
酒ガチャ、推し色のお酒、アイス専用果肉酒……5周年を迎えたクラフト酒のECサイト「クランド」が躍進を続ける理由とは
「おいしいお酒を飲んでみたいけど、どれがいいのかわからない」 そんな悩みを抱える人をターゲットにした、お酒の新しい可能性を追求したクラフト酒(しゅ)専門のECサイト「クランド」が話題を集めている。クランドでは「小規模生産で造り手のこだわりが詰まったお酒」をクラフト酒と定義し、日本酒、果肉酒、梅酒、焼酎、ワイン、ビール、プレミアムサワーベースとさまざまなジャンルの酒類を取りそろえ、そのすべてがオリジナル商品。ランダムの詰め合わせが届く「酒ガチャ」や、推し色からお酒を探せるサイト作り、バニラアイスにかけるために開発されたアイスクリーム専用リキュールなどユニークな商品、取り組みが目を引き、SNSでバズることもしばしばだ。今年(2023年)ECサイト設立5周年を迎えたクランドがどのように成り立っているのか、KURAND株式会社広報担当・遠山彩華さんに話を聞いた。 通年で販売している「酒ガチャ」だが、年末年始には「酒ガチャ福袋 2024」を展開。年末年始のお祝いにふさわしい、金箔入りの銘柄や特別ラベルの銘柄が入ってくる。2024年1月18日(木)までの販売 ■「若い人がお酒を飲まなくなった理由を逆算して」ビジネスモデルを構築 クラフト酒のオンライン酒屋「クランド」を運営するKURAND株式会社は2013年にリカー・イノベーション株式会社として創業した会社だ。 「創業者であり代表の荻原の実家がいわゆる“街の酒屋さん”で、おもに居酒屋などの飲食店にお酒を卸すことを生業としていました。しかし、酒類小売業である“酒屋さん”はどんどん減少しています。特に日本酒は若い方が飲まなくなったり、飲んだとしても同じ銘柄ばかりが飲まれたりする傾向にあり、せっかくおいしいお酒があっても、その情報が広まらず、酒造メーカーである“酒蔵(さかぐら)”がなくなってしまうという現状がありました。身近でそういったことを見てきて、どうしたらこの問題を解消できるのか。知られていないお酒をどうやって若い人に飲んでもらうのか。そのためにはお酒の流通の仕組み自体を新しくしなければならない、その思いで立ち上げたんです」 KURANDでは、製造小売モデルとして「SPL(specialty store retailer of private label liquor)」をうたっている。アパレル業界の「SPA(specialty store retailer of private label apparel)」をもじったもので、製造から販売まで垂直で統合させたビジネスモデルだ。情報と企画力を持ったKURANDが立てた商品企画に対し、パートナーシップを結んだ酒造メーカーが製造。それをKURANDが販売するという流れだ。このビジネスモデルに行き着いたのはどういった理由なのだろうか? 「どうして若い人がお酒を飲まないんだろう?というところから逆算すると、お酒は造っている酒蔵と消費者がかなり離れているという問題があると考えました。一般的なお酒の流通は、酒蔵から酒類問屋に卸され、そこから小売店を経て消費者に届いています。間にさまざまな人が挟まっていることで、酒蔵からは消費者の顔が見えづらい状況があります。なので、消費者がどんなお酒を求めているかがわからないまま、お酒を造ってしまっているのではないかと考えました。消費者がどんなお酒を飲んでみたいと思っているのか。その声を届ける消費者の代弁者としてKURANDが入ることで、消費者と酒蔵を近づけることになると考えたんです。オリジナル商品を開発することで、消費者が求めている商品をより早く提供できると考え、今のビジネスモデルを確立していきました」 しかし、いきなりオリジナル商品の開発が実現したわけではない。酒造メーカーとどうつながっていくのか、商品をどう売るのか、販売場所はどうするのか。ハードルは多かったという。 「その足がかりとしてお酒のWebメディアを立ち上げました。お酒を好きな方が集まれる場所を用意することで、ゆくゆくはお客様が望む商品を販売する場所にしていきたいと考えたんです。そこからイベント事業を展開し、酒蔵とお客様を近づける場所を増やしたり、飲食店を立ち上げたりすることでオリジナルの商品を飲んでもらう機会を作っていきました。こうした事業を経て、現在のECサイト『クランド』の立ち上げにつながっていきました」 オリジナル商品の開発には、酒造メーカーとの信頼関係は欠かせないだろうが、どのように関係性を構築していったのだろうか。 「酒蔵に一社一社、代表やメンバーが足を運んでKURANDの思いを伝えることで、共感してくださる酒蔵を増やしていくところからスタートしました。まだ古い体質の残る業界ですので、新しいことをやろうとする動きに嫌悪感を持たれることもあり、最初のころは苦労したと聞いています。しかし、日本酒や焼酎の消費量が減り、危機感を抱いている酒蔵は決して少ない数ではありませんでした。KURANDの取り組みがお酒を飲む人を増やす一手になるかもしれないと期待し、徐々にパートナーシップ契約を結ぶ酒蔵が増えていきました。現在は日本酒の酒蔵だけで100社程度、日本酒以外を含めると200社以上の酒造メーカーとパートナーシップを結んでいます。この数のメーカーと協力していくのは、やり取りだけでも途方もなく大変なことです。しかし、ひとりでも多くのお客様にクラフト酒を届けるためには、より多くの酒蔵とパートナーシップを結び、個性豊かな商品展開を行う必要があると考えています」 オリジナル商品開発当初は、日本酒のみを展開していたが、現在は多種多様な酒類を扱うようになっている。これはなぜなのだろうか? 「KURANDのクラフト酒を体験できる場として『SAKE MARKET(旧KURAND SAKE MARKET)』という飲食店が都内2店舗あります。日本酒をメインに、100種類以上のお酒の飲み比べができる体験型店舗です。グループのお客様がいらっしゃると、日本酒が苦手だけど甘いお酒なら飲めるという方もいらっしゃって、そういうときのために酒蔵が造っている果実酒も置いていたんです。すると、日本酒がお好きだという方も果実酒を興味深く飲んだり、甘いお酒しか飲めない方が日本酒にちょっと挑戦してくださったりというように、果実酒がお酒全体のハードルを下げることができると感じることが多くありました。果実酒やリキュールなどの甘いお酒をメインとした系列店も出すようになると、お客様が日本酒メインの店と甘いお酒をメインとした店を行き来するということもありました。もともと日本酒だけではなくいずれは幅広いジャンルでの展開を考えていましたが、これをきっかけに果実酒や梅酒などを造り始め、その後スイーツのようなリキュール、焼酎、クラフトビール、ワイン、プレミアムサワーベースとお客様の声に応えながら、扱う商品のジャンルを拡大していきました」 メディア事業は2022年2月に事業譲渡。飲食店事業についてもKURANDではなく、グループ会社が担う形に変更している。 「コロナ禍を経て、家飲みが増えたこと、食品をECで購入することへのハードルが下がり、EC事業が好調に推移しました。代表が目指していたのもEC事業であることから、KURANDとしてはEC事業に注力していくことになりました。オフラインで売れるお酒とオンラインで売れるお酒って違うんです。試飲ができないECではパッケージやネーミングが非常に重要です。ECで売れる商品を作っていくためにも、事業目的に応じてすみ分ける必要があると思っています」 会社として何を目指しているのか。そのためにどんな手を打つ必要があるのか。その道筋をきっちりと考えられているというのもECサイト「クランド」が順調に成長している理由でもありそうだ。 ■徹底した「お客さまのために」というバリュー クランドの名前が広く知られるようになった企画として「酒ガチャ」がある。お酒をランダムに詰め合わせたセットで、単品で購入するよりもお得。時には、単価1万円以上の高額商品が入っていることもあるんだそう。ECサイトとしての売上割合も酒ガチャが多いという。 「ECサイトを始めたときに、さまざまな販売方法を参考にしていこうということで、福袋のやり方を取り入れたのがきっかけです。2018年の年末に『初売りKURAND福袋』という名前で販売を開始しました。これに対して、お客様から『お酒がランダムで届くということは“酒ガチャ”だ』という感想がSNSで上がるようになりました。“ガチャ”というキャッチーなワードをいただいて、その後“酒ガチャ”という名前で売り出すようになったんです。コロナ禍で苦しい思いをしている酒蔵を応援しようという建て付けでVtuberとコラボした企画もヒット、2020年6月にはX(旧Twitter)でのPR漫画がバズりまして、それで一気に知られるようになりました」 酒ガチャ開始当初は、梱包担当者が目視で詰めていたため完全なランダムだったが、現在は酒のジャンルを指定したり、逆に苦手な原材料を使用した酒を除外できるようになっている。 「購入数が増えていったこともあって、アナログなやり方では対応しきれなくなり、KURAND独自のシステムを開発しました。また、日本酒でも辛口はダメで甘口がいいとか、日本酒は飲めないけど甘いお酒なら飲めるとか、ある程度の指定ができたら買うのに、というような声がお客様から届くようになりました。そうしたお客様の声をひとつずつ反映していって、今では、届くお酒の種類を1本ずつ指定できたり、アレルギー食品が含まれたものを除外できたりなど、カスタマイズできるようになりました」 酒ガチャというネーミングも消費者からの声を反映しているように、KURANDは消費者の想いを大事にしている。 「私たちのバリューの中には『お客さまのために』というのがあるんです。私たちの事業はお酒の業界のためにやっているのではなくて、あくまでもお客様においしいお酒を飲んでもらうためのもの。業界のことだけを考えていたら、酒ガチャも既存の商品に違うラベルを貼り付けて、お客様の要望も聞かずに販売するということもできますが、そうではなく、お客様が飲みたいと思うお酒をどうやってお渡しするかを第一に考えています」 ほかに、KURANDでは「少量多品種」を意識した商品作りをしているという。 「新商品を出すときは、できるだけ少ないロットで作ってもらっています。トライアンドエラーを経て新しい商品をなるべく早くたくさん発売することで、お客様がいつクランドのサイトを訪れても新しい商品が並んでいる状態を作り、常にワクワクする売り場作りを心がけています。需要に応じて追加生産することもありますし、人気が出たものはひとつのブランドとして育てていくこともします」 KURANDの「少量多品種」の姿勢は、酒造メーカーにとってもプラスに働いているという。 「保守的な業界ですので、酒蔵が新しい銘柄を出そうとしても、できたお酒を酒屋さんがすべて買ってくれるという保証はありません。結局、酒蔵も売れる商品だけを作り続けるということになってしまうので、少量多品種をモットーとしたクランドは酒蔵にとって挑戦の場として使っていただけていると思います。2022年12月にピスタチオを使ったリキュールを発売したのですが、これはその最たるものですね」 次々と新しい商品を展開するクランドは、どういう戦略で一つひとつの商品をアピールしているのだろうか? 「商品によってプロモーションの仕方を変えていますが、SNSを中心に活用していますね。今、Xのフォロワー数が25.6万人なので、まずはXで発表してそこからの反応を見ながらインフルエンサーの方にPRを依頼したり、広告を回したりしています」 果肉酒やリキュールのような甘いお酒は原材料を何にするかということでキャッチーに見せられそうだが、日本酒はそれぞれの銘柄の差別化が難しいように感じる。クランドでは日本酒だけで150種類以上販売しているが、どのように差別化しているのだろうか? 「フルーツのお酒ってどんな味なのか想像しやすいですが、日本酒って難しいですよね。私たちの日本酒販売ページを見ていただくとわかりますが、昔からある日本酒のラベルイメージからは離れたものが多いと思います。名前がおもしろかったり、キャラクターが描かれていたり。パッケージの部分をキャッチーにしています。『白鼬(おこじょ)』という日本酒があるんですが、これはお金をかけたプロモーションはしていなかったんです。しかし、オコジョやイタチが好きな方々の中でSNS拡散が巻き起こり『日本酒を飲んだことなかったけど3本買った』というようなお客様もいらっしゃいました。ですが、これはただ単純にパッケージをかわいくすればいいという話ではありません。『白鼬』は福島の酒蔵が造っていて、飯豊山(いいでさん)の伏流水を使用しています。飯豊山にはオコジョが生息して、それが『白鼬』のネーミングやラベルのコンセプトになっています。ほかにも理系の兄弟が作る『理系兄弟』なんてものもあります。特徴的なネーミングやラベルはそのお酒が持つ“ストーリー”を強化するためのものなんです」 ECサイト「クランド」は2022年11月にサイトイメージなどを刷新。それまで社名と同じ「KURAND」表記だったのを「クランド」とカタカナ表記にし、より感覚的に購入体験ができるサイトに構築し直した。 「私たちのお客様はお酒がものすごく好きで、詳しい人というよりも、お酒を飲んでみたいけどまだよくわからない、お酒のデビューの場所としてクランドを選んでくださっていると感じています。お酒の専門知識がなくても、その日の気分や感覚でカジュアルに商品を選んでもらえるサイトにするため大型アップデートを行いました。お客様が継続してクランドのお酒を楽しんでくださるように、少量多品種という方針は変えずに開発を進めていきたいと考えています」と遠山さんは語る。 誰のためにお酒を造り、売るのか。個々の商品開発からプロモーション戦略、ECサイトの設計にいたるまで、その想いが一貫しているからこそ、成長を続けているのだと感じる。「お客さまのために」、KURANDが次にどんなユニークな手を打ってくるのか期待したい。 この記事のひときわ#やくにたつ ・誰のために、どこを向いて仕事をしているのかしっかり見据える ・注力する分野を見極める ・商品をPRするために、どの部分を強化すればいいのかを吟味する 取材・文=西連寺くらら
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