
にじさんじ・星川サラが持つ「アイドル力」 人を惹き付けてやまない“輝きの源泉”をたどる
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。 【動画】星川サラが歌う「アイドル」 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。 育成プロジェクト・バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)から多くのメンバーもデビューしており、現在約150名のメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さで今後も大きな影響を与えるだろう。 2023年6月8日から6月11日までの4日間、KT Zepp Yokohamaではにじさんじ所属のメンバーによるライブ公演が組まれており、6月10日には星川サラによる1st LIVE『星くず Shining Day -きみがみつけた一番星-』が開催された。 これまでにじさんじ内の大型イベントに出演することは何度かあったが、こういったライブハウスでソロライブを開催するのは初めてのこと。2000人近い観客が集まり、彼女に声援を送っていた。 星川は「自分のファンがこんなにいることが信じられない!」と口にしていたが、2023年6月19日時点で彼女は、YouTubeチャンネル登録者数90万人、Twitterは80万人、TikTokの公式アカウントは27万人を超えるフォロワーをそれぞれに抱えている。 生配信をすれば毎度数千人以上の視聴者が集まり、時には1万人を超えることもある、立派な人気ライバーだ。彼女がインフルエンサーでなければ、誰がインフルエンサーなのか、といったところであろう。 そんな星川は、2019年10月19日にYouTubeで初配信してデビューを飾った。プロフィールページいわく「ハーフの女の子」であるという星川の髪色は薄金色のサイドポニーで、白を基調にした衣装に大胆なへそ出しルックが特徴的だ。そのビジュアルは快活な印象を与えつつも可愛らしさを両立しており、デビュー前から多くのにじさんじリスナーに「どんな子だろうか」と期待されていた。 デビュー配信では、序盤こそどこかよそよそしい空気があったが、自己紹介を終えリスナーと会話をしはじめると、本来の快活な性格が顔をあらわし始める。同期としてデビューした山神カルタ、フミ、そして先輩である雪城眞尋を煽りだし、リスナーを「お前ら」「てめぇ」と呼び出すほどで、キュートなビジュアルから出てくる言葉は快活を超えて勝ち気な印象すら与える。 彼女の初配信から素の振る舞いを読み取り、「これは“サラちゃん”じゃなく“星川”だな」と下の名前でなく名字で呼ぼうと決めたのは、リスナーだけでなく同僚も同じだったよう。 そんな彼女が最も仲の良いライバーは、同期である山神カルタ、フミのふたりだ。折に触れて「同期が織姫星でよかった」と名前を出して褒めたたえ、「星川がにじさんじを辞めるときは、同期が辞めるとき」「ふたりの存在が無ければとっくに引退していた」とすら語るほどに欠かせない存在であるようだ。 その仲の良さはにじさんじの同僚らから見ても驚くほどなようで、ほぼ同時期にデビューしているアルス・アルマル、ラトナ・プティ、奈羅花と会話していた際に、「どうして星川は同期とそんなに仲が良いのか?」と質問されるほど。 毎月のように3人でのコラボ配信をおこなうだけでなく、オフの時間でも話しているという織姫星。長い付き合いとなった現在では、ハッキリと意見を言いあえる関係を構築しているとのこと。配信上でみせる3人のかけ合いは今後もエキサイトしていきそうだ。 また、星川は2023年1月10日の配信でリスナーとともに初配信を振り返り、「あの日した発言、信じられない」「一番しちゃいけない話し方してる」と話すほどに後悔していた。 今でこそ反省しつつ笑って振り返っているが、「わたしはにじさんじに居て大丈夫なのか?」と不安な日々を過ごしていたという。緊張も相まって迷走してしまった結果なのだろうが、そんなデビュー時の反省・経験を経てからはポジティブで素直な一面を漂わせ、現在の飛躍へと繋がることになった。 以降の彼女といえば、快活で明るい性格から生まれるコミュニケーション術で、多くのライバーと交流を深めていくこととなる。にじさんじの中において指折りの"ギャル"らしいビジュアル・口調・声質を持っている彼女は、物分かりがよくて切り替えも速く、小さなことにはあまりこだわらず、さっぱりとした印象を感じさせることが多いタイプ。 とくに他ライバーとのコラボなど多人数配信では持ち前のコミュニケーション能力を活かして存在感を発揮し、相手をイジり、ツッコミ、自身もボケてみせ、ゲラゲラと笑う。周囲を巻き込みながらも不快さを感じさせないポジティブな威勢の良さで、これまでに多数の見どころ・面白シーンを生み出してきた。 配信外やオフの時間でもそのコミュニケーション能力は遺憾なく発揮されているようで、先輩・後輩・にじさんじ内外問わずに絡みにいき、さまざまなエピソードが生まれている。 ■『Apex Legends』を通じて見せる、星川サラの努力家な一面 星川の得意ゲームといえば「マリオカート」を思い出す方もいるだろう。彼女いわくデビュー前から慣れ親しんでいるゲームのひとつであり、にじさんじ内のカジュアル大会『マリカにじさんじ杯』では毎度のように好成績を収めてきた。 そんな彼女は10月にデビューから4年目を迎える。ライバーたちが長く活動していくなかで「やっていくにつれて得意になっていくゲーム」が生まれるのはよくあることで、おなじにじさんじ所属のメンバーでいえばベルモンド・バンデラスや桜凛月にとっての『Minecraft』、勇気ちひろやえるにとっての『Apex Legends』などがそうだ。そうしたゲームとの出会い・巡り合わせはその後の配信活動・配信者人生を大きく変えていくことがある。 星川の活動を大きく変えたのは、『Apex Legends』との巡り合わせだろう。デビューして約半年後となる2020年4月21日に、初めてのFPS配信として甲斐田晴とともにコラボ配信でプレイした。 当時は注目を集めはじめたばかりのゲームということもあり折を見て配信するのみだったが、『Apex』との関係性が変わったのは2021年に入ってから。『V最協決定戦』『CRカップ』の両大会に出場することになり、それが大きな転機となったのだ。 2021年1月の第2回『V最協決定戦』ではにじさんじ・郡道美玲、ぶいすぽっ!・神成きゅぴとの「オタクキラーズ」、7月の第6回『CRカップ』にはストリーマーである釈迦、NIRUとの「サラ金 川上くんi7」、8月の第3回『V最協決定戦』にはバーチャルゴリラ、乾伸一郎との「ゴリラの惑星エピソードⅠ」として、それぞれチームを結成して出場してきた。 このほかにも、勇気ちひろが主催した『NIJISANJI APEX Party with DETONATOR』に出場するためにストリーマー・Kamito、歌い手グループ・ちょこらびのまいたけとともに「ちんしり」を、『V最協決定戦』の後夜祭にて偶然出会った個人VTuber・おだのぶとストリーマー・うるかによる「うる星ハゲ」を結成したりと、精力的に大会に参加しつづけた。 振り返ってみれば、約半年ほどの間にこれまで出会うはずのなかったシーンの面々とチームを結成し、ともに配信することになったわけだが、『Apex Legends』を使った大型のカジュアル大会として名を馳せる2つの大会に出場するうえで、星川自身も配信内外を通じて猛練習に励むことになり、結果的には彼女の“『Apex』熱”はさらに加速していくこととなった。 2022年にはいってからも1月に開催された第8回『CRカップ』に渋谷ハル、BobSappAimとともに「星春隊」として参加すると、4月に開催された第4回『V最協決定戦』ではホロライブ・夏色まつり、ぶいすぽっ!・空澄セナとともに「ぴかぴか☆星空フェス」としてそれぞれ出場するなど、その頃には「星川サラは『Apex』好きなVTuber」という認識を持つファンも非常に多かったはずだ。 また、国内における『Apex Legends』の盛り上がりを作った渋谷ハルを師匠としてプレイスキルを磨きつづけ、2022年1月から2月にかけては“ソロダイヤ企画”に挑戦、みごと達成した。欠かさぬ努力が結果に結びついた、非常にドラマティックな出来事としてファンにとっても思い出深いだろう。 2020年に初めてFPSゲームに触れ、プロや元プロを含む凄腕のプレイヤーらに感化されると、自身も腕前を向上しようと努力していく。きっかけはささいな憧れだったはずだが、その憧れに向かってひたむきに腕を磨き、すこしずつ上達していく彼女の姿は、それまでVTuberに興味のなかった人びとの興味をも惹き、共感を呼ぶこととなったのだ。 ■人気の企画「写メコン」「恋愛研究所」で見せる、星川サラの“絶対的肯定力” 快活でテンションが高く人懐っこい、同時に子どもっぽくも見られがちだった星川は、先に記したように努力家な一面でファンを大きく増やすことになった。 そこに加えて、「写メコン」「恋愛研究所」といった企画を立ち上げると、これがじわじわと人気を博し、リスナーから根強い支持を受ける企画配信へと成長することになった。 「写メコン」企画は、各回テーマを設けた写真を専用ハッシュタグとともに投稿し、配信時に星川・他リスナーとともにチェックして盛り上がっていこうというもの。「恋愛研究所」は、男女関わらず恋愛にまつわるお悩み相談・愚痴を投稿し、アドバイスや共感を得ていこうという企画だ。 どちらの企画も、2020年春ごろに最初の配信をしてから回を重ねることで根強い人気を獲得するに至った企画であり、最初からガチガチに練られたものではなかったものの、継続は力なりという言葉を体現した点でも星川らしさを感じられる。 「リスナーの部屋を見る」「私服を見る」といった企画は、配信者がおこなう定番ネタでもあり、リスナー側も配信者にイジられること・ネタになることを期待してゴミにあふれた“汚部屋”やツッコミ待ちのような服装を投稿するといった光景は、よく見られるものだ。 そういった経緯もあり、星川の企画も「リスナーの服装や悩みを集めてバッサリとツッコミながら叩き切る」、なんとなくそういった光景を想像してしまいがちだ。もちろん、星川も時に相談内容を茶化しながら聞くことだってある。しかし、前向きかつポジティブに受け取れるような言葉遣いや、目を輝かせて驚いてみせるリアクションなどからは、「良いものは良い」とまっすぐに肯定しようという姿勢が感じられる。 こうした2つの企画でも注目を集め始めた彼女のもとには、一見するとオタク的なイメージとは一切無縁そうなオシャレ好きなファンも集まるようになっていった。星川自身の嗜好性にもとづいた企画に力をいれ、それにシンパシーを感じたファンが集まっていった結果なのはいうまでもない。 こうした企画が人気を博すというのは、VTuber~バーチャルタレントといったインターネットカルチャーが幅広く受け入れられている一つの証左でもあるだろう。「星川サラ」は過ぎ行く時代・世相の変化ーーネガティブな意味合いでの「オタク」という言葉が過去のものであることを象徴するアイコニックなタレントへ、一歩ずつステップアップしているようにも感じられる。 そんな彼女の大きな魅力・コアとなっているのは、「絶対的肯定力」ではないかと思う。どのようなシチュエーションでも肯定的・前向きに捉えようとトライしていく姿・精神性に胸打たれたファンは多い。それも、向こう見ずなパワフルさで遮二無二に進めていくのではなく、状況を冷静に捉えた上で肯定していくような、地に足の着いたリアリティを言動の節々に感じさせるのだ。 そんな肯定力の強さは、自身を過小評価してしまう危うさをも含む。自分への期待と周囲への羨望は表裏一体、それゆえに「ちょっとしたことで落ち込みやすい」と語ることも多いのが星川。「自分なんかが」というのは自己卑下するときの鉄板のような言葉であるが、星川も同じような手つきで自己を過小評価する一面が配信で見られる。 「いかにして自己肯定感を保たせるか?」という自身のコントロール・自己を客観視する力は、彼女の雑談配信や恋愛相談などの企画でも見られるところ。「いろいろあって病んだから」という理由で急に2週間ほど配信活動を休み、海外へと旅行にいくこともある。そんな行動力の高さも、なんとも彼女らしい。 そんな星川サラは、このままの推移でいけば年内~来年上半期にはYouTubeチャンネル登録者数を100万人を超えることになるだろう。それでも、6月10日のライブではファンから届いた楽屋花にすべて目を通したといい、12日に配信した感想配信ではファン一人ひとりに向けて感謝を述べていた。 そのなかで、「次の目標はなにかある?」というリスナーのコメントに対して、彼女は印象的な言葉を語っている。 「今回のライブで、意外と星川はアイドルっぽいのかもしれないなと思った。もっと大きいステージでみんなに会いたいなと思った。アイドルは好きだけど、星川なんかが“アイドル”を名乗るのは失礼かなと思ってた」 最後に、彼女の歌ってみた動画をいくつか挙げてみようと思う。彼女の歌ってみた動画で印象的なのは2つ。音莉飴による「陽キャJKに憧れる陰キャJKの歌」とYOASOBIによる「アイドル」だ。 2022年1月に投稿された「陽キャJKに憧れる陰キャJKの歌」では、冒頭で「キャラメル マシュマロ いちご飴 これ全部可愛い女の子の夢 でも私が好きなのゲーム(APEX) いつになったら女の子になれるの?」と歌われる。FPSにハマってしまった女性が恋に焦がれて奮闘するこの歌は、まさに星川のイメージにピッタリ。 そんな星川がYOASOBIによる「アイドル」を歌うというのも、イメージにかなり近しいように感じられる。どこか悪趣味でサウンドや皮肉と諦観が混じった歌詞は、ふだん星川がみせている勝ち気なムードと時折見せる冷静な一面を感じさせる。 自身とは無関係な音楽のなかに、「星川サラ」が浮かび上がってくるというマジック。こういった類の選曲ができるあたり、星川が自身をかなり冷静かつ俯瞰的に捉えているだけでなく、計算高いプロデュース力を備えたタレントであることが伝わってくる。 『Apex Legends』を通して見せてきた自身の配信スタイル、人と楽しくおしゃべりすることを「写メコン」「恋愛研究所」で企画化し、数々の歌ってみた動画では「星川らしさ」をよりブーストさせるような選曲センスをちらつかせる。アイドルには「どのように自分を見せるか?」という視点が重要になるが、これほど自然と自分自身をプロデュースできるにじさんじのメンバーも中々にいないだろう。 周囲を肯定する力の強さと表裏一体の自己肯定感の低さを感じさせつつ、ソロライブを経てまたひとつ自信を付けた星川サラ。その強い肯定力と自身のプロデュースできる術をもってすれば、きっと多くの人を惹きつける“アイドル”になれるはずだ。
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