ネットの深刻な誹謗中傷にメス、情報開示請求で「投稿主特定」の報告も
2021年12月24日 06:12
ネットの深刻な誹謗中傷にメス、情報開示請求で「投稿主特定」の報告も

 ゲームのオンライン化はさまざまな可能性を何倍にも広げた。一方で、有名ゲーマーであれ一般ユーザーであれ、誹謗中傷に見舞われる危険性が増えた。その対策は今まさに進められようとしているところだ。(フリーライター 武藤弘樹) ● ゲームがオンライン化したことのメリットとデメリット  ゲームがオンライン化されて久しい。ソシャゲ(ソーシャルゲーム)はオンラインを介するやりとりがゲームの大部分を占め、対戦型のゲームもまたインターネットを通して対戦する。一人で黙々とやり込むタイプのゲームでもSNSで同好の士を見つけて簡単につながることができる。  ネットで他人とつながることによって、その可能性を拡大したゲームだが、メリットばかりとはいかず、デメリットもある。悪意あるプレイヤーからの誹謗中傷である。  ゲームによっては、ゲーム内で悪意あるメッセージを発せられないようにデザインされているものもある。しかし、SNSを通じてファン同士のコミュニケーションをとる場合、ダイレクトに悪意を発信して相手に伝えることができてしまう。  昔からネット上にはひどい言葉を吐き散らしては誰かを傷つけるような危険人物がいたが、被害者たちはほとんど打つ手なしで耐えるしかなかった。  しかし最近少しずつ風向きが変わってきて、ゲーム関連分野においても誹謗中傷を行った人物が罰せられるようになってきた。どういうことか。ここに至るまでの流れをおさらいしつつ、具体的な例を紹介したい。 ● 開示請求が認められた例  ツイッター上では先月、「すいろ(@Suiropoke)」さんというユーザーのツイートが注目を集めていた。以下、引用である。 <ご報告です。Twitterで私を含む数名の方への誹謗中傷の投稿を行っていた人物に対する発信者情報開示請求を行い、その結果和解金の支払いと和解が成立しました。 本件の経緯を個人が特定されない範囲で公表する事を和解条件の1つとして相手方と合意しているため、以下に経緯を記載していきます。>  続くツイートを読むと、すいろさんには「そもそもゲームや日常生活に関するツイートを投稿してる程度のアカウントが被害を受けたと主張しても通るのか?」といった疑問を持っていたようだ。  結果として、いわゆる「ゲーム垢」に対する誹謗中傷でも訴えることは可能であり、すいろさんを誹謗中傷したユーザーは和解金を支払ったという。しかしすいろさんは、「和解金とこちらの費用の差は若干こちらの『赤字』です。マジです」とも書いている。  このケースはプロバイダ責任制限法改正前の話だが、すいろさんは「マジで不毛なので止めとけとしか言えない」「自分が結局言いたい事は、『開示請求鬼つええ!ガンガン訴えを起こしていこうぜ!』とかではなくて『皆さん仲良くしましょうね』というところです」とまとめている。  他の事例もある。  これはゲームではないが、VTuberに対する殺害予告が、その「アバターではなく中の人(アバターの演者)に向けたものである」という主張のもとで行われた開示請求が認められたケースがあるようだ。  これは弁護士ドットコムの記事『VTuberへの殺害予告は「中の人に向けられたもの」、現実とネットの境界ゆらぐ時代の法的保護』で紹介されている。  VTuberは、アバターは2次元だが中の人は(当然ながら)3次元的存在であり、ゲームは2次元だがプレイする人たちは3次元である。ともに2次元と3次元が相まって形成されているコンテンツ、およびコミュニティーであって、そのあり方もまた見直されつつあるということだ。 ● 誹謗中傷に一矢報いたい!被害者は実在すると意識すべし  筆者はよくゲームをやるが、誹謗中傷するプレイヤーというのは昔から必ずいた。特にFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム/一人称視点でのシューティングゲーム)などのジャンルにおいては、海外のプロを含むゲーマーたちが相手を口汚くののしり、それが容認されてきた(むしろその過激さがアングラでありつつも人気の一因となってきた)歴史があった。  だからであろうか、筆者の主観だが、日本人と対戦するときより、海外のプレイヤーと対戦するときの方があおりや誹謗中傷が発生する確率が高い。「仲の良い友人同士で軽くあおり合う」というコミュニケーションがあるが、「この人はそれをやろうとしているのかな?」と推測されることも多々あった。  そこで、筆者は英語で言い合いができるように英語のネットスラングをわざわざ勉強したが、そもそも誰かとケンカしたくてゲームをしているわけではない。平和に楽しくプレイできるに越したことはないが、悪意ある言葉を投げつけられるとそれを行う相手の品性に腹が立ってどうしようもないのでなんとかして一矢報いたく、その結果が自衛手段としての「反撃ネットスラングの勉強」であっただけである(ここまで来ると加害している気がしないでもないが、筆者の中ではあくまで“自衛”のつもりであった)。自分の手でなんとかしない限りは、自分が覚えさせられた怒りへの落とし前の手段がないと考えていたからである。  しかし「開示請求のハードルが下がった」という、最近の法整備によって得られた後ろ盾は心強い。やはり手間を考えると実際はなかなか開示請求の訴えを起こすまではいかないであろうが、「最終的にはその手段がある」と思えると心の安らかさにつながる。  Twitterのゲームアカウントもしばらく運用していたが、エゴサをするとまれに自分をディスっている内容の投稿が見つかる。大体「下手くそゲームやめろ」みたいな趣旨の投稿である。実際、自分が言われているのを目にすると怒りで血管が脈打って視界がクラクラするくらいの感情に見舞われる。  で、たしかに思い返してみるとその瞬間は下手くそだったのだが、相手にそんなことを言われる筋合いはないので、「嫌だなあ、こんなことするなんてすごく気が重いなあ……」と思いながらわざわざ相手にリプを付けるのである。  そしてこれがけんか腰にならず、うまくやんわり相手をたしなめるように伝えられると、相手からもおわびがゲットできる。常にすさんだツイートを繰り返している人でもいくばくかでも良心を残していれば、「自分がディスった相手はちゃんとした人で申し訳なかった…」と反省してくれるのである。  狂犬のごとく怒りや悪口をネットで撒き散らしている人は別にして、時々不平不満を漏らしているような人は、おそらくディスる相手がこの世に実在しているところがきちんと想像できていない。だから相手の存在がしかと感じられると、その段で「申し訳なかった」と反省できるのである。  “発信者情報開示請求”制度は、ネットで発信する人すべてが加害者になり得ることも意味している。つまり発信する人は加害側にならないように注意深くいる必要があり、発信の際は加害される側(被害者)の実在を常に意識しなければならない。  ネット上に散見される常識を欠いた言葉や文章、態度は、「ネットはリアル(現実)と切り離されている」という見当違いの思い込みが招いているものだ。侮辱罪とプロバイダ責任制限法の改正、および開示請求の利便性向上が、多くの人に「ネットもリアルの一部」ということを改めて知らしめる、いいきっかけとなることを期待したい。

ダイヤモンド・オンライン

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