隆弥、村上淳と数多くの男性プロ雀士とコラボしており、東海オンエアの虫眼鏡、YouTuberの釣りよかでしょう。、『はじめの一歩』の著者・森川ジョージらとコラボしてきた。 インターネットカルチャーの最前線であるVTuber/バーチャルタレントのなかにおいて、麻雀布教に尽力した1人であるといっても過言ではないだろう。 雑誌・近代麻雀では自身が主人公となった漫画「郡道先生、それロンです!」も連載され、『雀魂』で大好きなキャラクター・斎藤治を登場させるという彼女の企画・原案に基づいた作品となっている。 彼女を知る多くのタレント・ストリーマーらの言葉を真に受けて書かせてもらうが、表向きはかなり荒々しい女性ではありつつ、裏ではキッチリと礼儀正しく、真面目な一面を持ち合わせているという。 同じVTuberの同業者だけでなく、FPSプロ、麻雀プロなどの多彩なメンバーが口にしており、ここまで話題にあがっている夢月ロア、神田笑一、犬山たまきらによるエピソードをみてみれば、彼女が社会人経験があるスマートな一面を持っていることが伝わるだろう。 非常に高いコミュニケーション力、配信上では粗暴・粗悪な言葉遣いで盛り上げようと振る舞い、裏では多彩なメンバーに声をかける明るさや綿密な丁寧さもあるとくれば、配信内で暗くなったりつまらない瞬間があればすぐに潰してしような、「傍にいてくれるとそれだけで助かるタイプ」の人物に見えてくる。 外野から見ればもはややりたい放題じゃないか! と思われるだろうが、それほどに彼女は影響力をもち、キャラクターが信頼されているということだ。 視聴者・コラボ相手の悪態をついたり叫びながらゲームをこなしていく彼女だが、雑談となると一転して「あたし××したいんだよね。だから〇〇を▽▽していくし~」と計画を立てていくのがわかる。 しかもにじさんじ内外のバーチャルタレント/VTuberのなかではすこし珍しく、スーパーチャットやYouTubeチャンネルの限定メンバー登録された時には「コメントした人の名前・ユーザー名」をちゃんと呼んでから、送られてきたコメント内容に返事するタイプでもある。人によっては名前を呼ばずにコメントだけを読む人もいるが、相手の名前をちゃんorさん付けで自然に呼びつつコメントに反応している。 しかも彼女の場合、YouTubeやツイキャスを使っての限定配信や突発配信がとても多いタイプで、馴染みの視聴者やメンバーさんへの対応は文字通り「お得意様」のように接してくる。自身の3Dお披露目配信の最後には当時YouTubeチャンネルの限定メンバーらの名前をエンドロールにして流しており、自身のリスナーへの強い愛情・感謝・信頼を置いているのが伝わってくる。 コミュニケーション力の高さ・アクティブな性格は、配信と配信の合間に時間をとって全国津々浦々、さまざまなメンバーや友人を誘って旅行にいく点にもあらわれている。数か月に1度はどこかに旅立っているので、まさにジッと待っているのが苦手なタイプといえる。 ちなみに彼女の出身・在住はバーチャル岐阜。デビューから4年以上が経過して事業が拡大していくなかで元々住んでいた場所から上京するメンバーが多いが、彼女はいまでも「東京出張」と称して出稼ぎにやってくる。 そんな彼女だが、2022年6月10日にはメニエール病を発症したことを告白した。左耳の聴力がほとんど聞こえない状態となってしまい、15種類ほどの薬を服用しながら体調を鑑みつつ活動を続けている。配信中の彼女からはそういった身体的不調をいっさい感じさせないところに、彼女の強さを感じる。 突然の発表から「嘘つき」と呼ぶ声があがったことに対しても、ピシャリと反論していたのも印象的だ。慇懃無礼・傍若無人・傲岸不遜・厚顔無恥……そういった彼女の配信での振る舞いがこういったネガティブな反応を生みやすくしている部分はあるかもしれないが、SNSや掲示板などを通じて不用意に間違った事実を流布したり、活動そのものの妨げになる行為をすることとは、まったく別の話である。 体調不良で活動を休止するバーチャルタレントだけでなく、そもそも身体的ハンディキャップを持ちつつも活動しようとする方も多いなか、こういったパッシングや貶める声に対して「ネガティブなコメント・声をあげるのは止めよう」と反応するのは、2020年代のネット・インフルエンサーらしい振る舞いだといえよう。 さて、この記事が公開される1月7日~8日には「新春!にじさんじ麻雀杯2023」が開催されている。その経歴・雀力をみれば、「優勝候補のひとり」だと言われていてもおかしくはないのだが、なぜかそうと言われることがあまりにも少ないように思える。 今大会イチの死のグループに入った郡道がどのような打牌を見せてくれるのか。唯一分かるのは、優勝を果たそうがグループ戦で負けようが「さすが郡道」「やっぱり郡道」と評価されることだ。
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