
配信者にとっての“都合の良さ”に見る、Chilla's Artのホラーゲームがヒットする理由
6月17日、3D和風ホラーゲームを手掛けるChilla's Art(チラズアート)の新作『夜間警備』が発売された。リリース直後からゲーム配信者やVTuberたちが続々と配信でプレイし、本格的な到来よりすこし早く“夏のホラゲーブーム”が巻き起こっている。 【画像】あまりの恐怖に絶叫してしまった小森めとの姿 Chilla's Artは、アメリカ育ちで日本在住の日本人兄弟2人によるゲームチームで、兄がモデリングを始めとする3D関連を、弟がゲーム内のプログラミング全般をそれぞれ担当している。 これまで発売されてきた作品の大部分が、90年代に発売されたレトロゲームのような質感の3Dモデリング・描画と、「だれもがプレイしやすく」というポリシーを念頭に置かれた簡単な操作性、ゲーム内にある謎解きも非常に易しいレベルとなっており(ただし最初期は逆にかなり難しい作品も多い)、小学生でもクリアができそうなほどだ。 くわえて「幼少期からホラー映画が好きだった」と制作者が語っているように、勘所をしっかりとおさえたホラー要素は、多くのプレイヤーの悲鳴を生み出してきた。 Chilla's Artは、2018年2月に同コンビ初の作品となる『Evie』を発表して以来、この5年で23作品ものホラーゲームをリリースしてきた。まるで音楽アーティストのシングルリリースのような非常に速いペースであるが、これは彼らが2人で制作し続けてきたことや、大がかりなゲームシステムでないため製作時間が短く済む点などが大きな要因であろう。 また、Chilla's Artとゲーム実況との関係性はかなり深い。いまでも人気作として名を連ねる『事故物件』『犬鳴トンネル』など、活動初期から高い評価を受けていた彼らだが、その評価を決定的なものとした作品といえば、『夜勤事件』であろう。 プレイヤーはコンビニエンスストアでアルバイトをする主人公となり、真夜中の仕事中に“怪しい人”に絡まれたり、唐突な心霊現象に出くわしたりする。本作が生み出すじわじわと恐怖を感じていくホラー体験が、人気を呼んだのだ。 リリース後から徐々にその人気を高めていくと、最終的には国内だけでなく、海外の配信者も同作をプレイしはじめ、海外認知も広がっていくことになった。 このコラムのテーマである「バーチャルタレント」という文脈に沿ってみても、やはり本作は大いに盛り上がり、多くの認知を得た作品となった。にじさんじ・月ノ美兎やホロライブ・戌神ころねに始まり……いやむしろ、にじさんじやホロライブに所属する面々なら「当然プレイしているもの」とすら感じられるほど、本作は大流行したのだ。 『夜勤事件』はその後バーチャルタレントやゲーム実況界隈において数年に渡って愛されるゲーム実況の定番作品となる。さらに、その後に発表された『行方不明』『幽霊列車』『例外配達』なども含め、「Chilla's Art作品は発売されたら“マストプレイ”」と目されるほどになったのだ。 本稿で紹介する『夜間警備』は、警備員として廃ビル警備の仕事を任された主人公を操作し、さまざまなフロア・部屋を確認していくというもの。電気を消したり、ドアに鍵をかけたりと安全確認をしながら、不穏なビルの奥へと進んでいく。 遠目からみても不穏なムード満々な廊下や電灯、部屋のなかや曲がり角には何かしらのギミックが配置されており、「きっとここにあるんでしょう?」と信頼さえ置けてしまうド定番な勘所を抑えつつ、じわじわとやってくる恐怖も感じられる。絶妙なホラー体験が楽しみどころだ。 「過去イチ怖い」という噂が先行した事も影響してか、発売当日からゲーム配信者やVTuberらがこぞって配信でプレイしており、記事執筆現在でも毎日だれかがどこかの時間帯で配信の題材として取り上げる状況となっている。 発売された6月17日には、ホラーゲームが得意なガッチマンを筆頭に、レトルト、ポッキー、オダケンといった人気のゲーム実況者がさっそくゲームをプレイし、動画を投稿。 バーチャルタレントにおいても発売当日ににじさんじの不破湊や健屋花那、ホロライブの宝鐘マリンや姫森ルーナなどの面々が配信でプレイ、彼ら/彼女らとともにさっそく“驚かされる”リスナーが大量発生した。 ぶいすぽっ!からも小森めとが6月24日に本作をプレイ。過去のChilla's Art作品をプレイした際はバッチリ怯えていた彼女、「ホラゲーを最近やってなかったので、心なしか余裕が満ち溢れている」と話し、最初はかなり強気な態度でゲームを進めていく。なお、前回も序盤は強気だった。 開始から20分ほどは「意外と平気かな」と話し宣言通りの余裕を見せていたが、次第に主人公がせき込むだけで「えぇ!? なんで!?」と驚いてしまうほど、恐怖を感じていくように。 止まらず動き続けるプリンター、勝手に閉じる部屋のドア、ドアの隙間から見える何者かの姿に、思わず「いやぁ……もぅ……!」と漏れる声。上の階に進むにつれて「待って、無理ぃ……!」「もうなんもいないでぇ……!!」と完全に怯えてしまい、強気なスタンスがどこかへ行ってしまった。 プレイしはじめて1時間とすこしが経過したあたりでは完全に心が弱ってしまい、「もう助けてよ~!!」と弱音を吐きまくる結果に。しまいには「ちょっと、あの……助けてもらえる?」と同じくぶいすぽっ!所属の一ノ瀬うるはに電話で助けを求め、話し相手かつ先導者としてヒントをもらいつつプレイしていくことに。 プレイを終えた2人が「途中半泣きだった」「今回は結構怖い」と語るほど、『夜間警備』は噂通りの力作に仕上がっており、「ホラーゲームを怖がるひと」の「典型的な反応集」を見せられているような非常に楽しい内容の配信となった。 『夜間警備』は、Chilla's Artの過去作同様に謎解きの難易度や操作こそ簡単な作品だ。しかし、そのぶん余計に「画面で何が起こっているか」に集中してしまう。ちょっとした音にもしっかりと反響音があり、何の変哲でもない音でも「えっ!? なにっ!!?」と驚き、混乱する者がプレイヤー・実況者を問わず非常に多い。 本作を含めたChilla's Artの作品で特徴的な点としては、「幽霊などに出会っても強制的に死ぬことがほぼない」ことが挙げられるだろう。 ホラーゲームだけでなく多くのゲームが、主人公が死ぬなどしてゲームオーバーになってしまえばゲームが一旦リセットされるため、プレイヤーは死ぬことによってゲーム内の緊張感・恐怖感からもいったん逃れられることができる。 しかし、Chilla's Artの作品はプレイ難易度が低めであり、ギミックのせいで死ぬこともほとんどなく、幽霊から逃れやすく作られていることもあってか、プレイヤーは易々と死んでゲームオーバーにならない。ピンと張りつめた緊張感を保ったままでストーリーが進み続けるので、まるで“恐怖がベットリと張り付いていく”ような独特の緊張感がもたらされるのだ。 Chilla's Art作品がゲーム配信者の間で愛されている理由は、こういったホラーゲームとしての秀逸さだけでなく、クリアまでにかかる時間が数時間である点も大きいだろう。無駄に長すぎてもいけないし、極端に短すぎてもいけない。しかもゲームの内容がしっかりと面白くなければ、プレイを見ている視聴者だけじゃなく、なによりプレイしている配信者自身がつまらない。 手軽にプレイができ、しっかりと恐怖体験を楽しみ、ゲーム配信をすれば視聴者も緊張感で息をのんで行く末を見守ってしまう。Chilla's Artが生み出すホラー作品は、ゲーマーにとって面白い作品であると同時に、「配信者にとって都合が良いこと」というわがままな見方を置いてみたとき、じつに面白いバランスを保っていることが分かる。本作がヒットする理由も分かるというものだ。
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