
にじさんじ・フミが放つ“輝き”の名前を知っているか ひたむきな努力と入念な研究が生み出すそれの名は「ドラマ」だ
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。 【動画】「使うとVオタがバレる言葉5選」「馬かガンダムかクイズ」フミのshotrs2本立て メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。 育成プロジェクトであるバーチャル・タレント・アカデミー(VTA)からも新規ライバーがデビューし始めており、現在約150名のメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さで今後も大きな影響を与えるだろう。 現在ではデビューするまでにアカデミーに通うことが通例となっており、以前のようにキャラクタービジュアルを公開し、オーディション募集をかけるといった流れは無くなっている。 今から5年ほど前の2018年11月16日に告知されたオーディションでは、数か月後の2019年1月ごろにデビューを果たす郡道美玲、童田明治、久遠千歳にくわえて、現在もデビューする気配のないユードリックらの募集があった。 この4人にくわえてもう1人、オーディション対象として挙げられたのがフミである。彼女が実際にデビューしたのは2019年10月19日のこと。星川サラ、山神カルタの同期としてデビューすることになったのだ。のちにこの3人は「織姫星」としても知られていく。 そんな彼女のデビュー時はといえば、キズナアイなどをしっかりと追いかけていたバーチャルYouTuberファンであることを初配信で話し、「VTuberの歴史に爪痕を残す」と堂々と宣言している。 VTuber以外にも東海オンエアやHIKAKINといった有名YouTuberたちもチェックしているようであり、その様子を見ていると“YouTubeやインターネットを中心に据えた活動”に強い憧れ・興味を持っていたことが伝わってくる。 しかしこのフミ、じつはにじさんじに入るまではパソコン自体を所持していなかった、なんていう話もある。初配信のときには同期の2人や先輩ライバーたちがヘルプにはいり、それでようやく無事に初配信を終えることができたほどだ。当時を見ていたファンにとっては懐かしい出来事だろう。 身を包む白・赤を基調にした和装と茶色のウェーブがかった長髪に、約176センチとも言われるすらりとした長身、この麗しいビジュアルは彼女の大きな武器だ。 ふだんの配信を見ているだけでは伝わりづらいが、3Dモデルをまとって登場した際には、長髪・和装・高身長ということもありかなりの存在感を発揮する。 余談だが、2023年6月現在、国内外に所属する全てのにじさんじ女性タレントのなかでも、約176センチのフミがもっとも長身で、2番目はNIJISANJI ENに所属する「狐坂ニナ」の174センチ。女性タレント1・2位が狐を思わせるルックスという以外な共通点がある。 それから、フミは運動が得意なタイプで、もともと学生時代を陸上部の一員として過ごしていたといい、同期の星川サラ、山神カルタも同じく元陸上部。そうした共通点から、3人のコラボ配信では唐突に“陸上部トーク”が始まることもある。 そんな彼女が好きなものといえば「機動戦士ガンダム」シリーズ。とくに好きな作品は『機動戦士Zガンダム』とのこと。気の強い女性や女性声優が演じる男性キャラが好きということで、『新機動戦記ガンダムW』のカトル・ラバーバ・ウィナーへの愛をほのめかせたり、『機動戦士ガンダムSEED』のカガリ・ユラ・アスハに言及したことも。 また、フミのビジュアルはイラストレーターのYuzukiが担当しているのだが、同じくYuzukiがビジュアルを手掛けた神田笑一とは、ガンダム好き・運動好きと趣味が共通することもあり良好な関係を築いている様子。 現在放送中の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』も「 #Yuzuki兄妹同時視聴」のハッシュタグを用いて2人揃って同時視聴企画をしているほどだ。 数年前の配信では、会話の弾みでフミが神田に対して「ライバーやめます!」と冗談をいうと、「やめるな……やめるなー! 絶対にやめるなお前は! お前は絶対にやめさせないぞ、なにがなんでも!」と、ふだんの呼び方を忘れて思わず声を張り上げてしまうほど。同じイラストレーターを“ママ”に持つ兄妹であり、趣味も共通するがゆえの親愛を感じるところだ。 ほかにも、後輩としてデビューした長尾景、自身と同じく高身長かつ落ち着いたムードを漂わせる白雪巴やルイス・キャミー、珍妙な企画配信で注目をあつめるグウェル・オス・ガールなど、彼女を慕うメンバーは多い。 ■ほとんどゲームをした経験がなくても“体当たりで努力する”姿勢が愛されるフミ 本人曰く「ゲーム初心者のため98%下手プレイ」(配信・動画の概要欄より)とのことで、他のにじさんじメンバーのように幼少期からゲームをバリバリにプレイしているわけではないフミ。パソコンを持っていなかったことはお伝えしたと思うが、ゲームを持っていなかったという話題すらも何度となく出てくる。 そんな彼女が配信した最初のゲームは『Getting Over It with Bennett Foddy』だ。 「これを選んだのは、簡単だと思ったんだよ。ボタンがいらないでしょう? 本当にゲームをやったことがないし」 「PSPの4はね(配信時の発言まま)、にじさんじで活動すると決まってから買ったの」 このような話しぶりからも、デビュー当初の彼女がいかにゲームに疎かったかが伝わるだろう。 実際、件のタイトルも2度に渡って実況プレイをしたのだが、スタート地点からほとんど進めることができないまま、合計16時間以上に渡って実況プレイしつづけるというとんでもない配信となったのだ。 初配信から間もなく、緊張からか止めるタイミングを逸しているという点、なによりほぼ休まずに雑談をブッ続けられるというトーク力を持っていたという点、そしてゲームが不得手だからこそリスナーも応援しようと集まっていた点など、さまざまな要因が重なり、ある意味では“伝説的な配信”と評されている。 にじさんじゲーマーズのようなゲーム上級者・ゲーム好きがデビューしたり、エリー・コニファーやルイス・キャミーのような特定のゲームジャンルに特化したエキスパートが後々になって花開いたりすることが多いにじさんじにおいて、長らく「フミはゲームが苦手・不得手」という印象を拭えないままだった。 それでもひたむきにゲームに挑戦し続ける彼女の姿は、一種のドラマとして人気を博していく。 後輩としてデビューした長尾景とのコンビ「フ景罪」などがその良い例だ。元々は『マリオカート8デラックス』を使ったコラボ配信に臨むうえで、フミのゲームスキルを確認した長尾が「本気で忖度しないといけない」と思わず口にし、「視聴者といっしょにフミを上位に食い込ませよう」という突発企画を始めたことで、大きな注目を集め始めたのだ。 2020年以降は年末に開催される同大会に向けて「12時間耐久配信」を長尾とともにこなすことが恒例行事となっている。 フミ・長尾による「フ景罪」のファンにとってみれば、同作品を2人がプレイするだけでも感慨深くなりそうなものだが、その期待をさらに上回る結果を残したこともある。 2021年12月19日に開催された『第4回マリカにじさんじ杯』では、フミが準決勝まで、長尾が決勝で2位まで登りつめる結果に。自身のゲームにまつわるネガティブな視線、「フミがゲームが下手」というレッテルを一蹴するどころか、ファンへの想いに応える形で好走を見せたのだ。 その後、2023年11月19日~20日に開催された『にじさんじ遊戯王マスターデュエル祭2022』には星川、山神とともに同期3人で出場。 師匠枠として参加したオリバー・エバンスの指南を受けてプレイスキルをあげつづけ、大会後も『遊戯王 マスターデュエル』を配信内外で遊ぶなど、立派な“決闘者(デュエリスト)”へと成長した。 にじさんじ初の『遊戯王』の大会だったが、同作をほとんどプレイしたことのなかったフミを含め、「織姫星」3人の成長に大きな注目があつまり、何より3人とも『遊戯王』にハマったとのことで、結果を見れば大成功だったと言える。 配信外でも仲良く会話することの多い3人が、現在では会話の中で『遊戯王』にまつわる話題やネタで盛り上がることも少なくないというのが、何よりの証拠。 これまで「3人全員が好きでプレイできるゲーム」がなかなかなかったのだが、ついに「3人全員が好きでプレイできるゲーム」が生まれたということで、織姫星のコラボ配信ではたびたび『遊戯王』をプレイしており、3人を繋ぐ重要なタイトルとしても重宝されるようになりつつある。 ■YouTuberの研究が活きる、フミの「面白ネタ動画」の数々 さて、筆者はフミがYouTuberをチェックしていることにも触れたと思う。その研究成果を存分に活かした動画作りもまた、彼女の魅力ではないだろうか。 自身にとって得意とはいえないゲーム配信だけではなく、いわゆる「面白ネタ」な企画・配信に力を注いでおり、彼女の印象的な配信・動画を振り返ったとき、人によってはこちらを思い出すファンも多いかもしれない。 「輪ゴムでメロンやパイナップルが割れる」。そんなシーンを想像したことはあるだろうか? 「まんまんまんぞく!! いっぽんまんぞく!」と歌いながら数時間以上にわたってスナックバーを食べる人を見たことは? YOASOBI「夜に駆ける」を5人がそれぞれ好きに歌ってみて、合わせたときに「ちゃんと完成するのか?」と考えたことは? ほかにもYouTubeチャンネルの登録者数が10万人に到達したことを記念する凸待ち配信ではポッキーを舐めながら会話をしてみたり、「100均ショップで購入した印鑑は何回押せるのか」という企画を配信で試してみたりと、検証ネタを中心にしたある意味ではVTuberらしからぬ配信にも積極的に挑戦しているのだ。 じつはこうした企画は、実写動画を制作するようなYouTuberの間で流行したネタでもある。それを自身のコンテンツに取り入れていることは、VTuberに限らずYouTuberに対しても憧れ・リスペクトを抱くフミならではの点だろう。 現在では動画だけでなく、ショート動画を投稿することも増えてきており、より自身の道を追求している最中にある様子。 自身より先にデビューした先輩らがゲーム配信へと傾倒していくなかで、自身はオリジナリティ&バラエティ性の高い企画配信に注力・模索し続けていくだろう。 彼女の後にデビューしたにじさんじのメンバー、もちろん先輩たちにとっても、今後彼女の動きは強い影響をあたえていく可能性が高いだろう。引き続き活躍に注視したい。
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