
歌広場淳×どぐら“古参格ゲーマー”対談 時代が求める「理想のプロゲーマー像」とは?
大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳による連載「歌広場淳のフルコンボでGO!!!」。今回は、プロゲーミングチームCrazy Raccoon所属で、『ストリートファイターリーグ』にCYCLOPS athlete gaming OSAKA(CAG)から出場するプロ格闘ゲーマー、どぐらとの対談を行った。 【写真】歌広場淳&どぐらの“古参格ゲーマー”2ショット 出身地は違えど、古くからゲームセンターに通い詰めては格闘ゲームをプレイしてきた“ゲーセン勢”という意味では共通のルーツを持ち、それゆえ親交も厚いふたり。格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズ最新作となる『ストリートファイター6』(以下、スト6)の発売に端を発する、2023年の格闘ゲーム業界の盛り上がりを振り返りつつ、話題は「これからのプロ格闘ゲーマーに必要とされる能力」へと発展していった。 ■『スト6』は「僕もやってみたい!」と思わせるだけのなにかがある 歌広場淳:今回は対談を受けていただいてありがとうございます! どぐらさんとは、ふだんから格闘ゲーム勢として仲良くしてもらっていますが、今年はとくに大活躍だった印象です。最新作の『スト6』が発売されたなかで、プロゲーマー・ストリーマーの両面で常にムーブメントの中心にいらっしゃったというか。ムーブメントをいくつも作っていたように感じました。 どぐら:いやいや! 恐縮です(笑)。 歌広場淳:6月に開催された『スト6』の『Crazy Raccoon Cup』(CRカップ)は本当に多くの方から注目されていたと思いますし、どぐらさん自身もCrazy Raccoonに加入するという転機を迎えられました。「どぐらさんのような逸材が、これまでどこに眠っていたんだ!?」といった反響も多くあったんじゃないですか? どぐら:それを言ったら、歌さんが格闘ゲーム業界に関わってくれるようになったときの衝撃も相当でしたけどね(笑)。まさに黒船来航というか。歌さんとしては、もともとゲーセン勢だったわけだし、「外から来ました」って感覚はないと思うんですが。 ……とはいえ、おかげさまで。先日、ライアットゲームズさんのオフイベントにプライベートでふらっと遊びに行ったんですけど、もう若い子からめっちゃ声かけてもらいました。もう必ず、「『CRカップ』見ました!」「『スト6』買いました!」の2点セットで。 歌広場淳:ああ、なるほど。僕の場合でいうと「『女々しくて』好きです!」って声かけてもらうのと同じような感じですね。 どぐら:本当にありがたいというか、ビックリですよね。いままでは声かけられるにしても、30~40代くらいの男性から、野太い声で「どぐらさんが使ってるベガ、いつも見てます」とか「どぐらさんのロボカイ好きでした」とか。そんなパターンばかりだったのに(笑)。 こんなに若い男の子とか、女子の方々にも『スト6』を遊んでもらえているんだと思うと、いちプレイヤーとして感慨深いですね。プレイはせずとも、大会などの配信を見てくれているだけでもありがたいなと。 格闘ゲーム業界としても、それまで格闘ゲームに触れたことのなかったような若い層が大量に入ってきてくださって、これだけの盛り上がりになるなんて、本当に予想だにしなかった出来事でした。 歌広場淳:前作の『ストリートファイターV』でも、中期ごろ――2019年くらいから、だんだんと若手が台頭してきたところはありましたけれども。あの当時も、カワノくんをはじめとする若手たちの活躍を見て驚きましたが、いまや『スト6』では、若干11歳の強豪プレイヤーが出てきたりしていますよね。 どぐら:そうそう! レオ(LEO-IG)くんね。ガチガチの競技シーンで活躍しているようなトッププレイヤー相手に、11歳の子が勝っちゃうなんて話、長い格闘ゲームの歴史でも前代未聞ですからね。 そこはやっぱり、『スト6』のゲームとしての完成度の高さも関係していると思うし、多くの人に「僕もやってみたい!」って思わせるだけのなにかがあるゲームってことなんだと思います。 歌広場淳:ゲームのシステム面もおもしろいし、ルックスも良いし、話題性もあるし。発売元のカプコンさんのレスポンスもすさまじく早いですからね。もう、カプコンさんに対する信頼度が日に日に増してませんか? どぐら:わかる! これ、ちょっとマニアックな話なんで、詳しくない方向けに説明すると……対戦中に相手の攻撃を食らって、自分のキャラクターがダウンするじゃないですか。で、キャラがもう一度立ち上がる瞬間なんかに合わせて、技を出すことを通称“リバーサル(リバサ)”と呼ぶんですね。 この“リバサ”で必殺技を出すって行為が、『スト6』では比較的やりづらいと感じているプレイヤーが多くいて、ちょっとした話題になっていたんです。そうしたら12月1日のアップデートで、“リバサ”がそれまでの倍くらい出しやすくなるように調整されたんですよ! 僕も常々「“リバサ”出しにくいよね。これキツイくない?」って周囲のプレイヤーたちと話していたんですけど、「仕様だし、そう簡単に変更はされないだろうな」って半ば諦めていて。それが本当に異例の早さで調整されたから、「カプコンさんありがとー!」って。 歌広場淳:確かに。僕らプレイヤーの声が、ちゃんとカプコンさんに届いている感覚がありますよね。 あと、これまでSNSで「“リバサ”出ねぇよ!」って散々発言していた人が、いざ調整を受けた途端に「出しやすくしてくれたおかげで、負けたときの言い訳ができなくなりました……」と、冗談めかして言っていたのも個人的にはクスっとしちゃいました(笑)。 そんなふうに、ユーザーとメーカーのあいだで一種のプロレスのような感じでふざけ合えたりするのも、この信頼感があってこそだと思いましたね。もはや、絆に近いものが生まれ始めているなと。 どぐら:今後、仮に何か起こったとしても「いまのカプコンなら大丈夫だろう」ってみんな安心できると思いますね。それこそ開発スタッフの方々には、後世で自伝を出版してもらいたいくらい。 歌広場淳:いいですね。「こうして『スト6』は生まれた」みたいな本、めちゃくちゃ読んでみたいです! ■ “観戦勢”を『スト6』に集めた最大の功労者とは 歌広場淳:先ほど、どぐらさんから「プレイはせずとも、大会などの配信を見てくれているだけでありがたい」ってお言葉がありましたけど、僕も同感で。 『CRカップ』などの盛り上がりによって、観戦専門のファンが爆発的に増えたことが、なによりも価値のあることなんじゃないかなと思うんですよね。 どぐら:本当にそのとおりですよ。最近、『VALORANT』の大会を個人的に観に行って感じたことなんですけど……。会場で、喋っている内容からして明らかに「普段からゲームをやっている子じゃないな」って人をたくさん見かけて、めちゃくちゃ衝撃を受けたんですよ。「この盛り上がり、マジすげぇな」って。 それって「試合内容は深くわからないけれど、シンプルに観戦が楽しいから会場まで来ました」って人が山ほどいるということですからね。今後、『スト6』でもそれと同じような感じで、カジュアルに楽しんでくれる人がたくさん生まれてくれたらうれしいですし。 そうなったときに、我々のような古参勢が「フッ、いまのプレイは全然うまくないから。にわかにはわからんかぁ」みたいな感じで、せっかく楽しんでくれている人たちに水をさすようなことだけはあってはならないなと、勝手に心配したりもしているんですけど(笑)。 歌広場淳:どんな界隈にもありがちな話だけど、起きてほしくはないですよね。でもその点、『スト6』にはすごくいい機能が搭載されているなって思うんです。僕、最近そのことに気付いちゃって。いわゆる“観戦勢”を『スト6』に集めているのは、じつはeスポーツキャスターのアールさんなんですよ! どぐら:ああ、たしかに。大会やイベントとなると、キャスター陣の功績は大きいですよね。 歌広場淳:いや、それもそうなんですけど。そもそも『スト6』って、試合展開に合わせて実在のキャスターさんたちが実況・解説ボイスを入れてくれる自動実況機能が搭載されているじゃないですか。 僕はこの機能のことを、ひとりで黙々とやる対戦を盛り上げてくれる、どちらかというと既存の格闘ゲーマー向けのファンサービス的な機能だと認識していたんです。でも、これにはもうひとつの側面があるな、と。 この自動実況機能があるおかげで、これまで格闘ゲームにあまり触れたことがなかった人でも「こういう展開になったら盛り上がっていいポイントなんだ」って知ることができる――つまり、大会で起こっていることを予習させてくれる機能だったと気付いたんです! どぐら:あぁー! なるほど、そう言われてみるとたしかに。 歌広場淳:自動実況機能は、アールさんご自身が監修を務めていたとのことで、本当に的確に試合展開を説明してくれるんですよね。たとえば、波動拳を1発撃っただけでも……。 どぐら:ありますね。「この距離は飛び道具で牽制! 飛ばれなければ超強力!」ってセリフとか。 歌広場淳:そうそう! そうやって、僕ら経験者ならわざわざ言葉にするまでもないと思うことを、自動実況機能が言語化してくれる。だから、未経験の人でも「この距離は波動拳が有効なんだ。でも、飛び越えられてジャンプ攻撃を食らうリスクはあるんだな」ってわかるじゃないですか。 どぐら:プレイしながら自然と、大会での盛り上がりどころや、お互いのプレイヤーの狙いなんかがわかるようになってくると。それはあるなぁ。 ちょっと脱線しますけど、技の正式名称とかも、通称を使いがちな古参プレイヤーなんかより、『スト6』から始めた初心者さんたちのほうがよっぽど正しく言える可能性ありますね(笑)。 歌広場淳:僕らは何でも「SA3」とかで一緒くたにしがちだけど、「ルークのSA3だったら“ペイルライダー”だよな」とか。 どぐら:『ストリートファイター』シリーズって、必殺技はもちろん、じつは通常技ひとつひとつにもちゃんと名称が用意されてるじゃないですか。技名をちゃんと知っていて言えるって、対戦のうまさとはまた別のベクトルでドヤ顔できるポイントなので。 歌広場淳:「なんでお前、そんな技名いちいち覚えてんだよ!」って(笑)。『スト6』は、ワールドツアーモードでキャラクターの個性とかもかなり掘り下げられていますから、そういったキャラ設定を覚えるのが趣味の人にはたまらないですよね。 どぐら:あるある。昔からいますからね。キャラ設定知識がめっちゃ豊富な人。リュウの好物は水ようかんとか、庵(※)の大切なものは彼女と……あと、何やったっけ? ※ 八神庵(やがみ いおり)。格闘ゲーム『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズに登場する、準主人公キャラクター。 歌広場淳:庵の大切なものって、毎作変わっているんですよ。そのときそのときで庵を担当したスタッフさんの趣味が入っている、みたいな噂話を聞いた覚えがあります。 どぐら:さすが、歌さんも相当“やり込んでる”っすね(笑)。 歌広場淳:今年1年、いろいろな大会やイベントを観戦していて思いましたけど、どぐらさんが絡む試合は毎回盛り上がりますよね。 どぐら:『CRカップ』とか、第1回では大将挑戦戦で関(優太)さんに負け、第2回ではささ(sasatikk)さんに負け、と本当に意図せずそういう感じになっちゃいましたけど(苦笑)。 まさに「1先(1試合先取形式)では何が起きるかわからない」を体現してくれたのが、敵ながらあっぱれでしたね。ホンマに、自分としては超真剣に勝とうとしていたのに……。 歌広場淳:当然そうですよね。ただ、「1先はなにかが起こる」ってみんな言うけれど、本当になにかが起きてしまったことって滅多になかったと思うんです。あの事件は、格ゲーの歴史の教科書に間違いなく載りますよね。 それで、落としてから持ち上げるわけじゃないですけど、そういう“持ってる”部分も含めて、どぐらさんって僕が理想に思うプロゲーマー像にピッタリの人だと思っていまして。 どぐら:えっ、ホンマですか? 歌広場淳:ウソじゃないですよ! どぐらさんって、「プロゲーマーの仕事とはなにか?」という問いに対して明確に回答できている人だと感じるんです。 要はプロゲーマーの仕事って「自分がプレイしているゲームを人に好きになってもらうこと」「ゲームを通して自分を好きになってもらうこと」であると、勝手ながら考えていて。 どぐら:究極的にはそうだと思います。僕も同じ意見ですね。 歌広場淳:その点で言えば、やっぱり「どぐらさんがいるあのチームを応援しよう」と、多くの人が集まる流れが生まれていると感じますし。それがひいては『スト6』の大会を観戦する理由だったり、『スト6』を遊んでみる理由だったりにつながっていくわけですから。 今年度の『ストリートファイターリーグ』(SFL)を通して見ていても、どぐらさんが所属するCAGは、とくに多くの方が応援に熱を上げていたように思います。視聴者による毎試合の勝敗予想も、だいたいCAGが優勢になっていましたからね。 どぐら:いや、本当にありがたいことで。それだけに、プレイオフ進出を逃した悔しさも大きいんですが……。僕らCAGは、2nd STAGEの最終節で魚群と対戦することになったんですよね。 細かいポイントの勘定を抜きにすると、勝ったほうがプレイオフ進出という勝負でしたが、対戦前に魚群の裏方を務めているコサクから「両者生存ルートがあったらよかったのに」と言われて。 歌広場淳:彼としては、当然ながら魚群を応援する立場ではあるんだけれども、リーグの盛り上がりとかを考えるとCAGにも残ってもらいたいってことですよね。いや、わかるなぁ。その気持ち……。 それって、格闘ゲームが“eスポーツ”になり、“eスポーツ”という存在が多くの人のものになったことの証明なんだと思います。 サッカーでも野球でも、“日本代表が試合するときだけ応援する人”のような、いわゆる“にわかファン”を揶揄する風潮があったじゃないですか。昨今、ラグビー日本代表が“にわかファン”を取り込むことの重要性を説いて話題になりましたけど、僕もそのとおりだって思うんですよね。 どぐら:ホント、そうですよね。 歌広場淳:シンプルに、「どぐらさんがいるからCAGが好きなんだ」と。「GO1さんが、フェン様(フェンリっち)が、かずのこさんがいるから」を理由に、CAGに活躍してほしいと応援する。それってすごく大きいこと、価値あることだと感じました。 どぐら:僕らの場合、メンバーで集まっての練習配信を積極的にやっていたことも大きかったのかなと。メンバー同士がどういう関係性なのかや、それぞれどんな接し方をしているのかを配信を通して伝えていけたことで、“CAG箱推し”みたいな形で応援してくれる人も増えたと思います。 歌広場淳:そうそう。物理的に“CAGに触れる”時間をたくさん提供してくれましたよね。練習配信って、ほかのチームに戦略がバレてしまうリスクもあるし、勝つことだけを考えたらデメリットも多いと思うんですけど、そういったファンサービスもやってこそのプロだよなと、僕も感銘を受けました。 どぐら:僕らは僕らで、練習配信をやったほうがいいと判断したからやったことであって、ほかのチームに強要するようなことではないんですが、「やってよかった」と思うことはたくさんありましたね。 ■「 我々“格ゲー勢”が、どれだけ“方言”で喋っていたかを思い知った」(どぐら) 歌広場淳:『CRカップ』などを通じて、VTuberさんと共演する機会も増えてきたと思うんですが、そういった格闘ゲーム界隈の外の方々と接したことでの新たな発見などはありましたか? どぐら:いちばんに感じたのは、「我々って、ふだんはものすごく局所的にしか伝わらない“方言”で喋っていたんだな」ってことですね。 歌広場淳:方言、要は“格ゲー用語”ってことですよね。とうとう気付きました?(笑)。 どぐら:はい、そりゃあもう身にしみて……。 歌広場淳:僕はわりと前から気付いていました。僕らの会話って、格ゲー勢にしか通じないスラングまみれだったんですよ。 どぐら:そうそう。外の人たちからしたら「『ジャングルの王者ターちゃん』に出てくるウポポ族かよ」って思われていてもおかしくない(笑)。 本当に、自分たちがどれだけ狭いコミュニティで、内輪ノリで安寧としてきたかを思い知ったというか。 歌広場淳:しかも、それでいて僕ら格ゲー勢は「誰でもウェルカムだよ!」と対外的にはアピールできているつもりでいましたからね。 どぐら:思ってた、思ってた! その実、新規参入者を遠ざけているのは我々でした。「みんな、格ゲー村は楽しいところだからおいで」と口では言っておきながら、いざ村に足を踏み入れてみたら、わけのわからん言語で書かれた回覧板が回ってくるみたいな構図になってましたからね。 歌広場淳:僕もヴィジュアル系をやっている手前、そういった用語とか、共通言語を介したコミュニケーションの面白さはよく理解できるところなんですけれども。 たとえば、“咲く”とか。メンバーに向かって両手を広げる動作のことなんですけど。あと、“柵ダイ”とかですね。これは柵前でする“逆ダイ”のことを指していたりして……。 どぐら:ああ、なんか「最前で咲いてた」みたいな用語は僕も聞いたことありますね。 歌広場淳:いや、どぐらさん。「最前」の発音が違いますよ。正確には、「最↑前↓で咲いてた」なんですよ。 どぐら:えっ、そうなんや! 歌広場淳:界隈の外の人が聞いたら、全然意味がわからないですよね(笑)。ゴールデンボンバーは、むしろそういった“わかる人にしかわからない面白さ”に早くから気付いていて、意識的に取り入れていたんですけれど……。 そうした、異文化交流ないしカルチャーショックを受けるような経験が、どぐらさんの日常のいろいろなところで起きているわけですね。 どぐら:そうですね。だから、VTuberの方々としゃべるときにはできるだけ一般的な言葉で喋ろうとするんですけど、“格ゲー用語”を使わないとどうしてもニュアンスが伝わらないなというときには、先に用語の意味から説明して……と、前置きが長くなっちゃったりとかして。 歌広場淳:いまこそ、あらためて“格ゲー用語辞典”が求められる時代になってきましたね。逆に僕は、最近になって“VTuber用語”に興味が出てきたりもしています。 だって僕ら格ゲー勢からすると、「隆盛を極める隣国の王子様・お姫様たちが、格ゲー村に遊びに来てくれた!」みたいなことが毎日のように起きているわけじゃないですか。 どぐら:我々も、これを機に隣国についての研究や理解を深めるべきだと。 歌広場淳:そうそう。僕も最近になって、VTuberにおける“ママ”が何を指すかを知りましたもん。どぐらさん、わかります? どぐら:わかりますよ! デザインしてくれたイラストレーターさんのことを「ママ」って言うんですよね。 歌広場淳:さすが、やっぱりどぐらさんは僕らの一歩先を進んでますね。“VTuber用語”だと「くしゃみ助かる」とかもおもしろいですよね。ふだんとちょっと違う声が聞けてかわいかった、みたいな。 僕はまだVTuberさんとそこまで絡んだことがないですし、今後もそういった機会があるかは全然わからないんですけど、興味を持って自分から調べるってことは大切だなと思いました。 きっと、どぐらさんは今後、『スト6』ブームにある種、乗っかろうとする芸能人の方と接する機会も増えていくんじゃないですか? どぐら:言いかたがよくないっす(笑)。でも、僕としては「『スト6』が流行っているみたいだし、美味しそうだからあやかりたいな」って動機でもまったくなんとも思わないし、理由がどうあれ触ってくれるならうれしいし、「必要とあらば全力で応援するので、言ってください」ってスタンスですね。 歌広場淳:わかります。もうやってくれるならスタートなんてどうだっていいし、なんだったら始めてくれなくても興味を持ってもらえただけでありがたいって感じですよね。 どぐら:そうなんですよ。これは僕の勝手な印象なんですが、格闘ゲームってとくに「本当に好きじゃないやつが、好きっぽく振る舞うな」みたいな風潮が強い気がしていて。 歌広場淳:ああ、ありますよね。そういう雰囲気。 どぐら:そういう考え方が、僕は理解できないんです。人間なんだから、流行を取り入れたいと思ったり、自分にもメリットがありそうなものをやってみたいと思ったりすることって、自然なことじゃないですか。 「この人は格ゲーを本気で好きじゃないし、どうせちゃんとやらんやろ」なんて、言ったその人の主観の決めつけでしかないし、誰ひとりとして幸せにならない言葉だと思います。 歌広場淳:それこそゲームセンター流に言えば、「100円を入れた者はみな平等」ってことですよね。筐体に100円を入れたら、誰にだって遊ぶ権利があるわけですから。小学生だろうと、ヤンキーだろうと、サラリーマンだろうと。 どぐら:そのとおり! そこが格闘ゲームのいいところですよね。 歌広場淳:現代では、「真に格ゲーを愛する者のみがプレイすべき」みたいな、いわゆる“村の番人”的な気質の人ってだいぶ少なくなったと思いますけど、これ含めて悪しき文化はおもしろく昇華させちゃうべきだと思います。消そうとしても難しいから。 僕、このあいだTwitch配信を始めたこともあって、いろいろな配信者さんの配信をできるだけ見るようにしているんです。そこで、ストーム久保さんがおもしろいことを話してくださっていて。 どぐら:あの、ストーム久保が? 歌広場淳:「あの」ってなんですか(笑)。久保さんは「“クソバイスおじさん”って概念が生まれているよね」と。みなさんご存知の、“クソなアドバイス”をしたがる人のことですね 「たしかにいま、格闘ゲームに初挑戦するVTuberさんがたくさんいて、僕らも当然、一家言持っているわけだから、アドバイスしたくなるのはある程度しかたないよね。それでもって、さまざまなアドバイスがすべて“クソバイス”というネガティブな言葉で括られている現状も良くない。だから、言いかたを変えようよ」って。 どぐら:“クソバイスおじさん”を、もっとマイルドな言い回しに変えてあげないかと。 歌広場淳:はい。それで、「“マンモスおじさん”はどうか」と。 どぐら:えっと……。詳しく説明してもらっていいですか(笑)。 歌広場淳:久保さんいわく「マンモスを狩る方法って思いつく限りいろいろあるよね」と。だから、いまとなっては自分でマンモスを狩らなくなった長老であっても、狩りかただけはいっぱい知っているってことなんだそうです。 どぐら:まあ、知識があるから口出しだけはしてくるよねと。 歌広場淳:よって“クソバイスおじさん”転じて、“マンモスおじさん”なわけです。こう言ったら少しはかわいげがあるじゃないかと。 だから、意味合い自体は変わらないんだけど、新たな用語で上書きするというか。そういう試みは、すごくおもしろいことだなと思ったんです。こうやってみんなで、新しい概念をガンガン作っていってしまえばいいんじゃないですかね。 どぐら:“物は言いよう”じゃないですけど、古い因習を打ち破るために見栄えよく置き換えてあげるような能力が、これからの時代には求められるんじゃないかってことですね。 歌広場淳:やっぱり、見せかたって大事だなって。かく言う僕は、格闘ゲームをやっているとしょっちゅうキレちゃうタイプの人間なので。どぐらさんのように、明るく元気に、楽しそうにプレイしている人を見ると、僕も見習わなきゃだめだなって思うんですよね。 どぐら:いや、でも歌さんならわかってくれると思うんですけど、言ってしまえば僕も昔からずっとゲームをやってきた、性根のところではひねくれた人間なんで。時には配信中に個人的な文句もポロッと言ってしまうし。 歌広場淳:わかる。わかりますよ。だからこそ、そういう部分をできるだけ視聴者には見せないようにと、自分を律しながら日々配信しているんだなってことも、どぐらさんの配信から感じていて。 そもそも、FPSなどであればプロゲーマーとストリーマーって役割が明確に分かれているじゃないですか。プロゲーマーは競技シーンのために日々練習して、ストリーマーはたくさんの人に見てもらうためにエンタメ的な側面も考えながらプレイすると。 けれど格闘ゲームでは、現状、プロゲーマーがストリーマーを兼業しているような状態なんですよね。日々練習に打ち込みつつ、配信を通して格闘ゲームの魅力を広めていくと。プロゲーマーがストリーマーを兼ねているって、ハッキリ言って最強だなと思うんですよね。 どぐら:まあ「それができるのであれば」ですけど(苦笑)。 歌広場淳:もちろん、これまではみなさんが必要に駆られてそうせざるを得ない部分もあったかと思います。ストリーマーとしても立ち回りつつ選手としてのパフォーマンスも保つなんて、尋常なことではないと想像しますし。 でも、たとえばCAGの練習配信などは、これってまさにファンのみんなが求めていることにほかならないじゃないですか。プロ野球選手とか、プロサッカー選手とかと同じですよね。メディアが入れる公開練習があって、それを見たいと思うファンも大勢いるという構造と。 どぐら:ああ、たしかに。練習配信に関しては、プロスポーツのそれと似たようなことかもしれない。「俺たちだけやるのは不公平でしょ!」とかではなくて、純粋に「もっと他のチームでもやったらいいのに」って思いましたね。いいことがいっぱいあるから。 ほかのチームに見られて研究されるリスクはあると言えばありますけど、結局ネット対戦を介して練習をしたらゲーム内のリプレイには絶対に残っちゃいますし、隠そうとしても隠しきれない。そう考えたら、配信するメリットのほうが大きいなと思ったんですよね。 歌広場淳:練習配信はCAGにならって、いっそリーグ側が公式配信のような形で全チームにやってもらうように働きかけてもいい気がしました。 SFLのチームに地域性を持たせたのも、ほかのプロスポーツからヒントを得てのことだったのだと思いますし、そうやっていいとこ取りする余地はまだまだ多くありますよね。きっとこの先、eスポーツもどんどん野球のセ・パ両リーグやサッカーのJリーグのように発展していくでしょうし。 そうなったら、もっと選手たちが快適にプレイするためにはということで、練習環境やお金回りの話にもなっていき、だとしたら助成金が必要だよねってことになれば、地方創生や公共の福祉にもつなげていく必要が出てくるだろうし。そうなっていくべきだと思うんです。 どぐら:ゲームを通じて社会や地域に貢献できるってなったら、本当にすごいことだと思います。 歌広場淳:毎年、徳島でやっている『マチアソビ』のようなことが、eスポーツイベントでもできたら最高だなと。 『SFL』で各チームが開いていたパブリックビューイングも、最初はどこも「みんな来てくれるのかな」と恐る恐るやっていたと思うんですが、フタを開けてみたらものすごい盛況ぶりだったって聞きましたよ。今年の盛り上がりを見て、「次は絶対に行くぞ!」ってなった人も多いと思います。 どぐら:パブリックビューイングの盛り上がりは、正直ヤバかったですね。CAGは定員120人くらいの会場で開催したんですけど、キャパシティをはるかに超えるほどの人が来てくれていたみたいで。 僕らはパブリックビューイング会場から試合に出場した回があって、試合後にはファンのみなさんと交流する機会も設けさせてもらったんですが……。試合終了が21時30分ごろで、最後の方を見送ったのが23時でしたからね。あらためて、たくさんの方が来てくださったんだなと。 歌広場淳:僕は魚群のパブリックビューイングにお邪魔したことがあったんですけど、会場が、わりと新しめの複合商業施設の中にある、eスポーツ特化型ブースのような場所だったんです。 フードコートと隣接しているから、そこで好きな食べ物を買ってきて、試合観戦しながらお腹も満たせるみたいな。「これってもう、実質スポーツバーだよね」って思いましたし、近い将来、eスポーツ専門のスポーツバーが各地に乱立するような未来も訪れるんじゃないでしょうか。 ■「『スト6』未プレイ勢に向けたメッセージ」の必要性 歌広場淳:最後にぜひ、どぐらさんといまのうちから話し合っておきたいと思っている話題が「まだ『スト6』をプレイしたことがない人に向けたメッセージ」です。これって、どぐらさんのようなプロゲーマーの方が、今後インタビューなどを受けるたびに確定でされる質問だろうなと。 言ってしまえばありきたりな、質問する側もとくに深い意図があって聞いているわけではないものだと思うんですけど……。こういった質問がきたときこそ、ちゃんと目を引くようなことをおもしろおかしく言えるようなスキルが、僕らのように「格ゲーを広めていきたい!」と思っている人間には必要だよなと常々思っていて。 どぐら:うわ、たしかに。この質問、今後100万回は答えることになりそうですね。そこで「はいはい、またいつものアレね?」じゃなくて、ちゃんと気の利いたことを言えるようにならないと。 歌広場淳:そう。常日頃から考えておくべきだと思うんですよ。というのも、この類の質問を受けたときに、決まって僕の脳裏をよぎる、文學界新人賞の選考委員を務めていた作家・金原ひとみさんのコメントがあってですね。 ほかの選考委員の方々が「小説とは〇〇で、〇〇だ。そんな作品をお待ちしています」みたいな厳格な感じのコメントを寄せているなか、金原さんは「何でもいいよ! 小説書けたら送ってみて!」のひと言だけだった、ということがあったそうで。 どぐら:うおー、簡潔! 新人さんを勇気付けるひと言としては最高ですね。 歌広場淳:もちろん他の方のコメントとの対比もあって、目に留まりやすかったこともあると思うのですが、こういう言語化能力やおもしろワードセンスのあるプロゲーマーが、いまの格闘ゲーム業界には求められているんじゃないでしょうか。 どぐら:僕、それで言うと1個いいのがありますよ。「おちこんだりもしたけれど、私はげんきに格ゲーを……」。 歌広場淳:いや、『魔女の宅急便』の丸パクリじゃないですか!(笑)。 どぐら:(笑)。逆に、歌さんが歌ガールさんたちに「格ゲーやろうぜ!」って伝えるときには、どんな言葉になります? 歌広場淳:え? それはもちろん、「『スト6』やったら僕と仲良くなれるよ」ですね。 どぐら:それアリなん!? 歌広場淳:だって実際、歌ガールの中にJP使いでランクMASTERの子がいるんだけど、先日その子がミートたけしさんの配信にコメントしているのを見て、思わずその場でコメントを被せちゃいましたからね。「ミートさんの配信なんて見なくていいよ(笑)」って。 どぐら:そんなことされたら、ファンとしてはうれしいに決まってますね。たしかに、「やってよかった」ってなるなぁ。 歌広場淳:いっそ、このテーマでプロゲーマーを何名か募って座談会を開いてもいいかもしれないですね。なにか斬新なアイディアが出てきそうって考えると、僕なら竹内ジョンさんや、フェン様(フェンリっち)あたりが良いかなぁ。もちろん監修にはハメコ。さんをお呼びして。 どぐら:それ、賛成です! あとワードセンスがありそうなところで挙げると、板ザン(板橋ザンギエフ)さんとか。めっちゃいい人だし、二つ返事でオーケーしてくれそう。 歌広場淳:話の流れで、せっかくだから今後やってみたい企画をもうひとつ言っておくと、“格ゲーマーのスマホメモを覗いちゃおう”のコーナーです。よく選手のみなさんが、対戦前にスマホでメモを読んでいることがあるじゃないですか。 おそらくキャラ対策なり、プレイヤーごとの対策なりが書いてあるんだと思うんですけど、実際どんなことが書かれているのか見てみたいんですよね。中には全然関係ない、美味しいお店とかメモっている人もいたりするんじゃないか、とか。 どぐら:えー。僕、どんなふうに書いてましたっけ……。あ、おもしろいのありましたわ。ここに「ゆかどん/12ユーロ」、「マゴさん/13ユーロ」って書いてあるじゃないですか。 これ、おそらく海外大会に遠征したときに、現地で彼らから借りたお金のメモですね。もういまとなっては、ちゃんと返したのかどうかも定かではないという。 歌広場淳:メモった意味がないじゃないですか(笑)。ただ、そう言われると僕も、記事にはできないような、しょうもないことばかり書いてある気がします。そんなリスクも承知で協力いただける格闘ゲーマーの方がいらっしゃったら、ぜひご連絡ください!
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