
「推しの魅力を伝えたい」オタクに一番大切なこと 大事なのは「自分だけの感情」をいかに表現するか
「推しの魅力を語りたい。誰かに伝えたい……」 オタク活動をしていると、一度は抱くこの感情。しかし、尊さのあまり、「やばい」しか言えなくなる人も少なくないのではないでしょうか。 ”推し語りのプロ”を自認する書評家・三宅香帆さんは「推しを語るためには、語彙力や文章力が必要だと思われがちですが、それは間違いです。必要なのは、自分の感想を言葉にする『ちょっとしたコツ』。そのコツさえ知れば、あなただけの言葉で推しの素晴らしさを語れるようになります」と語ります。 ■「ありのままの感想を書けば作文になる」信仰 それでも学校が、読書感想文の宿題を無邪気にだし続ける理由。それは、「自分のありのままの感想を書けばそれがそのまま作文になるはず」という信仰に基づいているからです。 本を読んで感じた通りに、その感情を紙に書けば、それがいい読書感想文になる――そんなふうに先生も生徒も思っているからではないでしょうか。 でも、当然ですが、そんなことありえないですよね。だいたい、読書して感じたことをありのままに書くことで、いい読書感想文が書けるなら、書評家いらないじゃないですか! というのも、「自分だけの感想」とは、「他人や周囲が言っていることではなく、自分オリジナルの感想を言葉にすること」だから。 たとえば、創作にはオリジナリティが重要だと言う人がいます。これは本当にその通りで、自分の作品と同じ作品がもうあるなら、重複して世にだす意味はほとんどないんです。だって既にありますからね。 推しを語ることも同じです。誰かがつくった言葉や誰かが広めた感情ではなく、自分だけが感じていることを伝えるのが、なによりも大切。それを伝えることこそが、あなたが推しを語る意味になる。この世にまだない感想を生みだす意味になる。 「この漫画、泣けてやばい。すごく考えさせられた」 ……これじゃ、この漫画の魅力が伝わらない! でも、語彙力がないから漫画の感想なんて書けないよ~。ああ~~~……。こんなふうに、しゃがみこんでしまう人もいるのではないでしょうか。私も昔はそうでした。 この感想の書き方、なにが悪いのかわかりますか? 悪いのは、あなたではありません。悪いのは、 ① 「泣ける」 ② 「やばい」 ③ 「考えさせられた」 この3つの言葉です。 私たちは放っておくと、想像以上にすぐ他人や世間の言葉に支配されてしまう。「支配」と書くとちょっと大げさですけど、気を抜くとすぐに思考停止して、世間で使っている言葉をそのまま真似する傾向にあります。 たぶん人間は、そもそもそういう生き物なんでしょう。じゃないと、赤ちゃんは言葉なんて覚えられないですよね。 けれども、そんな人間の習性に抗って、自分だけの言葉を使ってみましょう。世間や他人がインストールしてこようとする言葉に対して、「自分は本当にその言葉でいいんだっけ」と立ち止まる。そして、自分だけの感情や思考を取り戻して言葉にする。これって、じつはすごく重要なプロセスなんです。
東洋経済オンライン