緑仙、アーティストとしての飛躍を予感させるパフォーマンス メジャーデビュー発表した初ソロライブを観て
2022年06月21日 18:06
緑仙、アーティストとしての飛躍を予感させるパフォーマンス メジャーデビュー発表した初ソロライブを観て

 バーチャルライバーグループ「にじさんじ」に所属する緑仙が、初のソロライブ『緑仙 1st LIVE「Ryushen」』を6月8日に神奈川・KT Zepp Yokohamaで開催した。 【画像】ステージで歌う緑仙  2018年にライバー(配信者)として活動をはじめ、歌ってみた動画を中心に音楽活動をスタート。5年目にして初めて実現したソロライブで緑仙は、これまでのキャリアやルーツを反映させながら、アーティストとしてのさらなる飛躍を予感させるステージを繰り広げた。  会場に入ると、バーチャルライバーのアンジュ・カトリーナがMCをつとめる生配信の真っ最中。会場のファンにインタビューしながら、緑仙の魅力を伝えていた。そして緑仙本人の影アナによる注意事項の説明を挟み、ついに初のワンマンライブが始まった。  オープニングは「藍ヨリ青ク」。〈正面突破/共犯外伝にて、ハッピーエンド。〉というラインから煌びやかで切ないボーカルを響かせ、緑のサイリウムを持ったオーディエンスをしっかりと惹き付ける。「紋白蝶 feat.石原慎也 (Saucy Dog)」(TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA)ではお気に入りのパンダのぬいぐるみを抱えて歌い、「ロウワー」ではヘッドセットのマイクでダンスパフォーマンスを披露。ここでステージ袖に引っ込み、この日のために新調した衣装(本人曰く「踊ることをがんばるぞ、という決意表明」の衣装)に着替えて「殺屋中毒」(緑仙)へ。冒頭の4曲で、際立ったボーカルの力と幅広いステージングをしっかりと見せつけた。バンドメンバーの奈良悠樹(Gt)、堀崎翔(Gt)、岸田勇気(Key)、ウエムラユウキ(Ba)(ポルカドットスティングレイ)、ゆーまお(Dr)(ヒトリエ)による演奏も素晴らしい。  「新緑の緑に、ベガルタ仙台の仙と書いて、緑仙です! あーみんなが生きてる!」と挨拶すると、フロアからは大歓声が沸き起こる。「ちょうど今日で5周年。そんな記念すべき日に、たくさんの人の前でステージに立たせていただけることを本当にうれしく思います!」「髪の毛もちょっとだけ色が変わってるんですよ。緑色の僕じゃなくても好きでいてくれますか……まあ、ほぼ緑なんですけど(笑)」「動画で歌ってる曲、こんな曲を歌ってほしいという曲も含め、みんなのためでもあり、僕のためでもある場にしたいと思います」と、初ワンマンに対する思いを口にした。  「いつもの配信みたいに、ノンストップ、歌唱多めで最後まで走り抜けたいと思います」という言葉通り、「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」(MAISONdes)から多彩な楽曲をつないでいく。「失楽ペトリ」(ナナホシ管弦楽団)では女性ダンサー2人とともにダンサブルに魅せるパフォーマンスを披露。ネオソウル系のサウンドの「bin」(こめだわら)では心地いいグルーヴ感をたたえたボーカルを聴かせ、「エンダー」(緑仙)ではネガティブな感情をしなやかに描き出し、観客の心と身体を揺らしてみせる。これらの楽曲から伝わってきたのは、シンガーとしての奥深い表現力と個性だ。  指ハートを作りながら「ラブ~! かわいい? みんなのほうが可愛いよ~!」からはじまった2度目のMCでは、VTuberの生ライブについて言及。  「今回のライブをやるにあたって、VTuberの業界はたくさんの試行錯誤をしているんだなとすごく感じてます。僕の活動を初期から見ている人、VTuberも初期から見ている人にとっては、また違う感動があるんじゃないかなって思います」「特にこういう生のライブシーンはこれからだと思うので、僕と、僕たちといっしょに作り上げていきましょう」  パンダ(の着ぐるみのダンサー)2体と一緒に披露した「ちゅ、多様性。」(ano)からは緑仙のバラエティ豊かな音楽性を実感できるコーナーへ。「この曲、すごく難しいから、みんなも一緒に盛り上がって!」という言葉に導かれた「聖槍爆裂ボーイ」(れるりり)では超高速のメロディ(ブレスのタイミングがほとんどない)をダイナミックに歌い上げる。さらにロックシンガーとしての強靭さを示した「モノノケ・イン・ザ・フィクション」(嘘とカメレオン)、「僕のテレパシー、受け取ってください!」と煽った「くらえ!テレパシー」(マハラージャン)も。観客としっかりコミュケーションを取り、生ライブならではの一体感を生み出そうとする姿も印象的だった。  そして新曲「ジョークス」(緑仙)では、作詞・作曲を担当した“ぼっちぼろまる”がゲストとして登場。「イツライ」(2020年)の続編として制作されたこの曲は、歌うこと、アーティストとして活動していく決意をテーマにしたアッパーチューン。「退路も無用 イバラに塗れて/ちゃんと歩くから」というフレーズを手渡すように歌う場面は、このライブの大きなポイントだったと思う。  濃密なエモーションを込めた「ミカヅキ」(さユり)からライブは後半へ。緑仙が所属するユニット・Rain Drops(現在は活動休止中)の人気曲「ラブヘイト」、儚く、愛おしい恋愛感情を描き出した「人魚」(ポルカドットスティングレイ)。多彩なボーカリゼーションを反映した楽曲によって、感動の度合いをさらに高めていく。  ここで緑仙は、改めてオーディエンスに対して語りかけた。 「ここまでの人生、時代時代のいろんな音楽に支えられてきて、緑仙という人間が形成されていること。生まれてから21年の間に積み重ねてきた音楽をVTuberという立場で発信することによって、ファンとつながり、自分自身のステップアップにつながっていること。「ネガティブもポジティブもすべて、音楽に込めてきました。僕のことを応援してくださいとは言いません。みんなのことを応援したい。ちょっとでもみんなのエールになれるように、引き続き頑張っていきたいと思います」  アーティストとしての根本的なスタンスを示す言葉とともに歌ったのは、「君になりたいから」。〈君になりたいから/明日も擬態して夜になる〉とアカペラで歌い出したこの曲に込めた切実な想いは、観客一人ひとりの胸に真っ直ぐ届いたはずだ。  アンコールを求める強烈な声に導かれ、再びステージに登場した緑仙は、ソロメジャーデビューを発表。さらに新曲「WE ARE YOU」が「2023年 ベガルタ仙台応援ソング」になることを告知すると、オーディエンスからさらに大きな歓声と拍手が巻き起こった。  この後、「WE ARE YOU」を初披露。アンセムと呼ぶにふさわしいスケール感、前向きな意志を解放するボーカルは緑仙の新機軸と言えそうだ。そして再び“ぼっちぼろまる”を呼び込み、「みなさんへのありがとうを言い足りませんが、僕らしく言葉ではなく歌でお届けしたいと思います!」というMCからラストの「イツライ」へ。ステージを降りた後、バックヤードから「今の気持ちを5周年という記念の日にみんなにお伝えできて、本当に気持ちよかったです。僕のことをずっと見てもらえるように、好きでいてもらえるようにがんばらせてください」という言葉を送り、記念すべき初ワンマンはエンディングを迎えた。  10月4日にメジャー1stミニアルバム『パラグラム』のリリースを控えている緑仙は、2023年の後半に向けて、こちらの想像を超えるスピードで上昇していくはず。そのことを強く確信させられたライブだった。

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