AIグラビアアイドルの何が問題だったのか?「顔だけ」「演技だけ」「声だけ」俳優が誕生する日は近い
2022年06月20日 12:06
AIグラビアアイドルの何が問題だったのか?「顔だけ」「演技だけ」「声だけ」俳優が誕生する日は近い

急速に進化を続ける人工知能。日本政府も戦略会議を立ち上げ、その活用や対策について議論を始めた。一方、プログラマーで起業家、そして人工知能の開発を専門とする清水亮氏は「信頼に値するAIを生み出せるかどうかで私たちの未来は変わる」と喝破する。その清水さんによる人工知能についての連載、第二回のテーマは「AIグラビアアイドルの先に」です。 さて、ここで足りなかった「検討」とはなにか?  もちろん生成AI全般に対する権利的な「検討」があるだろう。 たとえば生成AI先進国である英国のStability.ai、米国のOpenAIらは、アーティストたちによる訴訟を多数抱えているとされる。そこでの主な論点は、生成AIの学習に著作物を使うことはフェアユース(公正利用)の範囲に含まれるかどうか、ということだ。 一方、この日本は「著作権や肖像権はどう守られるべきか」という線引きが進んでいる側の国でもある。 諸外国では訴訟になっていることが、日本でなっていないのは、2018年に成立した改正著作権法30条の4で「AIが文章や画像を学習する際、営利・非営利を問わず著作物を使用できると定める」と明言されているからだ。 *ただし、この話題については専門家の間でも解釈に幅があるのも事実で、ぜひ内閣知財委員会で議論した、以下柿沼太一弁護士の意見(及び文化庁の見解に対する感想)も一読いただきたい。「生成AI、画像の特徴が似ていれば「著作権侵害」にあたる? 文化庁の最新見解を読み解く」(弁護士ドットコム ) 概ね「学習に著作権が適用されない」ことと「生成された画像や文章が他社の著作権を侵害しないかどうか」が別とされる場合が多く、たとえば生成AIによって、既に存在する著名な人物やキャラクターに酷似したものを生成した場合、従来通りの肖像権や著作権侵害の罪に問われることになる。 反面、子供が自宅で、あくまで自分の楽しみのためにマンガなどの著作物のキャラクターを描くのは著作権法に抵触しない(ただし日本のディズニーは、1987年に小学生が卒業記念にプールへ描いたミッキーマウスの絵を消させたことがあるが)。 つまり、描く行為そのものは問題なくとも、描いた後に他社・他者の著作権を侵害しているものを販売したりすれば、罪に問われるのは当然で、営利活動に関与していなくても、権利者の心象次第では訴えられる可能性がある...ということになるだろうか。 ここでAIグラビアアイドルの話にもどす。 生成した画像が、実在するグラビアアイドルに酷似していた場合、「そのアイドルの権利を侵害しているのでは」と指摘されることは十分にあるだろう。 しかし、画像だけを見て「この画像のもとになったのは、アイドルAで確定」と断定するのはなかなか難しい。 一方、星の数ほどアイドルがいる世界で、「完全に誰にも似ていないAIアイドル」を作り出すこともまた難しい。顔である以上、目があって、口があって、鼻があって・・・といった基本を簡単には崩せないからだ。 とにかく、そうした課題を抱えたまま、本来は人間に与えられたかもしれなかった仕事をAIが奪ったように見えたのだから、批判が生まれて当然だったのではなかろうか。 なお、現在の生成AI分野では「自家醸造」が盛んに行われている。 ざっくりと言えば、何らかの情報を事前に用意し、自らの目的に向けてそこに大量の情報を追加学習しながら、新しいものを作り出すということだ。 こうした過程を「ファインチューニング」と呼ぶ。 たとえば特定の人物の写真を元にファインチューニングすると、AIはその人物の様々な表情やポーズ、服装の画像を生成できるようになる。 つまり、タレント事務所が、事前にタレントの許可を得て、正式な契約を結んだ上で、その人物をもとにファインチューニングした生成AIグラビアを作れば、問題なく写真集を発売し続けられることになる。 それにより、海外ロケや過酷な撮影に挑むことなく、写真集を発売できるのかもしれない。あるいは年配のタレントでも、若い頃の写真を使ってファインチューニングすることで、若い姿で新しい写真集を出すことができるだろう。さらには病気や怪我で本人が動けない状況にあっても、生成AIを介すことで、新しい仕事ができるようになるかもしれない。 もちろん、いずれも生み出されたものは「公式」だ。 こういった形でAIグラビアアイドルを活用したのなら、ファンにとって歓迎される可能性は高いのではなかろうか。 やや話がそれるが、今年三月に、第一回となるAIアートグランプリが開催された。多くの応募作品の中で優勝したのは、男性が、亡き奥方の遺影を元に自家醸造した生成AIを用いたミュージックビデオだった。 こうしたビデオは、今や各家庭にあるような普通のスペックのパソコンで実現できるし、そのためのWebサービスも既に存在する。今後、愛する人を失った時などに、同様のことを考える人は増えるかもしれない。

中央公論

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