
初音ミクは“16歳”に、歌愛ユキ再評価、ホロライブ×DECO*27…2023年ボカロシーン重大トピックスを整理
年の瀬も近づき2023年の様々なトピックスを拾う機会も増える中、思い返せば今年はVOCALOIDシーンでも非常に多彩な出来事があった。特に今年は2007年リリースの初音ミクが名実ともに16歳を迎えた年でもあり、各所で彼女を筆頭としたVOCALOIDたちや、作り手となる多くのボカロPにスポットが当たる機会が多かったように思う。 【画像】“16歳”を迎えた初音ミク そこで今回は1年の締めくくりとして、VOCALOIDシーンの中で、今年特に注目を集めた話題をピックアップした。長年シーンを追い続けている人も、今年新たにVOCALOIDの世界と出会った人も、これらのトピックスを改めてチェックし2023年を振り返ると同時に、2024年のさらなるシーン拡大へと期待を膨らませてみては。 まず音声合成ソフトたちの活躍を改めて振り返ってみると、やはり今年は冒頭にもふれた初音ミクの華々しいアニバーサリーイヤーにまつわるイベントが、シーンを賑わせていたことが記憶に新しい。彼女の誕生日である8月31日に前後して、『初音ミク Happy 16th Birthday ‐Dear Creators‐』をはじめ、ネット・リアルを問わず様々なバースデー企画やプロジェクトが開催。全国各都市での広告巡回や毎年恒例の『マジカルミライ』開催、『別冊カドカワ 総力特集 初音ミク』の発売など、実に多彩な形で、彼女の16歳の誕生日を盛大に祝う光景が見られた。 もう一人、今年注目を集めた音声合成ソフトでいえば、歌愛ユキの存在は欠かせない。ソフトリリース自体は2009年とやや古株寄りの立ち位置でありながらも、ゆこぴ「強風オールバック」の一大ブームに乗じて「カップヌードル」CM出演を果たした上、追い風を受けるように長年彼女へ真摯な愛を注ぐボカロP・稲葉曇による「リレイアウター」で、「The Vocaloid Collection 2023 Summer」で見事総合ランキング1位へと輝いた。 リリース当初は小学生女児らしいあどけない声を売りとした彼女だが、近年ではややスモーキーで擦れのある響きを強調した調声で彼女の良さを活かすボカロPも多い。10年以上の時を経て新たな魅力を見いだされるという、シーンでもある種の奇特さを持った音声合成ソフトとして再注目を浴びた、そんな1年でもあった。 さらに今年再注目された音声合成ソフトとして、重音テトの名前も挙げたい。こちらはもともと音声合成ソフト・UTAUの音声ライブラリとして2008年に登場した存在だったが、今年4月に誕生15周年を記念してSynthesizer V AI 重音テトとして新たに発売された。これまでの彼女の声質を残しつつも非常に滑らかでクオリティの高い歌唱が実現したことは、長くシーンを見守るリスナーにとって大きな衝撃を与えた出来事でもあったに違いない。 今なお世間を賑わせる原口沙輔(ex.SASUKE)「人マニア」の一大ブームも、彼女の知名度拡大に影響を及ぼしたことだろう。ただし「人マニア」の重音テトに関しては、上記のSynthesizer Vでなく旧型のUTAUが使用されている点も興味深い。性能の善し悪しのみに留まらない彼女の声の魅力が多角的に再評価を受けたことも、もしかしたら今回のバズの一端を担っているのかもしれない。 一方で、彼女たちと共に制作を行うボカロPに関しては今年どんなトピックが話題を集めていたか。結論から言えば、長年シーンを支え続けた大御所陣による活躍が注目を集めた1年となっていたように思う。 年初の大手VTuber事務所・ホロライブとDECO*27によるタッグプロジェクト・holo*27の本格始動や、「神っぽいな」「魔法少女とチョコレゐト」「転生林檎」「匿名M」などのヒットチューンを収録したピノキオピーによる約1年9カ月ぶりの新アルバム『META』リリース。時期を前後して「The Vocaloid Collection 2023 Spring」ではまらしぃ×じん×堀江晶太(kemu)という往年の名手による夢のタッグ曲「新人類」が総合ランキング1位に輝いたり、Mitchie M、cosMo@暴走P、Gigaといった人気Pが集結したポケモン×初音ミク企画「Project VOLTAGE」が始動するなど、ボカロシーンのみならず、他のカルチャーとの垣根を越えたトピックスも多かった。それらもまたますます、VOCALOIDという文化の広がりを感じさせたように思う。 同時に、少しずつ活動拠点をメジャーシーンへ移しているクリエイター陣の、確かな“ボカロ愛”に触れるエピソードも今年は度々見受けられた。夏の『マジカルミライ』におけるボカロPユニット・DREAMERS(Ayase・syudou・すりぃ・ツミキ)のクリエイターズマーケット参加や、『紅白歌合戦』初出場を決めたキタニタツヤ(こんにちは谷田さん)がSNSでボカロ曲匿名投稿イベント「無色透名祭」に言及するなど。時代や環境が変わってなお、初音ミクをはじめとした音声合成ソフトたちによるVOCALOIDシーンへ敬意と愛着を持ち続けていることが伝わってきた。 上記のように名の知られた面々の活躍が目立ったとはいえ、シーンの興隆の中には今後新たに時代を担うであろう才能も当然芽吹き始めている。本稿の前半に述べた音声合成ソフトのムーブメントを形成したゆこぴ、原口沙輔の他、「無色透名祭」や「1枚絵動画投稿祭」などの企画で台頭を見せたShu、なみぐる、きさら。またシーン人気を牽引するアプリゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』への楽曲提供も話題を集めるいよわ、MIMI、Sohbana、Misumi。彼らがボカロシーンを飛び出し、大衆的な認知を獲得する日もそう遠くないような、予感めいたムードも漂う1年となった。 ニコニコ動画というプラットフォームを飛び出し、各種SNSや他カルチャーシーン、そしてアプリゲームなど、2024年はこれまで以上に様々な場所で、VOCALOIDや各ボカロPによる楽曲に触れる機会が生まれていくだろう。来年は一体どんな1年となるのか、引き続き多角的な視野を携えつつその動向を仔細に追っていきたい。
リアルサウンド